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115.最後の夜を飾る為に

今回のあとがきはちょっと真面目に


幸先よく一発目で電話に出てくれたな。茜さんが駄目だった場合は、静雄さん、凛、綾先輩の順で連絡を取ろうと思っていた。綾先輩が最後なのは察してほしい。厄介な事態なのに更に混迷と化すのだけは避けたいのだ。


「琴音ちゃん。確か修学旅行中じゃなかった?」


「折り入ってお願いがあります。シェリーと連絡が取りたいのです」


「聖華さんに?」


ここからが俺としての本番である。そもそもシェリーの本名が聖華というのも初めて知った。そんな人物相手に出演交渉するなんて無謀もいいところ。成功する確率は極めて低い。そうなった場合、代案は無駄に終わってしまう。


「出演依頼を行いたいのです」


「修学旅行のサプライズだとしたら難しいと思うわよ。ちゃんとした理由がないと受けてはくれないはず」


「理由はあります。その理由は本人に直接説明したいのですが、連絡は取れるでしょうか?」


「琴音ちゃんの連絡先を直接教えてもいいのよね?」


「構いません」


深くは聞いて来ないのは俺の声が真剣そのものだったからかもしれない。切羽詰まっているのは本当なのだ。ここで躓いてしまってはどうにもならない。まず相手を交渉の舞台に上げないと。


「分かったわ。聖華さんも琴音ちゃんには興味があるみたいだから連絡はしてくれるはずよ」


「何で私に興味が?」


「私や綾ちゃんのおかげね」


良からぬ話が流れているのだけは分かってしまった。まさか旦那の家族にすら俺の事を嫁として紹介していないだろうな。いや、茜さんが言わなくても綾先輩が面白がって伝えているかもしれない。


「修学旅行、楽しんで頂戴ね」


「善処します」


「おかしな返事ね。お話、期待しているわね」


そこで通話は終わった。悪いのだが、色々と話せないものがある。特に退院直後に鬼ごっことをしたと伝えたら絶対怒られるのが目に見える。そこは省いておかないと。


「後は連絡待ちですね。折り返しかかってくる確率は高いでしょう」


茜さんの言葉を信じるならば確実に連絡はやってくる。相手はあの霜月と結婚するだけの人物だ。面白いと思える気配を感じたのならば絶対に参加してくれる。何より俺の存在が知られているのならば接触したいと思っている。


「間髪入れずにやってくるのは予想外ですが」


本当にすぐ連絡がやってきたな。表示されている番号を確認しても俺が知っているものじゃない。これが全くの間違い電話だったらスマホを投げるかもしれないが。幾ら何でもそれはないだろう。


「もしもし?」


「シェリーよ。如月琴音さんでよろしいかしら?」


「間違いありません。遠回しな連絡の取り方で申し訳ありませんでした」


「仕方ないわよ。私と貴女はこうやって話すのすら初めてなのだから。それでお話は面白いものかしら? それともつまらないもの?」


やっぱりそういった話の流れになるか。今回の話が面白いものとなるかはシェリーの受け取り方次第。普通の人だったら絶対に面白いとは感じないだろう。だってメインではなく、フォローとしての出演依頼なのだから。


「テーマパークでのラストを飾るナイトショーへの出演依頼です。ですが主役は学園の合唱部であり、シェリーにはそのフォローをお願いしたいのです」


「OK。受けましょう」


「は?」


あまりの即答に俺の方が疑問の声を上げてしまった。それに対して向こうは面白そうに笑っている。どう考えても流れは向こうに持っていかれているな。こういった交渉事には慣れている感じがする。


「お受け頂きありがとうございます。詳しい説明に入っても宜しいでしょうか?」


「やっぱり変わっているわね。大抵の場合は本当にいいのかとかいらない遠慮をするものなのに」


「言質を取ったもの勝ちだと思っています」


話が早くて助かる。本当にヤバい案件だった場合は一応の確認を取るが、こちらも手段を選んでいられる場合ではないのだ。どうやって了承を取り付けようかと考えていたのが馬鹿らしくなったのはあれだけど。やっぱり霜月家は変だな。


「ふむふむ。状況について把握したわ。報酬の件だけど相場は知っているかしら?」


「いえ、私も相場に関しては門外漢です。今回のケースですと高くなるのは目に見えていますが」


アポなしで出演依頼をしているのだ。交渉で有利なのは相手側。こちらは完全に受け身であり、提示されたものを受ける以外に手段がない。しかも相手は有名なビッグアーティスト。法外な値段を言われたとしても驚きはしない。


「無報酬だとあれだから、外部依頼の一般的な値段でいいわ」


「ば、いえ。責任者に確認してみます」


危うく馬鹿なのかと言いそうになってしまった。もちろん責任者は驚きつつも、了承してくれた。一体どれほどの金額を提示されるのかと戦々恐々としていたはず。俺はどうやって値下げ交渉をしようかと思っていたのに。


「でも琴音さん個人には私としてお願いがあるわよ」


やっぱりそう来るよなと心の中で溜息を吐く。お願いと言っているが、ここでへそを曲げられると困るのはこっちだ。相手が霜月家なのだからどのようなものが来るのかは想像できない。


「何でしょうか?」


「いつか我が家へいらっしゃい」


「ではお正月にでも」


「貴女も即答じゃない」


自分から混沌の中に突っ込んでいくような行為だが後悔はない。下手したら実家に乗り込む前に燃え尽きる可能性もあるのだが、そこは何とかしよう。どちらにせよ、いつかは行かないといけないなら早い方がいい。というか何だ、この交渉は。


「それじゃこれからそちらに向かうわ」


「宜しくお願いします」


何かドッと疲れてしまった。これは断じて交渉事ではない。ただの世間話だとしても不思議じゃないな。まだ事態は解決していないが、シェリーを呼ぶことには成功した。だけど俺は大事なことを忘れていた。


「これで学園側の許可を取れなかったらどうしましょうか」


俺の呟きに周りがギョッとしたような顔をしたが仕方ない。本来であればこのことも伝えないといけなかったのだ。あまりにもあれな会話ですっぱりと頭の中から抜けていたのは寝不足の為かな。


「お、おい。大丈夫なのか?」


「気軽に構えていてください。学園への交渉なら不安はありません」


別に切り札を切る必要もない。普通に今回の事態を説明して、どのような方法を取り、サポートに関して話、安全性を説く。実際に実践したら学園長からは簡単に了承を取れた。ついでにデートについての再確認をされたけど。


「あの心配性め」


「了承は取れたのかね?」


「大丈夫でした」


大いにやる気を出して現地の教師へ連絡すると言ってくれた。何というか生徒相手へ教師との恋愛相談をする学園長は世間的に見て大丈夫なのかな。確実にアウトの部類に入ると思うのだが。


「教師から私へ集合場所の連絡が来るでしょうから、イベントの変更点について今の内に話し合っておきましょう」


仮にこれで合唱部が辞退してきたら本気で俺が歌わないといけない事態に発展してしまう。そのリスクを承知で今回の事を企画したのだから後悔はない。そうなった場合、シェリーが暴走しそうな気がするけど。


「大まかな所ではこのようなものでしょう。細かい面に関しましては皆様にお任せ致します」


後はプロの人達に任せれば大丈夫だ。俺から言えるのはあくまで提案であり、素人が勝手に口を出しているだけ。却下されるものもあれば、承認されるものもあった。これでも馬鹿達と馬鹿なことをやっていた経験があるからな。正に何が役に立つのか分からない状態。


「後で音源と歌詞をお貸しください。私も最後までお手伝いさせていただきます。いらないとの声があれば引き下がりますので」


メインになろうが、フォローに回ろうが原曲を知らなければ何も出来ない。ここで俺を呼ぶ声が聞こえたので振り向くと怖い顔をしている近藤先生が手招きしている。いや、今回の原因は俺じゃないのだが。


「すみません。席を外します」


後は俺がいなくても勝手に進むだろう。詳細については本番前に確認すればいい。何故、合唱部の顧問でもない近藤先生がいるのかは俺が原因であることが容易に想像できる。後は小鳥の所の担任も来ているだろうな。


「お前は自重するということを知らないのか」


「発端は私じゃないですよ」


「拡大させたのはお前だろ?」


「はい」


正直に話したら盛大に溜息を吐かれてしまった。これが教師という立場でなければ乱闘騒ぎになっていても不思議じゃないな。だって拡大させないとイベントの最後でガッカリが待っているのだぞ。それは修学旅行としては防ぎたいじゃないか。


「合唱部の連中は大騒ぎだぞ。一応は情報の拡散を防いでいるが時間の問題だな。何をしたのか分かっているよな?」


「強制退場ですよね。これが終わったら」


俺一人だけの問題ではなく、学園を巻き込んでの大騒ぎだ。そんな事態を引き起こせば幾らなんでも庇うことも出来ない。しかも一人で責任者と打ち合わせまでしてしまっているのだ。どう考えてもやらかしている。


「その覚悟があってやったんだよな?」


「いえ、全く」


穏便に済まないかなと希望的観測を持ってやったのだ。結果は最悪なケースになったけど。俺の返答で思いっきり顔を顰めただけで済ませた近藤先生の忍耐力も凄いな。まともな教師なら怒鳴るぞ。


「思い出作りとしては最高の舞台を用意しました」


「教師陣にとって絶対に忘れられない思い出を作るな」


急遽、大掛かりなイベントを生徒の一人が勝手に突っ走って作り上げてしまったからな。幾ら学園長が許可を出したとしてもこれが失敗した場合の事を考えれば、どのような責任を取らされるのか分からないな。そこはちゃんと庇ってあげるぞ。


「何でこうなったんだよ」


「原因を作ったのは間違いなく文月の父親ですね」


仮定の話をしよう。もしも小鳥がイベントに参加しなければ俺の存在が着ぐるみにばれるようなことはなかった。パーク内で遭遇するかもしれないが、そちらの方が確率は低い。大体このゴタゴタの状況で俺を探すような真似はしないだろ。


「やっぱり十二本家はまともじゃないな」


「その中に私も含まれているのは納得できません」


「この状況を作ったお前が否定できると思うなよ」


それでも俺はまだまともな部類に入ると自負している。あんな頭のネジが何本もぶっ飛んでいる連中と一緒にされたくはない。他人から見たら俺も相当な部類に分別されるのは知っているけどさ。


「それで合唱部は了承してくれましたか?」


「意外と乗り気だ。こういった舞台に立てるのなんて本来ならないからな。記念になると思っているんじゃないか?」


「ならちょっとプレッシャーを与えておきましょうか。責任感というものを知ってもらわないと」


「容赦ないな。お前は」


心構えの問題だから。遊びの延長であると思われていたら困るのだ。これは商業目的の本当の意味で仕事。つまり失敗した場合、責任問題へと発展する。もちろん生徒が負担するものじゃない。俺が担うべきもの。


「匙加減が難しいのですけどね。やり過ぎれば硬くなり、少なければ緊張感に欠ける」


「何で如月がそれを知っているのか謎だな」


深く突っ込んではいけない話題である。どちらにせよ、今回の場合ならプレッシャーを幾ら与えても結果は変わらないだろう。大勢の観客の前で歌うというのがどういうことなのか理解すればな。


「ブーイングが飛ばないといいけど」


本来の歌手ではなく、学生が歌うと知れば他のお客にとってはガッカリどころの話ではない。過激なお客ならヤジを飛ばしてきても不思議じゃないからな。それに合唱部が耐えられるかどうか。


「その時は私が前面に出ないといけないよな」


フォローするということは守ることにも繋がる。ただし俺へのヤジは注意した方がいい。何処かの誰かから何かが飛んでくる場合があるからな。それに関して俺がどうこう出来るはずもない。

前回の大幅改訂についてご説明します。

感想でご指摘いただいた件で筆者が納得したのは脅迫紛いの行動についてです。

毎回そんなことばっかりやっているような気もしたので。

ただそこを変更した場合、過去の人物を登場させる意味があるのか。

そして琴音を納得させる理由。責任者を説得する理由。琴音をメインではなくフォローに回したのは何となく。

一番の問題点はこれが一話完結ではなく、まだ続くという点ですね。

後続へどうやって繋いでいくのかも考えないといけませんから。

構想の練り直し自体はあっさりと終わったのですけどね。

でも筆者がやりたいから書き直したのが一番の理由です。


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