表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
117/237

112.トラブルは忍び寄る

遅くなりましたが、本年もよろしくお願い致します。


バスに揺られること一時間くらいだろうか。実際は爆睡していて時間なんてあっという間に過ぎた訳なのだが。隣に座っている香織に叩き起こされて目を覚ましたのだが、全く寝た気がしない。


「眠い」


「真面目に爆睡していたわね。徹夜明けなら仕方ないけど」


「何して徹夜したのよ?」


席としては俺と香織が隣同士。そして晴海と宮古が後ろの席になっている。基本的に今日はこの四人で行動することになる。そして後ろから顔を出して、俺に尋ねてきたのが晴海だ。


「思い出話に花が咲いただけです。語り部は私。聞き手は勇実ですね。醜い争いをしながら徹夜した次第です」


「琴音の思い出話というのは興味があるわね。勇実さん達との出会いとか?」


「それとは違います。それに私と勇実との出会いなんて感動的なものじゃありません」


俺が思い出話を語れるのはこの中だと香織だけ。それ以外の面子にはまだ俺としてのことは秘密になっている。そもそも信用されるとも思っていない。香織だって半信半疑みたいな感じだと思っている。


「そもそも琴音はいつの間にベースを学んだのよ。プロの人達に全然引けを取っていなかったし、息もピッタリだったじゃない」


「それについては私も気になるかな。琴音が秘密裏に動いていた様子はなかった気がするし」


晴海と宮古からの追及に何と答えていいか悩んでしまう。恐らく二人の疑問はライブを見た人達、全員が思っていることだろう。それに対する回答を俺は用意していない。どのようなものを選んだところでそれは全て嘘なのだから。


「琴音の答えも気になるけど。残っているの私達だけだからね」


香織が起こしたのは目的地に到着したから。クラスメイト達が全員降りたのだからバスの中に残っているのは俺達だけ。待たせる訳にもいかないから俺達も行動しないと。それにこれが香織のフォローなら大変ありがたかった。


「私と勇実達との話は追々ですね。まだ話せる状況ではありませんから」


「あまり話したくないなら私は別に構わないけど。今回みたいなイベントは定期的に見てみたいかも」


「無茶を言わないでください、晴海」


あんな突発的なイベントを定期的に開いていたら俺はイグジストに正式加入していることになるぞ。しかもあんな無料のゲリラではなく、普通のライブだ。友達枠で無料で招待されると思っているのだろうか。そんなの初回だけだ。


「それにしても琴音の私服を久しぶりに見るけど、随分と変わったね」


「コーディネートは香織ですけどね。私のセンスですと代わり映えがしないと苦情を受けましたので」


宮古がジロジロと見てくるのだが、俺の恰好はいつものワイシャツとは違う。修学旅行位は恰好を見直しなさいと香織に言われ、一緒に買い物した結果である。それに加えて逃亡劇で使用した帽子と、借りた伊達眼鏡を装着している。


「絶対に可愛らしいものは着てくれなかったけどね。結局は凛々しめに揃えることになったわ」


スカートや女性らしい恰好は俺として抵抗感がある。琴音になってから半年以上が経つというのに改善される見込みが一切ない。その原因が何処にあるのかは俺にだって分かっていない。結局は慣れる以外に方法がない気がする。


「髪型まで変えたのは何で?」


「単純に変装の意味合いしかありません。どれほどの効果があるかは分かりませんが」


帽子、眼鏡、そしてサイドポニー。この程度で琴音の事を見失う人がいるかどうか。昨日は上手い具合に嵌っていたが、今日もそれが上手くいくかは分からない。一回成功したから二回目もというのは安易な考えだ。


「後は後ろの人達の目が怖いんだけど」


「宮古。諦めてください。あれは昨日の弊害です」


後ろにいるのは絶対に俺の事を見失わないぞと危険な眼差しを送ってきている護衛の人達。最初から四人揃っているのは珍しいのだが、それだけ昨日の件が堪えているのだろう。大丈夫、今回は俺から逃げる気はない。


「話は聞いていたけど、結構なことをやったみたいね」


「私と晴海まで除け者にして京都を満喫していたなんて」


あれを京都観光といっていいのだろうか。見つかりそうになったら即移動。発見されることをなるべく防ぐために行く場所すら制限していたのだから自由な観光ではなかったな。それでもある程度回れてしまったのも事実。


「私の暴走を誰も止めてくれなかったのがいけなかったのです」


「勝手に責任転嫁しない。あの人たちだと悪乗りするばかりだから仕方ないけど。今回は私がストッパーになるわ」


奈子も瑠々も俺の行動を止める前に煽るような連中だからな。ストッパーになってくれるような人物がいなかったのが原因の一因でもある。蘭が一緒だったなら止めてくれるだろうが、残念ながらその時はいなかった。


「行き先は三人に任せます。私としてはやる気が起きませんから」


「夢の国みたいな場所へ来て、テンション上がっていないのも珍しいと思うわよ」


香織よ。俺は現在徹夜中であることを忘れてはいけない。バスの中でたかが一時間寝たところで改善できるものじゃないのだから。逆に疲労感が残るのが当たり前。夜行バスなんてそれが名実に物語っている。


「最初に行列が出来そうな場所を攻めようか。後はそれぞれが行きたい場所を優先しつつ、パレードを見たら」


三人が行程を決めている中で俺だけがボーと空を眺めている。気持ちのいい快晴なのだが、風が吹けば寒い。時期としては冬だからな。それなりに温かい恰好を意識したのだが、それでも寒いな。風邪を引かない様に気を付けないと。


「琴音は苦手なものとかある? 絶叫系とか恐怖系とか」


「私がそれを教えたらそこら辺を重点的に回りそうですから答えません」


香織から聞かれたことに対して適当に濁しておく。それを話して以前は本当にそういう系統しか乗らなかった馬鹿な連中を思い出す。途中で俺がギブアップを宣言したのが、他の連中だって大分グロッキーだったな。


「別にそんなことはしないわよ。参考程度に聞きたいと思ったの」


「絶叫系が苦手です。乗れないほど嫌いという訳ではありませんが、あの無重力感覚が好きになれません」


「なら一番最初は琴音の目を覚まさせるためにやっぱりあれよね」


こうなることは予測できていた。俺に何かしらの恨みでもあるのだろうか。香織に恨みがましく視線を送ってもどこ吹く風。全く気にした様子がないのだから香織も神経図太い。これは俺の影響じゃないよな。


「いいですけど、目が覚める前に気持ち悪くなる可能性もありますよ」


「そうなれば責任を取って私が付き添ってあげるわ。無理強いはもちろんしないけど」


別に苦手なだけで付き合う程度には問題ない。それにこのテーマパークにあるものは比較的難易度が低いものばかり。マジなものほど乗る気が失せる。スリルを好んで得たいとは思わないんだよな。そしてゲートを通過して中に入ったことで生徒たちは本格的に散らばり、自由行動となる。


「確か、落下の瞬間に写真撮影があったわよね」


「期待はしないでください。私の場合は大体面白みのない顔をしていますから」


ニヤニヤと聞いてくる晴海だが、俺の写真写りの悪さを知らないのだろうか。記念撮影みたいなものだけど、俺の顔は恐怖に引き攣っていたり、笑顔を浮かべて楽しそうにしているようなものじゃない。


「それにこの程度のものなら意外と平気です」


最高時速何キロとか、高さ何メートルからの落下とか、日本記録保持とかのものに比べれば本当に楽な部類に入る。それでも友達と乗っていると楽しい気持ちになるのが不思議でならない。乗っている最中に笑顔になることはないけどな。


「記念になるかどうかは私達次第よね」


乗って、降りて、写真を確認した瞬間の何とも言えぬ表情。そりゃ俺を除いた全員が楽しそうな表情をしているのに、俺だけ表情が違えばそうなるよな。この結果を予想していたから記念写真については諦めていたのだ。


「凄まじいまでの真顔だよね」


「宮古。私に写真を期待するのは間違っているから。撮られると分かった瞬間に真顔へ変わるほど写真が苦手だぞ」


「あっ、戻った」


周りに他の生徒がいないからな。先程までは入り口に生徒達が密集していたから言葉遣いを変えていただけ。現在もちらほらと見えるが、これだけ賑やかならば目立つこともないだろうと判断した。


「それにしても並びが苦痛だな。主に眠気で」


「風が冷たいと言っても日差しはいいものね。でも昔に比べたらスマホが普及しているからそれほど暇じゃないと思うわよ」


香織の言う通り。並びの間でもスマホを弄っていれば時間を気にしなくてもいい。だけど俺はそこまでスマホを弄ることもないから、ただボーとしているだけ。おかげで眠気で何度かふらついてしまった。


「琴音が寝ない様に話題を振るのが大変だよ」


「そんな様子は見受けられないけどな」


この中で一番話しかけてくるのは宮古ではなかろうか。並んでいる間も俺とイグジストの関係を聞いてきたり、次は何に乗ろうかと話したりと話題が尽きることはなかった。眠気を堪えている俺としては相槌を打つだけで精いっぱい。


「でもやっぱり人気のあるアトラクションは並んでいる時間が長いね」


「平日なのにこの混みようは流石だよな」


季節的にまだ学校だってあるはずなのに子供連れの家族が見受けられるのはどうしてだろう。小さな子供が楽しんでいる姿は微笑ましくあるけど。俺は小さな頃にこういった場所へと訪れたことはない。地元が遊び場だったな。


「絶叫系もあまりないから、次はゆっくりと楽しめるものにしようか。その前に何か買って食べよう」


「本日はテンション高いな。宮古にとって今日は楽しみな場所だったのか?」


「そりゃ此処に来てテンションが上がらないのはおかしいよ。昼のパレードだって絶対に見るからね!」


宮古のハイテンションぶりに香織と晴海も若干引き気味だ。特に俺は何故か危機感を覚える。先程、宮古は買うとか言っていなかっただろうか。食べ物なら俺も歓迎しよう。ついでに仮装みたいなものまで買うかもしれない。


「宮古。まさかと思うが、変なもの買わないよな」


「買う訳ないよ。それに琴音は帽子とか被っているから無理だと思うから」


結果的に俺は被害から免れた。逆に香織と晴海はよく分からないカチューシャを被ることとなったのだが。簡単な変装をしておいて良かった。あれを被って記念撮影なんかされたら、色んな方面から声が掛かる。主に馬鹿とか家族とか。


「慣れれば何ともないかな。此処を出たら速攻で外すけど」


「香織に賛成。中なら他の人達もやっているからいいけど。外に出たら正気に戻りそう」


そんなものだろう。あくまで中が夢の国のようなもの。現実に戻った瞬間、我に返るのは当たり前。俺なんてテンション上がらずに平然としている。だって前日にあれだけハイテンションだったのに二日連続とかきつすぎるから。


「昼のパレードは何時からなんだ?」


「十四時頃だね。それまでに昼食取って、場所の確保をしないと」


宮古の本気モードなんてこれが初めてではなかろうか。話を聞けばパレードの主役みたいなお姫様は来園者から選ばれる場合もあるらしい。そういった人には事前に許可を貰いに来るらしいから俺達には関係のない話だ。


「宮古もお姫様になりたかったか?」


「流石に壇上へ上がって目立とうとは思わないよ。あくまで見るのが好きだから」


だよな。誰が好き好んであんな注目を浴びるような場所へと赴くのか。記念になるのは確かだが、あとで黒歴史にでもなりそうな気がする。小さな頃ならまだいい。元の年齢から考えたら、俺は絶対にやりたくはない。


「あれって抽選で選ばれるんじゃなかったか?」


「応募者の中から決めるらしいよ。欠席とかあった場合は園内で代理を決めたり、スタッフが務めるらしいけど」


意外と香織も知っているのだな。常識なのだろうか。俺としてもこのテーマパークには来たこともないし、興味もなかった。下手に馬鹿どもを連れてきたらどんな騒ぎになるか分からないからな。


「何か寒気がした」


「寝不足で風邪とか止めてよね。リーチ掛かっているの忘れないでよね」


そういった類の寒気じゃないのだ、香織。これは嫌な予感がする場合に感じるもの。俺の知らぬ場所で事態が動いているのではないだろうか。しかも俺に飛び火するようなものが。周囲を見渡しても異常は見受けられない。


「寝不足で感覚が鈍ったか?」


今回は大人しくしているのだ。俺からトラブルに突っ込むような事態ではないはず。ならば誰かが俺を巻き込もうとしているのか。そんなの防ぐの無理だろ。

インフルによる寝正月でした。

姉の育児も順調。父も退院と平穏を過ごしつつ。

筆者はネット詐欺に遭遇しました。回避はしましたけどね。

相変わらず平穏無事な月とはなりませんでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ