104.魔窟の住人達
書き直しが終わりました。
変更点は登場人物の減少。
合わせてサブタイトルも変更となります。
開始の時間が近づいてきて、会場に入ってくる人の数も増えてきたな。それはいいのだが、想定よりも人数が多いのは何故だろう。護衛の人達の数が多いのは分かる。午後の鬼ごっこで結構な数を動員していたのだから。
「クラスメイトもまだ分かる。教師が参加してきているのもばれたからだろう」
晴海辺りから情報が洩れてクラスメイト達が参加。そして大人数での移動で教師に発見されて、事情を説明したら教師が同伴することになった。そこまでは想像の範疇内だ。だけど分からないグループがいるのだ。
「何で黒服の人達がいるんだ?」
あれは葉月先輩の黒服ではないだろうか。確証はない。だけど夜にサングラスを付けているのが印象的なんだよな。あの二次会の時だって同じ格好をしていたのだから。だけど撮影機材を持ち込んで何をやろうとしているのだろう。
「すみませんが、どちら様ですか?」
「葉月様に頼まれて、今回のライブを中継するように仰せつかったものです」
何をしているのだ、あの人は。ライブをやるという話は葉月先輩に対して一切していない。小鳥には連絡しているけど。相変わらずあの人の情報網は訳が分からない。大体何で都合よく黒服の人達がここに現れることが出来たんだよ。
「私が駄目だと言っても」
「我々は強行させて頂きます。それが職務ですので」
凄く可哀そうに思えてきてしまった。無理難題でも葉月先輩に頼まれては断ることも出来ない黒服さん達。背中から哀愁を漂わせるこの人たちの願いを断ることなんて俺には出来そうにない。
「頑張ってください」
「ありがとうございます」
取り合えず、葉月先輩には連絡しておいた方がいいな。主にライブをどうやって中継するのか。動画投稿として一般公開されたのでは勇実達にも迷惑が掛かってしまう。出来れば自分だけで見れるようにしてほしい。
「葉月先輩。中継の件なんですけど」
『それより琴音。駄目じゃないか。そういったイベントは事前に僕を通して貰わないと困るよ』
「私のマネージャーのつもりですか。これだけ距離が離れているのですから参加するのは無理があります」
『無茶を通してこその道理じゃないか』
通すなよ。事前に連絡していたら授業をサボってでも参加するかもしれないじゃないか。ただでさえ魔窟の連中が参加するかもしれないのに、これ以上の無秩序の原因を招きたくはない。何より連鎖反応で何かしら起きそうじゃないか。
「来るな」
『直球で来たね。でも僕だって譲らないよ。午後だって護衛の人達と楽しいひと時を送っていたみたいだしさ』
「一体何処から情報を掴んでいるんですか?」
『もちろん企業秘密さ』
俺はずっと監視されているのだろうか。それか護衛の人達から何かしらのトラブルが起きた場合は連絡するようにと伝えてあるのかもしれないな。今回の場合は俺の方が早くて事後報告になってしまっていたのだろう。
「それより中継の件なんですが、一般公開とかしないでくださいよ」
『大丈夫。ちゃんと知り合いのみだからさ。僕と綾と薫位だよ。それ以外には公開するつもりはないから』
なら大丈夫か。修学旅行から帰ってからが大変なことになりそうなのが目に浮かぶ。木下先輩はまだいい。問題となるのはやっぱり綾先輩だろう。葉月先輩と同じで何故自分を呼ばなかったのかとクレームが入りそうだ。
「それならいいですけど。あまり黒服の人達に負担を掛けない方がいいですよ」
『これで賃金を貰っているのだから多少の無茶はいいと僕は思うね』
これが多少の無茶なのだろうか。結構なハードワークだと思う。急遽現場へと向かい。その最中に撮影機材や中継用の機材の準備に運搬とやることは多い。別途手当でも出ないと割に会わないのではないだろうか。
「それでは開始まで間もなくなので切りますね」
『楽しい土産話を期待しているよ』
期待されたとしても全部葉月先輩なら知っているのではないだろうか。俺が実際に動いてやった騒動なんて鬼ごっことライブのみ。それ以外は特になかったと思う。もう一人の琴音との邂逅なんて語ることは出来ないから。
「やっぱり何事も起こらずに始めることは出来ないか」
「人生何もかも上手くいくなんてあり得ない。だからこそそのハプニングを大いに楽しむのがいいじゃないか」
通話を切って、独り言を呟いたら聞き覚えのある声で反応が返ってきてしまった。俺として、そして勇実達にとっても、もっとも来てほしくはない人物の声が。他の愉悦連中ならばまだ妥協できるのだ。だけどこいつだけは駄目だ。
「最悪だ」
「人の顔を見て、開口一番にそれは酷くないかな」
思った感想を素直に喋っただけだ。目の前にいるのは元クラスメイトであり、愉悦の筆頭。数々の問題行動の中心人物といっても過言ではない。こいつの所為で問題が、大問題に発展したのが数多く記憶に残っている。
「げっ、悟が来やがった」
「誰か塩撒け、塩!」
「終わった」
「記念すべき日に来るなー!」
新八、一、歳三、勇実の感想ですらこれである。それでも嫌われているわけではない。大迷惑な存在だと思われているだけなのだから。問題を発展させるのだが、きちんと解決するところまで面倒を見てくれるから頼りにはなる。ただし被害は大きくなってしまうのだが。
「皆、酷いな。そこまで言われたら悲しくて本気を出そうと思うじゃないか」
「大人数に迷惑が掛かるから止めてください」
俺からの本気の懇願である。悟が本気を出して場を支配し始めたら、俺以上の惨状が展開されてしまう。司令塔として俺以上の適任だからな。誰を何処に配置して、何をすれば最善の結果を出すことが出来るのかが分かっている。だけど最善の結果は悟にとって面白いことだから結果は言わなくても分かる。悲惨の一言。
「冗談だよ、冗談。僕だって場は弁えるよ」
信用できないと反射的に言葉が出そうだった。出してしまえば悟が調子に乗ってしまうから自重したのだが。でも愉悦が悟一人だけならまだ何とかなる。個人での能力はそこまで高くないから。
「琴ちゃん、元気になって良かったー!」
愉悦が悟一人で済むはずがないとは分かっていたんだけどな。綾香に瑠々、そして抑え役の蘭に奈子。もう一人はパーカーで顔が見えないが作詞作曲担当の白瀬であることは分かる。以前の私服と変わっていないから。
「うん。諦めよう」
「琴ちゃん!? 諦めるの早いよ!」
勇実に何を言われようが今回のライブが無事に何事もなく終わるはずがないと確信してしまったのだ。何が起こるか分からないが、絶対にこの中の誰かがやらかすと想像できるんだよ。
「よく考えろ、勇実。愉悦四人に対して抑え役二人だぞ。どう考えたって無事に済むはずがない」
「……うぅ~」
唸るだけで言い返すことすら出来ない時点で勇実だって状況を理解しているのだ。他の男性陣なんてすでに諦めムード一色。これが一周回ってヤケクソ気味に踊らされるのだ。悟によってな。
「白瀬もよく来ましたね。太陽は天敵ではなかったのですか?」
「悟に連行されてきた。太陽光なんてクソ食らえ。インドア万歳!」
過去にお前は吸血鬼かと突っ込んだことがあったな。それに俺がそれを知っているような発言をしたのに誰も突っ込んでこないのがおかしい。魔窟である程度は俺の情報が回った結果だろうか。
「愉悦の方々にお願いがあります。今回だけは自重して頂くと大変助かります」
俺からの懇願に対して、愉悦連中はニヤリと笑みを浮かべるのみ。嫌な予感しかしない。こういう顔をする時は大抵良からぬことを考えているのだ。でも今回は事前準備も出来なかったはず。そこまで規模は大きくならないと希望は持てる。
「えっと、抑え役の方々」
「「無理」」
お願いする前に断られてしまった。無茶なことを頼もうとはしたさ。だけど俺の言葉を遮ってまで声を発さなくてもいいじゃないか。即答よりも酷い。人数的な不利なんて奈子に掛かれば力業で何とでもなると思ったのに。
「瑠々にとって作品への刺激になれば私は黙認する」
「私も綾香に何かしらの刺激が加わればそれでいいわね」
つまり何もする気はないということか。作家の担当と女優のマネージャー。自分達にとって益となるならば犠牲も厭わないのだな。一番高校時代から変わったのはこの二人ではないだろうか。
「裏切り者め」
俺の恨み言にもどこ吹く風。全く気にする素振りすらないな。だけど俺は信じている。この二人ならある一線を越えそうならば愉悦連中をしっかりと抑えてくれると。完璧に抑えられるとは思っていないけど。
「気になったことがあるのですが、悟は何処から今回のことを知ったのですか?」
「魔窟に決まっているじゃないか。現在、大炎上中だよ」
どれどれと勇実と一緒にスマホを覗いてみる。俺のスマホでは無理だから。別にパスワードも知っているから入ろうと思えば入れるのだが、流石に琴音で入室するわけにはいかないだろう。そして覗いて納得。確かに炎上しているな。
「当日に開催決定とか馬鹿か。スケジュール空くわけないだろ。五人揃ったの私だって見たかったとか殆ど文句や苦情で埋め尽くされていますね」
「更にドン」
悟の言葉と共に新たな文字が入力された。
『僕は来れたよ。何でこんな面白イベントに参加できないのか不思議で仕方ないよね』
滅茶苦茶煽ってやがるな。同時にあっという間に悟のコメントは流されていった。後に続いたのは悟に対しての罵詈雑言。敢えて俺からは何も言わない。言葉にするのも憚られる内容であるためだ。というか連中は暇なのかよ。
「苦労人たちですら遠慮が無くなっているのは凄いです」
「やっぱり来たかったんじゃないかな。ずっとイグジストとして四人でやることを譲らなかったからさ。白瀬もやるなら納得できるメンバーでやるべきだと主張するしさ」
「息が合わないと私の曲は演奏できない」
息が合っていたとしても技術が無ければ白瀬の曲は無理なものが多い。勇実達だって何曲かは無理だと嘆いたものがあったはず。超絶技巧が必要な曲を普通に提供してくる白瀬が悪いのだ。それは俺だって同じ意見である。
「その点、琴ちゃんなら大丈夫だと私は太鼓判を押す。勇実達が認めたのであれば総司と同じことが出来るはずだから」
「ベース触ってから一か月も経っていませんけどね」
流石の白瀬も俺の言葉に目が点になっている。白瀬の予想ではそれなりに楽器を触っていた経験者だと思っていたのだろう。確かに知識としては俺の経験がある。だけど実際に琴音は楽器を演奏したことなど学校の授業程度なのだ。感覚はすでに掴んでいるから何ら支障はないんだけどな。
「えっ、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫。琴ちゃんなら大丈夫だよ」
何を根拠に大丈夫を連呼してるのだ。勇実だって俺の演奏は一度たりとも見ていない。先程やったことだって軽く弾いてチューニングした程度。俺だって不安を感じているのに。以前の感覚で演奏して本当に勇実達と合わせることが出来るのか。
「何を根拠に?」
「ネタばらししようか。琴ちゃん、一番恐ろしいものは何かな?」
「師匠」
勇実の質問に対して俺の答えは即答である。悩む必要すらない。次点で義母だな。あの二人以上に怒らせてはいけない人物を俺は知らない。それでも何度か経験はあるのだ。勇実のとばっちりで。
「「なるほど」」
これで納得してしまう悟と白瀬もやっぱりおかしいな。この質問と答えだけで俺と結び付けられる発想力は何処から生まれてくるのか。そしてどうしてそれで納得できるのか詳しく聞いてみたい。それと俺の事を見る目が変わったぞ。主に昔に戻りやがった。
「何で僕たちのことを色々と知っているのかと思ったらそういうことか」
「驚き。でも超常現象として片付けることも出来る。あっ、何か降りてきた」
バッグからノートPCを取り出していきなり作曲作業に入り始めたな。過去にはよく見た光景だ。しかし本当にそれでいいのか、お前達は。そんな超常現象で納得できる事情では絶対にないだろ。
「やっぱり頭の中身おかしいな、こいつ等」
「今更じゃん」
勇実の言葉に納得してしまう俺も相当に毒されていると思う。この後に根掘り葉掘りと質問攻めに合いそうなったのだが、ライブの始まりということで俺は逃げた。絶対にライブどころではなくなってしまうのが目に見えるのだ。
「どうせ後で捕まるのだから無駄な努力だと思うな」
無駄な努力だと思うのならお前を盾に逃げてやるよ、新八。それじゃ混沌と化すであろうライブの幕開けだ。
久しぶりの一話まるっと書き直しでしたね。
ご指摘して頂いた方々ありがとうございます。
読み直してみたらかなりゴチャゴチャしていたと思います。
それとネタはないと書き直し前に書きましたが、嘘です。
当たり前のこと過ぎて忘れていただけでした。