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100.鬼ごっこ対決


護衛の人達が必死になって探している最中だろうと思われる頃、俺は逃亡を開始した場所からそれほど離れていない所で甘味に舌鼓を打っていた。もちろん昼食はきちんと取った後のこと。


「流石はリサーチした場所だけのことはあるな」


「相変わらず観光には全力を出すんだな。むしろよく腹に入ると思うよ」


そんなことを言いつつ、自分だって俺とは違うデザートを食べているじゃないか。簡単に来れる場所じゃないからやれることは何だってやるのは普通じゃないか。ちなみに俺の恰好はいつもと違っている。髪は結んでおらず、私服の上に先程買った黒のジャケットを羽織っている。


「それじゃ目的について聞いておこうか。観光以外の目的もあるのだろ?」


「言わないとダメ?」


「当たり前だ。巻き込んだ責任としてそれ位は答えろ」


それを言われると断れないよな。確かに今回の行動に関して理由はある。観光するだけなら皆に合流してからでも何の問題もない。単純に回れる場所が少なくなるだけだから。


「一つは元気になったことを他の人達に知らせる為」


「その結果は?」


「さっさと戻ってこい、馬鹿。との返事が返ってきた」


返信者は香織。送ったのは晶さんと同じ画像。他にも家族など、俺が倒れたことを知らされたであろう人物たち。母からは無茶なことをしないようにと返信が来たけど、現在無茶をしている最中である。


「当たり前の結果だな。だけどまだ戻らないのだろ?」


「当然。二つ目が予行練習。本命はこれ」


あるかもしれないことへ対しての練習。別に誘拐されることを考えてのことじゃない。俺の事を誘拐しようと考えている連中などそれほどいないだろう。全くと言わないのは自惚れではなく立場の問題だから。


「何の予行練習だ?」


「別に奈子たちには関係ないことだぞ」


「お前がそう言っても説得力がないのよ。いいから話せ」


ぐにっと頬を掴まれたので仕方なく食べることを中止する。会話に参加していない瑠々は外を警戒中。俺が外を監視していても顔を知られているのだから見つかったら終わりだ。


「琴音の父親が抱えている護衛との対決を想定しているんだ。俺はあいつ等が嫌いだから」


「そんなにか?」


「会社だとしたらぶっ潰したいくらいに」


忘れていた記憶を思い出した影響だ。ちなみに俺も嫌いなのだが、琴音もあいつ等のことが嫌いである。俺は問答無用に組み伏せられたから、琴音は俺と強引に引き離されたことに対して怒りを抱えている。あの時の奴らの行動はやり過ぎだったのだ。そして二人分の怒りを抱えているから苛烈さも増す。


「私達が協力すればその位やれそうな気がするのだが」


「だからお前達の力は借りない。これは私としての問題なのだから。私としての人脈を使って何とかする。文字通り、何だってやってやる」


同級生達が全員集合して本気を出したら、一社くらい潰すのなんて訳ないだろう。その代償として現在勤めている場所を失う可能性を孕んでいる。俺の都合でそんなことをさせるわけにはいかない。あいつ等だったら面白ければ乗ってくる連中が多いからな。


「琴音が本気出した方がもっとヤバいと思うのだが」


「お前達全員が参加するよりは穏便だと思うぞ」


「それはそうだが。動き方次第では私達よりも悲惨だぞ」


簡単に会社なんて潰すことが出来るからな。だけど相手は琴音の父親だ。俺が何をしたところで握り潰してきそうな予感はする。それも同級生たちを参加させたくない理由なのだ。だから父親であろうとも簡単に握り潰せない方法を模索している最中。


「個人で逃げるのはやっぱり限界があるよな」


「相手はプロだから。幾らお前がかき乱したところで限界は訪れる。一回でも捕まったらアウトだ」


奈子ほど強くはない。脚力に自信があったとしても車やバイクを使われたら負けるのも必然。今回みたいに人混みを利用するというのも地元では使うことが出来ない。個人ではどうやっても負けることが確定している。


「時期を利用するか」


「本当に私達の手は借りないつもりか?」


「下手に借りると父親の手が伸びてくる。それこそどうしてお前達と縁があるのか調べられる可能性もあるからな。極力借りないつもりでいる」


調べたところで何も出てこないはずなのだが。唯一の繋がりとして俺と琴音との関係が出てくる可能性がある。そこから情報を拾われたら隠しようがなくなってしまう。別に俺の正体がばれる訳ではないのだが。


「そろそろ移動しようか。送った画像で目星付けられそうだから」


「それが分かっていて何故やるのか」


「そっちの方が面白くなりそうだろ?」


「確かに」


ノーヒントで俺の事を探すにしても京都は広すぎる。俺も土地勘がないが、護衛の人達にだって土地勘がありそうな人はいないはず。もしかしたらいるかもしれないがその人だけが知っていても限界があるだろう。だから敢えてヒントを与えているのだ。


「さてと、次はお土産でも見繕うかな」


「琴音、周囲警戒。多分、近づいてきている」


瑠々からの警告にこれも先程買った黒い帽子を被る。少しでも顔が隠れていた方がいいだろうと思っての購入なのだが、結構お金を使っているな。修学旅行なのだから仕方ないと思っているが、あとで使用金額を見て凹みそうになるかもしれない。


「凄いな。もう探し当てたのかよ」


「これが本職の本気というものか。瑠々にはいいネタになりそうで助かる」


奈子と瑠々が協力してくれた理由が小説のネタの為。本職との鬼ごっこなど普通では体験できないことだから。だけど瑠々の索敵能力は群を抜いている。むしろ予知能力ではないのかというほど圧倒しているからな。


「気を引き締めないとすぐに捕まりそうだな」


「捕まったとしても私が何とかする。だけど回数は限られるから。よくて二回か三回だろう」


本職相手に格闘戦挑んで勝つ自信がある奈子もおかしい。特に何かを学んでいる訳でもないのに他者を圧倒するからな。以前聞いたのだが二人とも、おじさんからスカウトされていたらしい。即答で断ったらしいけど。


「頼もしい限りで。それじゃ次の目的地に移動するぞ。瑠々は引き続き警戒を頼む。奈子は付かず離れずで頼んだ」


「「了解」」


店から出て、さりげなく周囲を確認。目に見える範囲でそれらしい人物はいない。だけど俺からは見えていなくても相手からは見えている場合もある。怪しまれないよう普段通り、挙動不審にならないよう注意して移動していく。


「晶さんに送っておくか。ニアミス、おつ」


激怒するであろう顔が容易に想像できるな。慌てているような人達が横を通り過ぎていったから恐らくあの人達だろう。髪型を変えるだけでも随分と印象が変わることを知っている。私服も固定していたのだから猶更だな。印象操作はこういう時に役立つ。


「それが通用しない人達もいるんだけどな」


晶さんと恭介さん。そして瑞樹さんと伍島さんの四人は要注意だ。髪型や服装を変えた程度では容易に発見されるだろう。それだけの付き合いの長さがあるのだから。だけど言ってしまえば四人だけで探し当てることは困難なはず。


「見つけたー!」


そのはずなのにあっさりと見つかってしまった。逃走開始から四十分ちょっとか。予想以上に早い。第一発見者は声から察するに瑞樹さん。やっぱりあの人もおかしな嗅覚を持っているな。だけどそう簡単に捕まる気はない。


「走る!」


聞こえている前提で声を掛ける。もちろん瑞樹さんに対してではない。左手に何かが触れて、すぐに離れた。これは合図。瑠々が並走してくれるという。瑠々が近くに居れば、奈子は探し当ててくれる。それが二人の繋がりなのだ。


「こらー、逃げるなー!」


「付いてきて」


逃げるなと言われてはい、そうですかと立ち止まる馬鹿ではない。先導する瑠々を見逃さないように注意して後を追う。瑞樹さんから連絡が回ってこの辺りが包囲されるのは時間の問題だろう。人数では圧倒的にこちらが不利なのだから。


「だけど時間は掛かる」


全員が近くにいる訳ではないだろう。その為に偽の情報を回したのだから。俺の目的を曖昧にして、手当たり次第に人員を配置したのだったらこちらが有利になる。人数の不利を時間制限ではあるが解消できるのだ。


「近くにもう一人くらいいるはずだ。もし立ち塞がってきたらいつも通り頼む」


「了解」


瑞樹さんがいるということは伍島さんも近くにいるはず。四人全員がばらけて探しているとは思わない方がいいだろう。コンビの呼吸が合わなかったら効率も悪くなるし、情報が必要になっている今では一歩の違うが大事になる。


「目標、十メートル先の中年男性。厳つい顔をしている短髪」


「先行する」


瑠々の足は俺よりも早い。俺の事を見つけた伍島さんは逃げられぬようにこちらのことを見ている。焦って突っ込んできた方がこちらとしては対応しやすいのだが、待ち構えられると避けるのが難しい。脇道がない現状だと猶更だ。


「ふざけるのもここまでだ」


「でも残念。まだ継続させる気満々ですよ」


「琴音を俺が捕まえればここで終わりだ」


油断大敵。俺の事を注視しすぎて背後がお留守だ。先行していた瑠々が背後に回り込んで伍島さんの膝裏を蹴る。体格が小さな瑠々でも勢いを利用すれば簡単に相手の態勢を崩すことだって出来る。その間に俺は伍島さんの横を走り抜ける。


「サンキュー、瑠々」


「後で琴音のネタを要求する」


「気が向いたらな」


「むぅ」


これで手札が一つ減ったか。同じ手が何度も通用するとは思わない方がいいだろう。周囲を囲まれる前になるべく遠くの方まで移動する必要があるな。下手に裏をかこうと留まっては失敗した時が痛すぎる。


「ペース上げるぞ」


「合点承知」


そして再び俺の前を瑠々が走り、俺がそれを追う。思うのだが何で作家がこんなに体力あるのか不思議だ。俺と同じで体力づくりしているのかと思ったが、瑠々の日常を想像したら疑問は解決した。どうせネタ探しで色々と探っていたのだろう。そしてそれを追いかける奈子も相当に鍛えられていると思う。


「多分、もう大丈夫だと思う」


「なら一休みするか。奈子とも合流しないといけないからな」


十分以上走り続けただろうか。結構細い道なんかも通って入り組んだ場所も通過したから俺は現在何処にいるのか皆目見当つかない。瑠々は油断なく周囲を警戒しているのだが、場所が分かっているのだろうか。


「何処にいるのか分かっているのか?」


「取材で下調べは完璧。奈子には内緒で色々と巡ってもいた」


「相変わらずだな」


放浪癖は治っていないのだな。就職しても以前と変わらぬ同級生達もいるようだ。条件としてストッパーが近くにいるというのもあるだろう。綾香なら蘭であり、瑠々なら奈子といったように。コンビを組んでいる連中はそんなに多くはなかったと思う。


「次は何処に向かう?」


「元の場所に戻るのは無理だな。それに観光名所も監視されているだろうから却下。そうなると全く関係ない場所がいいんだけど」


観光名所を巡るのは現状から考えて無理だと判断する。残念に思うが自分が招いた結果だから仕方ない。せめてお土産位は買いたいと思っているが何を買おうか。後は適当に見つけた場所でまた何か食べるか。


「母には日常で使えるもの。双子には日持ちするお菓子なんかを考えているが、何かいいものあるか?」


「うーん、日常品なら手拭い。日持ちするものなら飴なんかはどう?」


「案内任せた」


「承り」


逃亡の難易度は段々と上がっているが捕まったところで困るようなものではない。このゲームがそこで終わるだけ。後は反省や対策なんかを考える必要がある。本当の意味で予行練習でしかないのだから。護衛の人達にとってはそれどころじゃないだろうけどな。

偶にはと実家の作業を手伝っていたらネタが降りかかってきました。

給水ポンプのホースが外れて顔面に水が直撃です。

前回短い期間でネタが起きるはずがないと書いた影響でしょうか。

おかげでまた風邪を引きました。


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