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99.如月琴音大捜査

今回の視点は護衛の晶となっております。


おかしい。幾ら観光名所で人が多いといっても私達は訓練された護衛なのだ。人混みに紛れた程度で見失うなんて有ってはならない。


「恭介、探し出せる?」


「無理だ。というかおかしいだろ。琴音は長身だし、同行してた保護者だって琴音と同じくらいなんだぞ。簡単に見失う訳ないだろ」


それなのよね。琴音は身長が高いから探しやすい。これで低身長なら話は分かる。尚且つ、あのポニーテールだって目印だ。印象に残り易いのに簡単に見失ったのには違和感が残ってしまう。


「琴音に連絡取ってみる。これで出なかったら緊急配備よ。恭介は準備しておいて」


「了解。大事にならなければいいんだが」


誘拐事件に発展したらそれこそ大事なんだよね。私達の職務怠慢になってしまうから大打撃を食らってしまうのは確定。でもそんな情報は入ってきていない。怪しい一団だって見掛けた覚えはない。


「もしもし、琴音?」


『どうかしましたか?』


良かった。繋がったということは事件性はないはず。これで何処かで待ち合わせして合流すれば問題は解決ね。でも何だろう。言い知れぬ不安を感じるのは。


「ごめん。見失ったから何処かで合流してくれない?」


『嫌です』


おい、今何て言った。空耳だと思いたいけど、バッチリと聞こえてしまったから否定できない。何で嫌だと言った。何かしらの理由がありそうだけど、それが分からない。


「何で嫌なのよ?」


『観光する時間が減ってしまうのでこのまま向かいます』


理由なんてなかった。思いっきり私情が含まれているじゃない。でもこんなことは初めて。琴音はあまり他人に対して迷惑を掛けないように行動していたはず。なのに今回は率先して我儘を言い始めた。まるで過去に戻ったかのように。


「我儘言わないの。立場分かっているでしょ?」


『立場はこの際無視で。折角の修学旅行なので思い出を残そうと』


私達の思い出に残さなくてもいい。これで万が一、何かしらの事件が起きたら忘れられなくなるのは間違いない。第一、これだけ広い京都でたった一人の人物を探し出すなどかなりの難事なのだから。


「琴音。何が目的?」


この子が何の目的もなくこんなことをするとは思えない。恐らく観光が目的だというのもブラフ。密会するというのなら納得は出来る。だけど恋人や悪巧みするような人物がいないことはずっと見守っているのだから分かる。


『目的ですか。先程も言いましたが観光ですよ』


「それは嘘ね。観光だけなら保護者なんて私達でもいいじゃない。琴音ならそうするはず。友達を誘う理由にはならないわよ」


『ばれましたか。やっぱり付き合いが長いと私のことも分かりますよね』


伊達に振り回されていないわよ。突発的におかしなことへ巻き込まれるけど、あれは琴音だって巻き込まれた結果。自分から率先してトラブルを引き起こすことは学園内ならいざ知らず、外ではやっていなかった。今回のことは異常事態といっていい。


『それじゃ本音を言いましょう。挑戦状を叩きつけますので私のことを捕まえてみてください。ちなみにこれから向かう先は清水寺です』


「は?」


『それでは鬼ごっこ開始です』


そこで通話が切れた。掛け直しても出ない。あの子、本気で逃亡する気だ。しかも目的が私達から逃げること。遊びということだろうか。いや、目的を考えるよりも対応することを優先しよう。


「恭介! 琴音が逃亡!」


「マジかよ!?」


こんな異常事態、想定なんてしていなかった。確かに一般的な令嬢が逃亡することなんて珍しくもない。その理由は付き纏われたくない、見られたくないといったものが多い。だけど琴音にそんな理由はないはず。むしろ行き先を私達に告げるほどに協力的だった。それが一変したなんて何があったのよ。


「私は主任に連絡する。恭介は車の手配。目的地は清水寺」


「了解した」


疑問があるとすればどうして最後に目的地を告げてきたのかということ。ノーヒントでは捕まえられないと舐められているのだろうか。そこまで考えが回らない子じゃない。それよりもこっちの想定を上回る行動する子よ。


「主任ですか。緊急事態につき連絡しました」


『何があったの?』


「護衛対象である如月琴音が逃亡しました。人員の追加をお願いします」


「え?」


幾ら私達でも瑞樹とおっちゃんを足してたった四人で京都を駆けずり回る訳にはいかない。こういうときに必要になるのは数よ。観光が目的であるというのは嘘であり、本当であるはず。楽しむことをあの子は何よりも優先しそうな気がする。そして主任の時間が停止している気がするわね。


『人員の追加は了承したわ。待機中の全班を回すから。指揮は晶。貴女が執りなさい』


「分かりました。私と恭介はこれより琴音の目的である清水寺を目指します。何か進展がありましたら再度連絡します」


『頼むわね。私は部長にも連絡しておくわ』


別の意味で大事になったわね。事件性はないのに一人の行動で私達が振り回されることになるなんて。でもまだあの十二本家集合よりは気が楽かもしれない。だって琴音を捕まえることが出来ればそれで終わりなのだから。絶対に捕まえて説教してやる。


「車の用意できたぞ」


「分かった。それじゃ向かいましょう」


目的地が分かっているのだから車で向かう私達の方が早いはず。レンタカーなんかを用意されたら困るけど、それでも足取りを掴む要因にはなる。だからこそ琴音だって使わないはず。何処まで本気なのか分からないけど、大人を舐めるなよ。


「もう少しで目的地だな。ここからは歩きだ」


「待って。琴音から何か送られてきたわ」


まさかすでに清水寺に辿り着いたというわけじゃないわよね。私達よりも早いとなると一体どんな交通手段を手に入れたのよ。それとも諦めて降参するという連絡かな。あの琴音がそんなことを言うとは思えないけど。


「何なのよ、あの子は!」


反射的にスマホを放り投げようとして何とか踏み止まった。それだけのものが送られてきたのだ。運転席にいる恭介は何があったのか説明しろと視線で訴えかけてくるけど、私の怒りは爆発しそうよ。


「琴音から画像が送られてきたのよ。金閣寺ナウと文字付で」


「嘘だろ」


見事に私達は振り回されているということになる。最初の目的地が清水寺というのすら嘘だったとは。今から金閣寺へ向かったところで間に合わないだろう。それどころか一体何処に向かっているのかすら分からない。


「いや、待て。何かその画像、おかしいぞ」


「何処がよ」


映っているのは建物の金閣寺。だけど琴音自体が映っている訳じゃない。むしろ人が誰もいない。そこに違和感はあるけど、晴天でキレイに撮られていると思う。あれ、晴天。


「雲一つない空とかおかしいだろ。それに何か見たことある構図だぞ」


確かに言われてみれば私も見たことがある。そして思い出した。これはネットに載っている紹介用の画像だ。何より今日の天気は雲が多めで晴天という訳じゃない。大体、後ろが紅葉している時点で時期も合わない。


「ここまでする!?」


「琴音の本気が垣間見えるな」


誤情報まで流してくるとか普通じゃない。ここまでやられたのは初めてだ。大抵の場合は逃げることに集中するし、行き先も大体の見当がつく場所へと向かう。だから一般的な令嬢を探し出すのはそこまで苦じゃない。何よりも着ている恰好で目立つのだ。


「部長から着信が来たわ」


「マジかよ。どれだけ大事になっているんだ」


上の人から連絡が来るなんて普通じゃない。今までこんなことはなかった。もしかしたら如月家へ連絡が行き、苦情でも来たのだろうか。そうなったら私達はおしまいだ。絶対に人事異動が待っている。


『事態はどうなっている?』


「琴音の逃亡は継続中。現在は清水寺で張っている最中です。それと琴音から攪乱用のメールが送られてきました」


『本気のようだな。それで琴音と行動を共にしている者達についての情報はあるか?』


何でそんなことを聞いてくるのだろうか。もしかしてその人達による言動が今回の琴音の行動と関係があるのかもしれない。脅されているとか、誘惑されたとか。可能性としては否定できないけど、身元自体は調べて問題ないことを確認している。


「作家の新井瑠々、その担当者である新垣奈子の二名です」


『最悪の編成だな。いや、護衛として考えるならば最良の二人か』


部長はこの二人のことを知っているのだろうか。それに最悪と最良とはどういうことなのか。職業から考えて護衛として最良というのにも疑問が残る。デスクワークが主だった職業だと思うから荒事に向いていないと思うのだけど。


『琴音の目的は?』


「観光と言っていましたが本気なのかと。私達に挑戦状を叩きつけ、逃げつつ京都の観光をするのかと」


『確かにそうだな。あれの性格ならやりかねない。だが他の可能性も考えろ。あれの優先度でいえば観光の方が低いだろう。お前達から逃げ切る方が重要になるはず。それに何かしらの目的を持っているのも確かだ。何の考えもなしにこんなことをするとは思えない』


琴音と部長が会ったことは知っている。でもたった一回程度でそこまで琴音のことを知っているのも不思議なんだけど。でも何かしらの情報を知っているのであれば教えてほしい。こっちは情報が決定的に不足している。


「二人について部長が知っていることを教えてほしいのですが」


『新井瑠々。隠密行動に優れていて例えお前達でも発見することは困難だ。見た目も小さく、人混みに紛れられたら不可能に近くなる。何より気配を消すのが上手い。俺よりもその能力に関しては上だ』


どんな化け物よ。部長が現役の時、気配を消して護衛対象にすら気付かれずに守っていたという話は聞く。そんなプロよりも能力が上とか普通じゃない。それに身長が低いのは私達でも確認している。百四十もないだろう。人混みに入った瞬間に見えなくなってしまったのだから。


『新垣奈子。彼女と相対したら一対一では絶対に挑むな。三人以上で囲んで挑まないとお前達、負けるぞ』


思考放棄したくなってきた。こっちも化け物じゃない。何でプロが三人も必要になるのよ。一般的な女子なら私一人でも軽く組み伏せることが出来るというのに。大体作家と担当がそんな能力を有している時点で異常よ。


『如月琴音。本人の能力も高いがこいつが場を振り回すようなことになったら最大限の警戒をしろ。こちらの思考の裏を読むのは当たり前だが、下手したらその先にすら行く。行動予測なんて立てるな。あいつの動きを読むには長年の勘が必要だ』


「半年程度の付き合いでは?」


『振り回されるだろうな』


というか何で琴音の情報まで仕入れているのよ。そんな情報、私達ですら知らないんだけど。しかし、そんな連中が三人いたところで素人の集まりなのだからプロである私達が敗北することはないはず。部長がここまで警戒するほどに脅威なのだろうか。


『ハッキリ言って数が集まったところでお前達では発見することは出来ても捕獲することは無理だ。よって健闘を祈る』


通話が切られた。というか匙を投げているような感じだったけどどうしろと。具体的な解決策すら提示されなかったわよ。何より私達では無理だと言われたことがプライドを傷つけた。私はプロよ。素人に負けてどうするのよ。


「恭介。今回は私も全力を出すわ。部長に無理だと言われたのは腹が立つ」


「俺もスピーカーで聞いていたが晶と同じ気持ちだ。絶対に見返してやるぞ」


招集された人員もそろそろ集まるはず。観光名所にそれぞれを配置して見張っていれば、琴音を確保できる確率だって上がるはず。逃亡したところで足取りが追える状況ならこちらが負ける要素はない。そして各班に指示を飛ばしつつ私達も行動を開始しようとしたのだが。


「また琴音から送られてきたわね」


「何度も同じ手を食らうかよ。どうせまた誤情報だろ」


私もそう思って今度は何が送られてきたのか確認してみる。先程と同じような内容なら一切考慮に入れないつもりだったんだけど。見た瞬間に車のダッシュボードに頭をぶつけた。これは私も想定していなかった。


「どうした?」


「甘味ウマーという文字付で自撮りが送られてきたわ」


「観光名所にすら行かないの!?」


今回のものは信用するしかない。琴音自身が映っているのだから現在位置を特定する役割になる。だけどこっちの立てた計画は総崩れよ。前提条件が観光名所だと思い込んでいたこちらの落ち度ではあるんだけど。


「こんなの方針なんて立てられないわよ!」


「やべぇ、一気に不安が増してきた」


捜索範囲が一気に広がってしまった。部長が言っていた意味をこの時点で理解してしまう。琴音の行動を読もうとした時点で間違っている。やるなら足を使っての人海戦術で探し出すしかない。どれだけハードなのよ。

本編百話手前で何をやっているのでしょうね。

次回の視点は琴音に戻します。

こんな短い間隔でネタなんて発生することもありません。

と書いたら予約投稿する直前にバッテリー切れで強制シャットダウンを食らいました。

フラグ回収早すぎです。


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