幕間 「そして運命は収束を始める」
運命。
天の定めたレールのことを、人はそう呼ぶ。
もしも、本当に運命なんてものがあるとしたら、それは一体どんな形なのだろうか。
優しく、温かいものだろうか。
厳しく、冷たいものだろうか。
クリストフ・ロス・ヴェールにとって運命とは、辛く儚い一瞬の閃光を指す。過ぎた時間は戻せない。壊れたものは戻せない。それが運命。
彼は望む未来に到達することは許されてこなかった。それを儚さと呼ぶのなら、きっとそうなのだろう。
彼は大切な人を失う悲しみを誰よりも知っている。
彼は日常の大切さを誰よりも知っている。
彼には、許されなかった平穏だから。
望めるならば、永劫不変の永遠を。
それが、彼の祈り。
カナリア・トロイにとって運命とは、自身で打ち勝つべき到達点を指す。人生は何かを成すには短すぎる。人は必ず死ぬ。それが運命。
彼女は自身を許すことが出来なかった。それを暗愚と呼ぶのなら、きっとそうなのだろう。
彼女は命の重さを誰よりも知っている。
彼女は責任と義務の重さを誰よりも知っている。
彼女にまとわり続けた重責だから。
望めるならば、究極無比の黄金を。
それが、彼女の祈り。
イザークにとって運命とは、絶対に抗うことの出来ない鎖を指す。太陽は昇り、月は輝き、人は死ぬ。それが運命。
彼は大切な者を失い続けてきた。それを悲運と呼ぶのなら、きっとそうなのだろう。
彼は命の儚さを誰よりも知っている。
彼は運命という鎖の強度を誰よりも知っている。
彼は天に見放され続けてきたのだから。
望めるならば、悪逆無道の強奪を。
それが、彼の祈り。
アネモネにとって運命とは、自身を流し続ける大河を指す。誰しも定められた役割を持って生まれてくる。それが運命。
彼女に選択権は存在しなかった。それを無情と呼ぶならば、きっとそうなのだろう。
彼女は人間の心を誰よりも知っている。
彼女は人間の醜さを誰よりも知っている。
彼女に許された、唯一のことだから。
望めるならば、孤立無援の悠久を。
それが、彼女の祈り。
アダム・ヴァーダーにとって運命とは、死そのものを指す。誰もが到達する終着点でありながら、その道程は千差万別。それが運命。
彼は全霊を賭した。それを真摯と呼ぶなら、きっとそうなのだろう。
彼は人の無力さを誰よりも知っている。
彼は死の恐ろしさを誰よりも知っている。
彼はそれと寄り添い続けてきたのだから。
望めるならば、因果応報の慈悲を。
それが、彼の祈り。
ヴォイド・イネインにとって運命とは、クソッタレの書いたクソッタレな脚本を指す。歩かされた道に価値などないと、運命に唾を吐くのだ。
彼は運命を認めない。それを歪みと呼ぶのなら、きっとそうなのだろう。
彼は人の可能性を誰よりも知っている。
彼は人の強さを誰よりも知っている。
彼は、運命と戦い続けてきたのだから。
望めるならば、全身全霊の抵抗を。
それが、彼の祈り。
神格を授かりし転生者が七名。
彼らは廻り続けた運命を越えて、ここに終結する。
クリストフ・ロス・ヴェール。
クリスタ・フーフェ。
二人が再会した時──
運命は収束を始め、最後の物語を紡ぎだす。




