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神格の転生者~そして英雄は愛を歌う~  作者: 秋野 錦
第五幕 そして運命は収束を始める

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第五十九話 「邂逅」

 夜になり、カナリア達を連れて宿へと戻った俺達は今後の方針について語り合っていた。

 司祭の元を訪ねたカナリア達だったが、その結果は芳しくなかったようだ。


「まさに門前払いって感じだったわよ。こっちは遠くからわざわざ出向いてやったってのに」


 カナリアが無下に扱われたのがよっぽど嫌だったのか、口を尖らせたヴィタがぼやくように言葉を吐く。こいつカナリアのこと好きすぎだろ。


「まあ、そう言うな。突然押しかけたのはこちらなのだから、手紙が渡せただけでも良しとしようではないか」

「……カナリア様がそれでいいならいいですけど」


 未だ納得いかない様子のヴィタ。

 そんな様子を見て苦笑いするカナリアは小隊のメンバーに目を向けて、改めて今後の方針を口にする。


「ひとまずは向こうから連絡が来るのを待つしかない状況だ。その間は臨時休暇という形にしようと思う」

「臨時休暇っすか?」

「うむ。今までずっと任務の連続だったからな。たまには息抜きも必要だろう」

「うおおおっ! まじっすか! よっしゃ! ナンパ行きましょうぜ、クリスさん!」

「嫌に決まってんだろ。折角の休みを無駄にするつもりはないぞ、俺は」

「ええー」


 そんなに行きたいなら一人で行けばいいのに、何で俺まで巻き込もうとするかね。


「ユーリ、まだ話は終わってないぞ」

「す、すんません」


 隊長のひと睨みで縮こまるユーリ。


「どれくらいの休暇になるかはまだ分からない。いつでも任務に戻れるように羽目を外しすぎるなよ」


 そう言ったカナリアはいくつかの連絡事項を伝え、隊を解散させた。

 同じところに住んでいるのだから解散もないのだが、こうして俺達は束の間の休息を得ることになった。

 休日なんて本当に久しぶりだ。帝都に居た頃から休みらしい休みをもらった記憶がないから、もしかしたら従軍して初めてのことかもしれない。

 今更だけど、うちの隊ってブラック企業なのではないだろうか。別に不満も後悔もないけれど。


(……俺も社畜らしくなってきたよな、ホント)


 らしくないと言えばらしくない。

 俺は……変わったのだろうか。

 分からない。自分の変化なんて、自分では中々気付けないものだろうけど。


「こんなこと考えるのもらしくない、か」


 俺は考えるのをやめて、自分の部屋に戻ることにした。

 自分が何者かなんて、どうせ考えても分かるはずがない。

 俺は俺でしかないのだから。

 俺は他の誰かになんて、なれやしないのだから。

 

 それから俺の部屋に戻ると、何故かエマが俺のベッドに寝転がってくつろいでいた。割と邪魔だったので叩いて起こし、さっさと自分の部屋に戻るように告げてやる。


「さっさと自分の部屋に戻れ」

「今日はここで寝るー」


 何言ってんだこいつ。

 お前がベッドを使ったら俺はどこで寝ればいいんだよ。床か。


「ほら、起きろ。俺は明日からの計画も立てないといけなんだから」

「計画? 何のこと?」


 帰って欲しくて言ったのに妙に食らい付いてくるエマに、俺は仕方なく事情を話すと、彼女は真っ先にこう言った。


「クリス! 遊びに行こうよ!」


 最近荷馬車での生活が続いたせいか、エマは鬱憤が溜まっているようだった。

 瞳をキラキラと輝かせておねだりのポーズをとるエマに、俺は笑みを浮かべて告げてやる。


「い・や・だ」

「なんでーっ!?」


 有り得ないものを見たと言わんばかりの形相で憤慨するエマ。

 しかしこっちにも言い分はある。


「俺は久しぶりにゆっくりしたいんだよ。だから明日は一日部屋でごろごろする」

「何だよそれー。遊びに行ったほうが絶対楽しいって!」

「分かってないな。部屋で時間を気にせず惰眠を貪ることがどれほど幸せなのか」


 実際、昔の俺はその魔力にやられて部屋から出られない体にさせられてしまったからな。二度寝、最高です。


「折角の休みなら外に出ようよ」

「休みは明日だけじゃないんだ。外に出るのはいつでも出来るだろ」

「遊びに行くのだっていつでも出来るよ!」


 むう。今回のエマは中々引かないな。

 それだけ遊びに行きたいということなのだろう。


「だったらお前、カナリアでも誘って遊びに行ってこいよ」

「クリスと一緒がいいのっ!」


 子供の癇癪みたいに手足をじたばたと振り回すエマに、俺はため息をついてから告げてやる。


「ああもう。分かったよ。俺も行ってやるから暴れるなって」

「ほんと!?」

「ほんとほんと」

「確かに聞いたからね! 明日になって『やっぱダルイ』とかナシだよ?」

「勿論だ。男に二言はないからな」


 俺は胸を叩いて、任せろとアピール。

 その様子を見てエマも納得したのか、ようやく自分の部屋へと戻っていった。


「……さて」


 言い訳、何にしようかな。




 次の日の朝。

 眠い目を擦りながら俺はシャリーアの街を歩いていた。


 ……エマと共に。


 気持ちよく寝ていたというのにベッドからたたき起こされた俺の機嫌は過去最低値を記録している。

 俺がため息混じりにとぼとぼ歩いていると、俺の少し前を駆け回るようにしてはしゃぐエマの声が聞こえてくる。


「クリス早くー」

「…………」


 楽しそうにはしゃぐエマ。

 そういえば最近エマの為に時間を取ってやれていなかったかもしれない。

 だったら……まあ、いいか。


「もう少しゆっくり行こうぜ。今日はまだ長いんだから」

「うんっ!」


 元気に返事をしたエマは俺の傍に駆け寄ってきて、そのまま俺の右腕に飛びつくように抱きついてきた。


「えへへー」


 正直動きづらいから離れてもらいたい。

 けどまあ、そんなこと言える雰囲気でもないか。


「楽しそうだな」

「まあねー。何だか懐かしい気分だよ」


 懐かしい気分、か。

 きっとエマは俺に父親の影を重ねているのだと思う。

 俺に懐いてくれているのも、父親の代わりとして居場所を求めているからなのだろう。そのこと自体は全く嫌でもないのだが、本来この席に座っているはずの人物、イワンのことを思うとどうしても気が重くなってしまう。


(……エマとの約束だけは、守らないとな)


 少なくとも、エマが俺を必要としなくなるくらい成長するまでは俺が傍で支えてやらなければならない。

 父親の、代わりに。


 代わり。

 代替品。

 代用品。


 誰かのスペアであることに、不思議と嫌悪感はない。むしろ、誇らしささえ感じる。こんな俺でも、誰かに必要とされるならそれはとても有り難い事だと思うから。


「クリス見て! 銅像が建ってる!」


 突然のエマの声に、視線を向ければそこには見事な像が建っていた。そして、それは俺にとって見慣れた像だった。


「ああ、英雄像か」

「英雄像?」

「知らないのか? シャリーアの建国に携わった英雄の像だよ」


 かなり昔の話だから、今となっては伝説みたいに扱われている英雄の話。


「戦国の世を駆け抜けた一人の男。あまりの強さに味方からも恐れられるほどだったらしいぜ」

「何て名前の人?」

「それが不確かなんだよな。かなり変わった名前だったらしくてさ。武勇の方はかなり詳細に伝わっているんだけど」


 俺は頭の中にあった知識を無理やり引っ張り出して、口にする。


「魔術も剣術も並以下。戦闘の才能も凡人程度しかなかったけど、自分の体を犠牲にしながら戦い続けた英雄だ。ただ当時はあまり優遇はされていなかったみたいだけどな。戦い方が卑怯だとか言われてさ」

「それは……可哀想だね」

「まあな。けど俺は結構この話が好きなんだよ」

「何で?」

「この人さ、体を酷使しすぎてかなり若いうちに亡くなっているんだ。誰かの為に自分を犠牲にするってのは中々出来ることじゃないから……なんていうか、格好良いなって」

「あー、男の人ってそういう所あるよね。でも置いて行かれる側からしたら堪ったもんじゃないよ」

「……そういうもんか?」

「そういうもん! だからクリスもあんまりそういうこと考えちゃ駄目だからね!」

「そんな主人公みたいな機会、俺にはこねえよ」


 自分の限界は自分でよく知っている。

 だから、俺は笑い話としてその話題を片付けようとしたのだが……


 ──クイッ──


 袖を引かれる感覚に、視線をやるとエマが真剣な表情で立ち尽くしていた。


「……エマ?」

「クリス、約束だからね?」


 約束?

 約束って前に二人で交わしたあの約束のことだろうか。


「エマのこと置いて、どっか行ったりしたら嫌だからね?」

「俺がエマを置いて行くわけないだろうが」

「……うん。そうだよね」


 全く、疑い深い奴だな。

 今更エマを置いていくなんて選択肢が俺にあるわけないというのに。


「ほら、そろそろ行くぞ」


 エマの手を取って、先に進もうと振り向いたとき……







 ──一陣の風が、宙を舞った。






「クリストフ?」






 風に乗って聞こえてきた声は、聞き覚えのある声音だった。



「え……?」



 懐かしいその声に俺は思わず言葉につまる。

 クリストフ。俺をその名前で呼ぶ人間は限られている。シャリーアを出て捨てた俺の本当の名前。懐かしい響きを感じながら視線を向けた先には……


「クリスタ……?」


 金髪の、幼馴染の姿があった。

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