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神格の転生者~そして英雄は愛を歌う~  作者: 秋野 錦
第五幕 そして運命は収束を始める

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第五十七話 「道中」

 長く続いた曇天もようやく上がり、晴れ晴れとした青空が広がる中、俺達は馬車で旅を続けていた。

 比較的整備されている道なのか、いつもより揺れが少なく感じる。

 そのせいなのか、真昼間だと言うのに眠りについている奴がちらほら。陽気な空気に誘われて、俺まで眠たくなってくる。


「…………」


 フリーデン王国。

 グレン帝国。


 ヴォイド、クレハ、アダム、アネモネ。

 カナリア、ヴィタ、ユーリ、イザーク。


 俺は……どうするべきなんだろう。

 分からない。


 分からないけれど、いつか決めなければいけないことなのだと思う。どちらを取るのか。あるいは、取らないのか。

 そして、その決断の時はさほど遠くない。

 そんな気がした。


「クリス」


 ふいに名前を呼ばれ、そちらに目をやればイザークがいつもの仏頂面でそこにいた。


「何だよ、イザーク」

「……少し、話がある」


 イザークは俺に断りもいれず横に腰掛けると、周囲に聞こえない程度の声量で話しかけてきた。


「前にも聞いたが改めて確認しておきてェ。お前、どうすンだよ」

「どうするって……」

「誰に付くのかってことだ」


 イザークの言いたいことは分かっていた。

 前にも聞かれたことだから。


「オレはお前が誰の側に立とうと構わねェ……そう思ってたンだけどな。状況が変わった」

「……そうだな」


 あの時と今では、同じ質問でも状況が違う。

 あの時ははぐらかした答えを、イザークは真に求めているのだろう。


「どうなンだ、クリス」

「…………」


 ここで頷くことは簡単だ。

 そうすることでイザークもひとまずは納得するだろう。

 しかし、俺自身答えの出ていないことをここで口にするのは憚られた。何て答えても、嘘になってしまう気がして。


「……まあいい」


 答えない俺に業を煮やしたのか、イザークは話の矛先を変えた。


「お前、今回の戦争はどっちが勝つと思うよ」

「それは……帝国だろう。いくらなんでも兵力が違う」


 帝国は軍事国家だ。軍という戦争屋が国の中枢に居座っている以上、どうしたってそっちよりの国になる。


「まア、それが普通の考えだわな」


 けどよ、とイザークは付け加える。


「だったら何でフリーデン王国側から宣戦布告してンだよ」

「…………」

「ある程度の勝算がある。そう見たほうがいいとオレは思うけどな」

「イザークは……帝国が負けると予想しているのか?」


 俺の問いに、イザークは首を横に振った。


「分からねェ。分からねェから困ってンだよ」


 苦々しげな様子のイザークは、話を続ける。


「帝国の兵力は百万。王国の兵力は四十万ってところか。勿論、兵の質もグレン帝国が上。普通に考えれば帝国が勝つ。当たり前のことだ」


 それはイザークの言う通りだろう。

 事実、途中に寄った街の人達を見ても、戦争だというのにむしろ歓迎と言った雰囲気で悲観的な様子がまるでなかった。自分達の勝利を疑いもしていないのだろう。


「だが……何事にも例外。イレギュラーは存在する」

「イレギュラー?」


 聞き返した俺に、イザークは指差してくる。


「お前」

「俺?」

「ああ。つまりは転生者だよ」


 そこまで言われて、俺はようやくイザークの言いたいことが分かった。


「クリス、転生者は兵力としてみたら……兵士何人分だと思う?」


 転生者の、兵力。

 考えてみれば、それはとてつもない脅威のように思えてきた。

 一騎当千なんて言葉があるが、事実転生者は千人の兵に値するように思う。いや、その程度で済めばむしろ少ないほうかもしれない。


「……つまり、『より多くの転生者を擁した国が勝つ』。そういう風に言いたいのか?」

「そこまでは言わねェがよ。実際、かなり重要なところだとは思うぜ」


 なるほど。

 そこで最初の話に戻ってくるわけか。


「だから確認しておきてェんだよ。お前がどこに付くのかをよ」

「…………」


 俺は再び考えてみることにした。

 王国と帝国の、戦力差を。

 通常の兵力は倍以上に開いているだろう。


 では転生者の数は?


 俺が知っている転生者は……俺、カナリア、イザーク、アネモネ、ヴォイド、アダムの六人か。

 その内、帝国に付く転生者は……カナリアだけだろうか。

 俺は答えを保留している段階だし、イザークに至っては行動が読めない。だから確実に帝国の味方をするであろう転生者はカナリア一人だ。


 それに対して王国は?

 ヴォイドは鉄板として……それにアダムとアネモネが続くのだろう。アネモネは分からないところがあるが、今もヴォイドと行動を共にしている以上王国側と考えるのが自然、か。

 ならば転生者の兵力は、一対三ということになる。


「確かに、不安要素はある……か」

「そォいうことだ。それを抜きにしたとしても身の振り方は早めに決めておいたほうがいいだろうよ」


 イザークはそう言って、俺から距離を取った。

 言いたいことは言ったと、そういうことなのだろう。

 俺自身悩んでいたことだし、そろそろ答えを出さないといけない。

 フリーデン王国につくのか。グレン帝国につくのか。


 あるいは……


(……そういえば)


 ふと、思う。

 俺が知っている転生者は六人。

 転生者は全員で七人。


 だとしたら俺の知らない転生者がまだ、あと一人いるということになる。

 俺の知らないソイツがこの戦争をどうするつもりなのか。少し気になったのだ。

 俺は女神とコンタクトが取れないから、もしそいつと出会っても俺は気付くことが出来ない。ならば……


 もしかしたら、最後の転生者は俺の知っている人物かもしれない。


 そんな偶然ある訳ないと思いながら、その可能性をどうしても考えてしまう自分がいた。

 最後の転生者は、一体誰なのだろう?

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