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神格の転生者~そして英雄は愛を歌う~  作者: 秋野 錦
新章 そして英雄は戦い続ける

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「黄金の光と、漆黒の闇」

「反逆の権能ってか。アンタらしい力じゃねえか」


 くくく、とイザークはそのカナリアらしい権能に笑みを浮かべる。

 ──ああ、それでこそカナリア・トロイだと。


「だが、それでもオレの強奪の権能には適わねェぜ。せっかく見せてくれたンだ。その権能──寄越せや」


 ダンッ! と、力強い踏み込みでイザークがカナリアへと迫る。

 彼は一気に勝負を決めるつもりだった。それがどのような権能かは知らないが、奪ってしまえば理解出来る。故にこそ、カナリアへと手を伸ばすのだが……


「イザーク。貴様の敗因は二つある」

「ぐっ!?」


 カナリアのまとう、黄金の光に押し返されるイザーク。

 眩しく輝くそれは、カナリアを象徴する色であった。


「一つは工房で自分の力を見せたこと。我の権能は我よりも強い相手にしか機能しない。我はあの現場で確信したのだ。貴様は我よりも強いとな」


 ──だからこそ、貴様は負けるのだと言外にカナリアは告げる。


「一つはさきほど、我を見逃したことだ。知っているかイザークよ」


 右手を横に伸ばしたカナリアが薄く笑う。


「この隣は、『武器庫』だ」


 カナリアがそう言った瞬間に、隣の部屋から剣が、斧が、槍が、薙刀が、短刀が、大剣が、レイピアが、ハルバードが、エストックが、サーベルが……大挙として、イザークへと黄金の閃光となって迫る。


「う、ぉぉぉおおッ!」


 本能的にまずいと悟ったイザークが全力で回避行動を取る。

 しかし、圧倒的な物量に回避することすらままならず、体中に切り傷を増やしていく。イザークの権能で幾つかの武器を無効化したとしても、それら全ての武器に対応出来る訳ではないのだ。


 一言で言えば圧倒的な『攻撃範囲の差』こそが、カナリアを優勢へと導いていた。

 カナリアはカナリアで、二本の剣を両手に構えてイザークへと突撃する。

 一層強い輝きを放つ二本の剣をそれぞれ片手で受けるイザーク。

 そして、気付いた。


「ッ! 吸収出来ねえ!?」

「それが貴様と我の差だ。言っていたよな。貴様の望みと、我の覚悟のどちらが上かと」


 ぐぐぐ、と少しずつ押され始めるイザーク。すでに肩膝を付いて衝撃に耐えるイザークへと、


「分かっただろう。我の覚悟の方が、上だ……ッ!」


 ドゴォォォォォォォォオン……ッ!!

 床が陥没するほどの衝撃と共に、イザークへと追撃を食らわせた。


「我の、勝ちだ」


 弱きものよ、剣を取れ。

 カナリアの権能は認識下にある全ての刀剣類を操作することにある。


 彼女の権能には自分よりも強い相手であり、また刀剣類がなければ発動出来ないという厳しい条件こそあるものの、発動しさえすれば絶対的な効果を誇る。

 なぜなら相手が剣を持っている時点で、カナリアには適いようがない。武器を奪われ、逆に利用される様はまさに反逆の具現だ。


 弱きを助け、強きを挫く。

 そんな英雄じみた願いを掲げ続けたカナリアの黄金は誰にも負けない純度を誇っていた。

 絶対不変の黄金。

 それこそがカナリア・トロイという少女の強さであり、彼女の覚悟の象徴である。


「……ふ、ざけんな……」


 その黄金を受けて、地面を這い蹲るイザークがポツリと言葉を漏らす。

 そんなものは認めない。自分が負けるはずない。これは何かの間違いだと。


「オレの権能が……オレの望みがお前なんかに劣るはずはねェんだよォ!!」


 黒のメテオラがイザークの体から噴き出すように通路を満たしていく。


「反逆のメテオラだァ? ざけんなッ! それはオレの祈りだ! オレの望みで、オレの覚悟なんだよォッ!」


 叫ぶイザークは激情に駆られていた。

 何だそれは、ふざけるなと。

 奪い、奪い、奪い、奪い続けて来た彼にとって、それは……下克上とは、自分の望みだと、憚ることなく口にする。


 止めろよ、それ以上オレから何を奪う。たった一つの願いさえ、オレから貴様は奪うのか。

 止めろ、止めろ、やめろやめろやめろ、ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ。


 イザークの芯が、カナリアに屈することを認めない。

 貴様なんぞより、オレのほうがずっと苦汁を味わった。貴様なんぞより、オレのほうがずっと地べたを這っている。


「オレから、『勝利』を奪うンじゃねぇぇぇぇぇえええええええッ!!」


 絶叫と共に、空気が爆発するかのような衝撃に見舞われる。


 勝利こそ、イザークの望み続けた本質であった。

 誰よりも、誰よりもイザークは勝ちを追求する。

 誰よりも、誰よりもイザークは負け続けてきた。

 だからこそ、イザークの権能は、敗北を目前にして輝きを取り戻す。

 今こそ、貴様から勝利を奪ってみせると。


「らあああああぁぁぁぁぁッ!」

「ぐ……ッ!?」


 突然力を増してきたイザークに、カナリアは驚愕と共に剣を振るう。

 カナリアの権能が条件下でしか発動できないように、イザークの権能は条件下でその特性を強めていた。

 勝つ。ただ勝つ。その一点に凝縮されていく祈りが、より深い色合いへとメテオラを変化させていく。つまりは、黒からより深い漆黒へと。


「くっ」


 反対に、輝きに翳りが見えるのはカナリアの黄金だ。

 イザークの権能、強奪がカナリアから輝きを奪っているのだ。

 自身をより強め、相手を弱めていく。

 それこそがカナリアとはまた違った形のイザークの反逆であった。


 決戦に至り、そんな反則めいた能力を覚醒させられたカナリアはやっていられない気分だろう。自身の権能が奇しくもイザークの望みに触れてしまったせいでその効果を発揮しきれていない。


 空中を飛び回り、イザークへと迫る黄金の刃もいくつかイザークに操作を奪われていた。

 黄金と漆黒。二筋の閃光が狭い通路内を疾走する。

 その一つ一つが、人一人を蒸発させる威力を内包していた。

 イザークとカナリアはその弾幕をかわし、弾き、あるいは掌握することでお互いの攻撃を耐えていく。ことここに至り、二人は気付く。まるで鏡でも見ているようだと。


 そして、事実二人は共通する点が多くあった。

 自分の祈りをぶつける権能同士の戦いは、それぞれの本質を色濃く反映させる。そしてその結果がこの鏡合わせのような状況なのだ。つまり、それは二人が深い部分で似たもの同士であることの証明である。


「ははッ! 愉快だなぁ、イザーク!」


 その状況を楽しむかのように笑い声を上げたのはカナリアだった。


「我はお前とソリが合わないとずっと思っていたが……存外、そんなことはないのかも知れんぞ!」


 思えば出会いからしてそうだった。

 軍の訓練中に、偶然出会ったこの二人。出会いこそ平凡だったが、そこから現在へと至る道のりは酷く特殊であった。


「覚えているかイザーク! 我と初めて会った時に言ったお前の言葉を!」

「戦闘中にぎゃあぎゃあうっせえぞ! 黙りやがれ!」


 イザークの返答はそんな荒っぽいものだったが、それだけでカナリアは理解出来た。こいつは今、照れているのだと。

 あれだけ手痛い裏切りを受けて、今なおこうして殺し合いを演じている相手だというのに、妙な愛おしさをカナリアは感じていた。


 案外、根っこの部分は子供っぽいヤツなのだと。

 彼の権能自体、そうだろう。人の物がほしい。それはボクのだと。まるで子供の玩具遊びのようではないか。


 バチィッ! と、ひときわ大きい音がして距離を取る二人。

 お互いすでに肩で息をしているような状況だ。決着の時は近い。


「なあ、イザーク」

「……何だよ」

「ここで止めにしないか。我はお前を殺したくない」


 ふと、口から出てきたのは停戦の言葉だった。

 その言葉に、誰よりも驚いたのは言ったカナリア本人であった。

 なぜ、自分はこんなことを口走ったのだろうかと。

 イザークのやろうとしていることは、カナリアにとって到底許せるものではなく、事実一度は彼を殺してでも止めてやらねばならないと思っていたというのにだ。


「……それは無理だ」


 そして同時に、その提案をイザークが受けるはずもない。どの道グレン元帥を殺害したイザークは進むしかないのだ。全てを捨てて、進むしかない。


「……そうか」

「オレからも一つ提案がある」


 微かな落胆を感じるカナリアに、イザークから思いがけない言葉が送られた。


「もしもオレが負けたら、オレの代わりに成し遂げちゃあくれねえか」

「何をだ?」

「元帥の座を、だよ」


 イザークの言葉に驚いた様子のカナリア。

 その様子を見て、イザークは心の内にあった想いを口にする。


「アンタなら、この世界を変えられる。だから自分で元帥の座にでも付いちまえよ。そのほうが簡単だろうが」

「な、お前は何を言ってる……」

「出来ねえことじゃねェだろ。何せアンタは元帥の娘だ。血筋に問題がない分、オレが元帥になるよりは自然なはずだぜ」

「バカを言え。我は反逆者としてすでに晒された身だぞ」

「そんなの関係ねェよ。王とは民の為にある。だったろ? アンタが本当に民のためを思って行動するなら、きっと誰もがアンタに付いて来てくれるさ。オレ達が、そうだったようにな」


 イザークの言葉に、思い出すのは小隊のメンバー達のこと。


「……なんでそんなことを言うのだ」


 お前にはお前の勝利があるだろう、と。カナリアはイザークを問い詰める。

 そして、それに対するイザークの答えは、カナリアの心を揺さぶった。


「アンタの作る世界なら、オレみたいな奴は生まれねェだろうからよ」


 イザークは奴隷として、この世界に生まれた。

 その身に宿るメテオラを使ってその環境からすぐに抜け出せたとはいえ、普通ならそんなことはあり得ない。

 奴隷に生まれたら、奴隷として死ぬのが普通なのだ。


 そしてそれは彼の前世をすら軽く凌ぐ地獄である。奴隷として生まれた者の平均寿命は三歳だ。低すぎるとは言えない。ろくな環境でないその地獄で、一歳を超えられるものすら半分程度なのだ。

 そして、その死の三歳を超えたものですら、そこに待っているのは劣悪な労働環境と理不尽な現実だ。そして、それは歳を取るごとに凄惨さを増していく。


 性奴隷や、一生に渡る肉体労働なんてまだマシだ。

 新しい魔術の開発や、新薬の実験体。生きたまま解剖され、この世の生き地獄を味わう奴隷すらいる。

 彼らは法に守られてなどいないのだ。


 だからこそ、法が変わらなければ彼らに救済は訪れない。

 そして、法を変えることが出来るのは、カナリア・トロイを置いて他にはいないと、イザークは確信していた。


「……それがお前の頼みか」

「あァ。頭の隅にでも置いておく程度で構わねェ。もっとも、どうせオレが勝つし余計な仮定だがなァ」

「…………その仮定、確かに受け取ったよ」


 カナリアはイザークの言葉を受けて、はっきりとそう明言した。

 それに対して、イザークが微かに……笑みを浮かべた気がした。

 そして……


「一撃だ」


 ずずっ、とイザークの右手に漆黒が集まっていく。


「この一撃で、決める」


 イザークの言葉に、カナリアも左手の剣を捨てて応える。


「ああ、これで……最後だ」


 右の剣に収束する黄金。

 どちらの望みが、あるいは覚悟が、あるいは祈りが勝っているのか。その最後の激突に備える二人。一瞬の静寂、そして、動き出したのは同時であった。


「らああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!!!」

「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」


 カナリアの黄金の刺突。

 イザークの漆黒の正拳。

 互いの最後の一撃が今、激突した。

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