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神格の転生者~そして英雄は愛を歌う~  作者: 秋野 錦
新章 そして英雄は戦い続ける

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「集結と終結」

「お、俺のメテオラが……」


 イザークに……奪われた……


「ハッハッハ! これで二人目の脱落者だなァ!」


 両手を広げて高らかに笑うイザーク。

 彼の発現している『強奪』の権能。

 権能とやらが何なのか分からない俺でも、それが果てしない脅威であることは理解できる。ようは、他人から奪った者を自分自身にプラスしていたのだ。奴は。

 刃を砕いたのも、魔術を霧散させたのも、そして俺のメテオラを無くしたのも、全て奴が奪った結果なのだ。


「化け物め……」


 俺の隣でカナリアが両手の刀を握り締め、忌々しそうに呟く。

 彼女自身、化け物と呼ばれてきたというのに本領を発揮したイザークの前では赤子同然の扱いだ。

 それほどに、俺達とイザークの戦力差は激しい。


「さァて、そろそろ仕舞いといくかァ」


 だるそうに首を鳴らして、イザークが一歩こちらに踏み出してくる。

 くそっ! どうする……どうすればいいッ!?

 打開策が見つからず、なすすべなくやられるのかと思ったその時。


 ──パシュウウウゥゥゥ!


 横合いから、一陣の光線がイザークへと突撃する。


「ちっ!」


 予想外の一撃を受けたイザークは攻撃を受け切れなかったのか、工房の壁に吹き飛ばされていく。

 その場の全員にとって思いがけない一撃に、一体誰が? と、光の先を追うとそこには一張の弓を構えたヴィタが屹然と立っていた。


「カナリア様! ご無事ですか!」

「ヴィタ!? どうしてここに!?」

「べ、別にクリスにだけ刀匠を紹介していたのが悔しくて、後をつけていたとかじゃないですからねっ!」


 語るに落ちているぞ、ヴィタ。

 丁寧に事情を説明してくれたツンデレ族の後ろから、


「やー、暇なんで自分もついてきたっす」


 と、いつもの軽い雰囲気を纏わせたユーリも姿を見せる。

 こいつら……いや、尾行してたのはいい。そのおかげで助かったんだしな。というより、今はイザークだ。


 俺は改めてイザークに視線を戻す。

 体を苛んでいた激痛はすでになりを潜めている。これならもう行動に支障はなさそうだ。


「クリス、大丈夫か?」

「ああ。心配かけたな」


 俺の様子を心配そうに伺うカナリアに並び、俺達は再びイザークに対峙する。

 まだ、何も終わってなどいない。


「……一対四ってか。いいねェ、死体処理班は大忙しになるな、こりゃあ」


 壁に亀裂を生んだイザークは全くダメージを感じていない様子で、笑みを浮かべている。

 真性の戦闘狂(バトルジャンキー)だな、こいつは。

 まさに獲物を狙う目つきで俺達を睨むイザーク。


 まさかこんな形で小隊メンバー全員が揃うなんてな。カナリアがずっと望んでいたことだが、最悪の状況で迎えちまった。

 緊迫した状況で、矢先をイザークに向けて弦を引き絞った状態で声を発したのはヴィタだ。


「イザーク、アンタなんでカナリア様に楯突いてんのよ。完全な軍規違反よ。これ。分かってんの?」

「あァ、分かってるに決まってンだろ」

「じゃあ、何でこんなことしてんのよ。アンタにも目的があったんじゃないの?」

「目的……目的ねェ。今じゃそれも何だったのか分かりゃしねェよ」


 拳を構えるイザークは、「ただ……」と前置きして、


「もう止まれねェ。始まっちまったもんは終わりに向かうだけなンだよ」


 と、意味深なことを口にする。

 それはどういう意味なのか問い詰めようにも、


「御託は終わりだ! 行くぜェ!」


 ドンッ! と、強烈な踏み込みで俺達に向かって突撃するイザーク。

 その手は黒のメテオラに覆われており、彼の『権能』が未だ効力を持っていることを示している。


「お前ら、あの手には触れるな!」


 なので俺はまず、新たに参戦してきた二人にそう言って注意を飛ばす。


「了解っす!」


 と、それに応対してイザークに突撃するユーリ……って、話聞いてなかったのかよ!

 心配する俺を置き去りにユーリはその細っこい体を捻って……


解放ディクラフト!!」


 渾身の一撃を、地面に叩きつける。

 ドバァァァァアアアアアアン!!

 到底人間の拳で起こされたとは信じがたい衝撃が工房を揺らし、爆撃と見紛う様な一撃が地面を砕きイザークに襲い掛かる。


「やるなァ、ユーリィ!」


 それを跳躍して回避するイザーク。

 そして、それを狙うのが後方に控えていたヴィタの弓撃。


「空を駆け、敵を貫け──《デア・ブリッツ》!」


 ──バシュッ!

 先ほどと同じ一撃がイザークに迫り……


「しゃらくせぇッ!」


 しかし、今度はイザークの権能に阻まれる。

 衝突することで、光を撒き散らすその光景は魔術戦にも似た様子だ。

 ヴィタの使った一撃は火系統魔術の光属性。それを矢に込めて撃ったものだろう。あまり聞いたことのない戦い方だ。武器に魔術を付与するというのは。


 それだけ高等技術だということだろう。

 しかし、イザークには物理も魔術も通用しない。奴の権能の前では全てが無意味……。

 そう思っていた時だ、キンッ、と音がして一本の弓がイザークの元から弾き飛ばされ、近くの地面に叩きつけられた。

 これは……まさか……。


(奴は物理と魔術の両方を同時に吸収することが出来ない?)


 一つの仮説を立てた俺は、


「カナリア! 合わせてくれ!」


 そう言って俺は魔術を詠唱する。

 魔術だけではイザークに届かないことは分かっている。だが、魔術と物理の両方の同時攻撃なら……活路はある!


「心得た!」


 カナリアも今の一幕で同じ結論に至ったのか、俺が言うよりも早くイザークに向けて駆け出していた。

 物理のカナリアと、魔術の俺。

 両方を備えたヴィタとは違い、シビアなタイミングが要求される連携だ。だが、それでもやらなければならない。失敗したとき、被害を受けるのはイザークの近くにいるカナリアだ。ヘマするわけにはいかない。


 弓の一撃でイザークを追い詰めるヴィタ。背後から強烈な一撃を狙うユーリ。そしてそこに俺とカナリアのタッグが加わることで、形勢は持ち直した。

 魔術が、衝撃が、斬撃が飛び交う工房内。

 その中心にいるイザークは笑っていた。深く、深く。何かを嘲るように。

 拮抗していたかに見えた戦いはやがて、一方が押し込み始め、決着が見えてきた。


「ぐあああッ!」


 刀を全て折られたカナリアが地面に叩きつけられる。

 ヴィタも矢が切れたのか、すでに攻撃の手が止んでいる。ユーリも素手なので、イザークに踏み込みきれていない。それもそうだ。触れたらアウトな怪物に武器も持たずに飛び込める訳がない。

 こうして数分にも満たない時間で決着が見えたのだ。


「……もう終わりかァ?」


 ──イザークの勝利という決着が。

 強い。強すぎる。

 こっちは四人がかりでかかっているというのに、まるで歯が立たない。一時的に戦えてはいたが、すぐにイザークも対応してきて結局はこの状況。

 明らかにスペックが違いすぎる。

 奴の使う権能が凶悪すぎるのだ。


「チクショウが……ッ!」


 メテオラが使えればまだ状況は違ったかも知れないが、イザークに奪われてから、全く反応がなくなっていた。

 イメージしても、言葉を唱えても、今まで何度も助けてくれた白い光が生まれない。予想はしていたことだが、俺のメテオラの残り使用回数が奪われたのだ。イザークに。

 この状況に腹が立つ。なんでもっと早く対応できなかったのかと。思わず歯軋りしてしまうほどに。


「……つまんねェ」


 いきなりイザークがそう呟いた。

 その表情は先ほどまでの楽しげなものから一転、今度は酷く退屈そうな表情を見せている。


「何やってンだか……アホらしいぜ全く」


 額に手を当てるイザークが自嘲でもするかのように、笑みを浮かべる。


「イザーク……なぜ、こんなことを……」


 全ての刃を折られ、満身創痍で地に這い蹲るカナリアは震える声で屹然と問い詰める。


「……これが一番、オレにとって都合がいいンだよ」

「そんな勝手な……これでは約束が違うだろうッ!」

「元よりアンタに許してもらおうだなんて思っちゃいねェ。オレはオレの好きにさせてもらっただけなんだからよォ」


 そう言って、地を蹴ったイザークはカナリアの元に一瞬で移動し、


「カハッ!」

「大人しく寝てろや」


 権能宿る漆黒の拳を、カナリアにぶつけるのだった。


「イザーク!」

「安心しろや、意識を『奪った』だけだぜ。ま、ここで死んだ方が幸せかもしれねェけどな」


 カナリアを脇に抱えたイザークがそう言って、


「オレは今からカナリアを連れてグレン元帥の所へ行く」

「なッ!?」


 イザークの放った言葉に俺たちは揃って驚愕する。

 イザークがカナリアを裏切ったのは最早明白だが、こいつはそれ以上のことをするつもりなのだ。

 つまり、密告。

 イザークが何を求めてこの暴挙におよんだのかは分からないが、それによって起こる現象は明らかだろう。


「ふざけるな!」


 俺と同じ結論に至ったのであろうヴィタも叫び声を上げている。


「よくもそんな不義理が出来るわね! あんただってカナリア様に拾ってもらったクチでしょうがっ!」

「ああ。だから?」

「だからって、あんた……」

「恩を仇で返して何が悪い? それにそもそも全部コイツが勝手にやったことだろう。それに対してオレが果たすべき責任なんて何一つねェよ」


 こいつは……本気でそんなことを思っていやがるのか?

 滔々と語るイザークの表情からはいかなる感情も読み取れない。だからこそ、俺たちは絶句して二の句が告げない。


「まァ、お前らは違うンだろうな。だったらオレを追ってみろ」

「追うだと?」

「大事な大事な隊長様を守りたいってンなら……グレンフォードで待っててやる。あまり時間はないだろうが、まあ……」


 好きにしろよ、とイザークは呟き……


「『あばよ』──メテオラ」


 その言葉を最後に、俺たちは意識を闇へと手放した。

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