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神格の転生者~そして英雄は愛を歌う~  作者: 秋野 錦
新章 そして英雄は戦い続ける

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「反乱前日」

 作戦室での宣誓から二日後のことだ。

 俺達は訓練を体を疲れさせない程度に控えて、明日の大一番に備えていた。早めの休息をもらい、当日の動きをシミュレートする二日間。


 俺の役目は陽動だ。

 カナリア含める本隊がグレンフォードに攻め入り、抹殺リストに挙げられた要人を殺害する間、グレンフォード内部で敵の軍をひきつけ時間を稼ぐことが役目になっている。


 抹殺リストに挙げられた人間は全員が階級制度を利用し、甘い蜜をすする悪人どもだ。彼らがいなくなることでも帝国の風通しはよくなるだろう。それに加えて他の役人に対する見せしめにもなる。

 そうなれば現状の体制を敷いて、軍拡を続けたグレン元帥には非難と責任が集中する。

 グレン元帥の影響力が弱まったその機に、カナリアの考えに密かに賛同している軍のナンバーツー、アレン大将が現在の組織体制を一変する為に活動を進める……


 それが今回の反乱の作戦の要。骨子である。


 俺たちはグレンフォードで騒げるだけ騒いだ後、各々がグレンフォードから逃亡して身を隠す。

 軍を離れて、影から彼らにプレッシャーを与えるのが狙いだ。


 上手くいくかは分からない。けれどカナリアは自信がある様子で、皆を引っ張っている。

 彼女についていけば間違いなど無い。そう思わされるからこそ、皆は命を賭けて戦いに望めるのだ。


 不安と緊張と、張り詰めた覚悟を俺たちは胸に秘め、明日に備えていた。

 ──しかし、イザークだけはその姿を見せることがなかった。

 放っておいてもいいのかとカナリアに聞いてみたが、


「奴には作戦の日時だけは教えてある。適当に動いてくれるだろう」


 と、なんとも不確かな言葉しかもらえない。

 ……イザークの動きが分からないというのはとてつもない不安要素だ。そこだけでもしっかり把握しておきたかったのだが。


「まあまあ、来ない奴のことなんて放っておきましょうよ、それより明日に備えて一杯どうっすか?」


 小隊の四人で作戦室で話していた途中、俺の首に腕を回しながらユーリがそう言いながら手を傾けるジェスチャー。

 未成年に何を勧めているんだか。


「明日の作戦に二日酔いで来るつもりか、馬鹿者」

「いやだなー。ちょっとしたジョークじゃないっすか。隊長もどうっすか? 景気づけに一杯だけ」


 ジョークと言いつつ、本気なんだろうな。こいつ。

 ユーリが案外適当な人間だということは短い付き合いでもすぐに分かった。

 頭に手を当てて呆れた様子のカナリアがため息をつく。


「クリスにはやってもらうことがあるからな。今日は無理だぞ」

「え? 今日なんかあったっけ。俺聞いてないんだけど」

「今日は例の日だ。ほら、コレだよ」


 そう言ってぼかした言いまわしでカナリアは僅かに腰の刀を揺らす。

 ……ああ。


「刀が出来たから取りに行こうってことか」

「く、クリス!」


 何気なしに言った俺の台詞に、カナリアは慌てた様子を見せる。


「え? 刀って……まさか隊長、クリスには教えたんすか!?」

「い、いや……まあ、その……」


 珍しく言いよどむカナリア。

 その様子を見て、派手に椅子を倒した人物が一人。

 その人物は桃色の髪を揺らして突撃していく……俺に。


「ちょっとクリス! どういうことよ! 私だって教えてもらえなかったのに!」

「ぐえええ! ちょ、ヴィタ……喉、絞まる……」


 胸倉を掴みあげるようにされて、気道が締まっていく。

 く、苦しい……。


「お、落ち着いて! そのままじゃ死んじゃうっすよ!」

「これが落ち着いていられるかぁ!」


 な、何でこいつらこんなに大騒ぎしてんだよ……。

 意識が落ちるぎりぎりの所でヴィタも踏みとどまったのか、手を離してくれた。ぜえ、ぜえと息を荒げる俺を前に、


「ちょっと、カナリア様! なんでコイツには刀匠のこと教えて、私達には教えてくれないんですかぁ!」


 ヴィタがカナリアに対して、泣きそうな顔で聞いている。

 話を聞くに、ユーリとヴィタもカナリアの持っている刀が欲しくて刀匠を紹介してくれるように頼んだらしいのだが、断られたみたいだ。


「だ、だってユーリもヴィタも刀を扱うには不向きであろう?」

「そういう問題じゃないんですよぉ!」


 叫ぶヴィタの言いたいことも分かる。

 こいつ本当にカナリアのことが好きだからな。使わないにしても、同じ武器を持っていたかったのだろう。

 問い詰められるカナリアは動揺が隠しきれていない。

 やがて苦し紛れに、


「時間がないのでな! 今日はこれで解散とするっ!」


 と、俺の手を掴んでから、逃げるように作戦室を後にした。




 アネモネの工房へ向かう道すがら。


「カナリアにしてはらしくなかったな」

「恥ずかしいところを見せてしまったな」

「でもさ、あそこまで隠すこともなかったんじゃないか? ちゃんとした理由もあったんだし」


 武器と言うのは個々人に合う合わないが当然ある。それを見越して、彼らには刀を使うのが向いていないとカナリアは判断したのだろう。


「そ、そうなのだがな……なんとなく、恥ずかしくてな」


 手を合わせてもじもじするカナリアは本当に恥ずかしがっている様子。レアだ。


「本当はアネモネのこと……誰にも言うつもりなんてなかったのだ。彼女はアレで、色々と抱えているのでな」

「アネモネが?」

「ああ。だが勘違いをするなよ。彼女は我の友で、かけがえのない存在だ」

「……カナリアが誰かをそういう風に言うの、珍しいな」


 何となく口をついて出た俺の言葉に、そうかもしれないな、と笑みを浮かべるカナリア。

 彼女の口ぶりから何となく分かる。

 あの無愛想な幼女がカナリアにとってどれほど大切な存在なのか。


「親友ってヤツか」

「……そうだな。彼女は我の親友なのだ」


 遠い目を浮かべるカナリアと、アネモネの間に何があったのかは分からない。そして俺も、それを深く尋ねたりもしない。きっとそれは詮索してはいけないことだろうから。


「でも、だったらなんで俺には会わせてくれたんだよ」

「君なら会う資格があると思ったのでな。街中で出くわすよりはいいだろうし。それに、君なら決して悪いようにはしないだろうと思ってな」

「悪いように?」


 カナリアの言い回しが少し気になった俺はそう聞き返す。

 ……なんだろう。何かがかみ合っていない気がする。

 並んで歩く俺は、続くカナリアの言葉に……






「ああ。君は優しいからな。我と初めて会った次の日も何事もなく接してくれていたし……あまり、『代理戦争』には積極的じゃないのだろう?」






「…………え?」


 理解するのに、数拍の間が必要だった。

 ……カナリアは今、なんて言ったんだ?

 『代理戦争』? それって……

 何でもないようにその単語を発したカナリアを前に、俺は呆然と立ちすくむ。


「どうしたのだ?」

「か、カナリア。お前、まさか……」


 俺が震える声で、続く言葉を放とうとしたその時だ。


「むっ!」


 アネモネがいる工房へと視線を向けたカナリアが何かに気付いた様子。


「すまない! 話は後だ!」


 そう言って駆け出すカナリアは一直線に工房へと向かっている。

 俺は動揺しながらも、その背を追うことに。

 俺が少し遅れてカナリアの背に追いついたとき……ようやく俺もその異変に気付いた。


「何だよ……これ……」


 遠目では分かりにくかったのだが、工房の壁にはいくつもの凹んだ後が付けられていて、所々に血痕も見受けられた。


「とにかく、中に入ってみるぞ」


 カナリアの言葉に、工房の中へと足を踏み入れる俺達。

 カナリアは()くように進んでいる。それもそうだろう。洒落たデザインを狙ったとか、どこかのガキが悪戯したとかでなければ、アレはどう見ても……誰かが争った跡だった。


「アネモネ……」


 思わずといった様子で漏れ聞こえたカナリアの声は微かに震えていた。

 周囲に気を配りながら捜索を続ける俺達。

 そして、それはすぐに見つかった。


「アネ、モネ……」


 俺とカナリアの視線の先、そこでは────



 ────銀髪の幼女、アネモネが死んでいた。



 開いたまま虚空を見据える瞳孔は恐ろしいほど澄んでいた。

 半開きの口からこぼれた血の跡が口紅を作っている。

 横向きに倒れるその姿は、どう見ても……死体だった。

 そして、その死体の横で、立ったままそれを見据える人影が一人。


「お前がやったのか……?」


 カナリアの声にそちらを見れば、


「…………ッ!」


 凍えるような瞳でその人物を見据えるカナリアがいた。

 こんな冷たい目は始めてみる。ここまで怒っているカナリアも、だ。

 対して、絶対零度の視線を受け止めるその人物はどこまでも無表情。ちらりと俺を見たそいつは、何かを理解するような表情を浮かべた後小さな声で、


「クソったれが」


 と、微かな声で呟いた。

 そこで初めてそいつは何かにイラつくような表情を見せた。

 こいつは……一体何を考えている?

 俺達の前に立ち、俺達が見えていないかのようなその様子にカナリアが吠える。


「お前が殺したのかと聞いているんだ──イザーク!」


 工房内にカナリアの声が響く。

 イザークはいつになく真面目な様子で、


「……始まっちまった以上、どうしようもねェか」


 と、誰にでもなく呟いた。

 イザークが何を言っているのか、全く理解できない。


「始まったって……何がだよ」

「あァ? 決まってンだろォが──『代理戦争』が、だよ」


 …………ッ!

 また、『代理戦争』だと? カナリアといい、イザークといい……嘘だろ?

 理解してしまったその現実に、俺は軽薄な笑みを浮かべることしか出来ない。

 認めたくないのだ、現実を。


 ヴォイドが話していた『代理戦争』。あれ以来、ヴォイド自身その話をすることがなかったから忘れていた……いや、忘れようとしていたんだ。

 ヴォイドの語った、『運命』を。


「お仲間ごっこなんて、はなっから無理だったンだ。ここには『三人』も転生者がいる。いい機会じゃねェか、ここで──殺し合おうぜ」

「最早弁明の余地はないようだな、イザーク。軍規違反となるが……是非もない。ここで──死ね」


 無手を構えるイザークと、腰に指していた刀を二本抜き取り二刀流の構えを見せるカナリア。

 ──待ってくれよ。何でお前ら、そんなにやる気満々なんだよ。

 どう考えてもおかしいだろう。同じ小隊のメンバーだったじゃねえか。ちゃんと顔を合わせ集まったのは、初日だけだったけど……俺達はこんなことしてる場合じゃないだろう?

 明日に控えた決戦を前に、訳の分からない戦いを始めようとしている二人。


誠実の女神(イーラ)・使徒、カナリア・トロイ」

大望の女神(アウァリティア)・使徒、イザーク」


 名乗りを上げた両者の激突を俺は……止めることが出来なかった

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