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神格の転生者~そして英雄は愛を歌う~  作者: 秋野 錦
第二幕 そして少年は生まれてきた意味を知る

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第二十話 「生まれた意味」

 この世界には「神」がいる。

 七柱の女神と呼ばれるソレはこの世界を構成する柱であり、意思である。


 彼女らは各々の性質に寄って、それぞれ『慈愛の女神・スペルビア』『大望の女神・アウァリティア』『情熱の女神・ルクスリア』『承認の女神・グラ』『覚悟の女神・アケディア』『憧憬の女神・インウィディア』『誠実の女神・イーラ』と呼ばれている。


 彼女たちはそれぞれ、己の考える『正しい世界のあり方』を信じて、神の座を争っている。

 そう、彼女たちは同等の権限を持ちながらその関係には序列が存在しているのだ。己の信念を貫くため、戦う彼女たちだったがまさかお互い本気で戦うわけにもいかない。そんなことをすれば、この世界は形を保つことが出来ないだろうから。


 そこで彼女たちはこの世界になるべく影響が出ないように、他の世界から各々気に入った人物を引き寄せて戦わせることにした。つまりその戦果如何で女神同士の序列を決めるよう定めたのだ。

 そして、転生者として、この異世界で戦うことを宿命付けられた者達。

 それが──


「わしとお前さんってことやね」

「…………」


 長々と話した割りには単純なその話。そして、にわかには信じがたいその話を聞き終えた俺は絶句……よいうよりは混乱していた。

 いつになく真面目な面持ちで語るヴォイドの話で分かったことより、それにより生まれた疑問のほうが多かったからだ。


「まあ、つまりは『代理戦争』っちゅうとこやね。わしとクリスはいずれ戦う運命にあるんよ」

「……なんでそんな話を俺にしたんだよ。その話が本当なら、奇襲するなりなんなりで、さっさと俺を殺せば良かったんじゃないのか?」


 俺の至極まっとうな疑問に、ヴォイドは若干姿勢を崩しながら答える。


「それもそうなんだけどね……面倒やん?」

「……は?」

「代理戦争に巻き込まれた転生者は全部で七人。そいつら全員殺して回るってのもたいぎい話やろ? わしは戦ったりするの好きじゃないしね」

「そんな適当でいいのか?」

「いいか悪いかなんて、決めるのはいつだって自分自身。わしはそれでいいと思ったからそうしとる。クリスが悪い思うならそう思っておればいいだけの話。違う?」


 なるほど。確かにその通りだ。

 しかし、疑問はそれだけではない。


「じゃあ、なんで俺が転生者だって気付いたんだ?」


 そう。

 俺の一番の疑問点がそこだった。

 俺はヴォイドどころかこの世界の誰にも、自分が転生者であることを明かしていない。なのにばれているというのが不思議でならなかった。


「ああ、それは簡単。わしの女神に教えてもらったんよ」

「女神に?」

「おう。わしは覚悟の女神アケディアに転生させてもらったんじゃけど、わしらは普段から夢の中で交信しとるんよ」


 ヴォイドの話では毎晩夢の中に女神が出てきて、色々な情報を与えてくれるらしい。そして、そこで俺が転生者であることも教わったようだ。

 この二年間、メテオラを使いまくっていた俺のことはすぐに見つかったらしい。

 怖い話だ。

 もしかしたら他の転生者にも、すでに目をつけられているかもしれないのだから。


「クリスは夢に女神が出てきたことはないん?」

「いや、一度も」

「ふむ。他の女神のことはよう知らんからなんとも言えんけど……お前さんの女神にも何か考えがあるのかもしれんね」


 俺の女神、か。

 それってきっと俺が産まれる時に聞いた『声』のことだよな。

 声が何と言っていたか必死に思い出そうとするが、何分昔のこと過ぎて、ついでに意識が曖昧な状態のことだったから上手く思い出せない。


「こっちから何か女神に対してアクションできたりしないのか?」

「わしの知る限りではないのう」

「そっか」


 若干気落ちしながら、俺はこれまでの話を振り返る。

 代理戦争、か。

 言われただけでは実感が全く湧かない。

 それに、俺以外に六人も転生者がいるなんて思ってもみなかったことだ。

 転生チートひゃっほう! なんて思っていたらとんだ落とし穴だよ。自分の生まれた意味なんて考えたことのなかった俺にはまさに寝耳に水。


 しかしよくよく考えれば、何の理由もなく転生したりするわけがない。

 今思えば、何の疑問も持たず過ごしてきた俺のなんと浅はかなことか。


「ほんと、最初にあったのがわしで良かったのう。他の転生者なら殺されとってもおかしくない」

「……なんで、俺は何の情報ももらえず転生したのかな」

「それこそ、神のみぞ知るってやつじゃろ。会えたらその時に聞いてみたらいい」

「そう、だな」


 会えたらの話だがな。

 向こうが会おうとしない限り、それも実現しそうにない。聞きたいことが山ほどあるというのに、歯がゆい状況だよ。

 俺が頭を抱えていると、ヴォイドが手を叩いてから話を締めくくる。


「ま、これがどうやってクリスの傷を治したかって説明やね」


 そういや最初はそういう話だったな。

 確実に致命傷だったはずなのにこうして何事もなく会話が出来ているのは、ヴォイドがメテオラを使ってくれたからだろう。

 俺はベッドの上からだが、深々とヴォイドに頭を下げる。


「本当にありがとう。ヴォイドのおかげで助かった」

「なに、気にせんでええよ。メテオラの残弾はアホみたいにあるけえ」

「そういや、何で俺とお前でメテオラの回数が違う? 俺は最初108しかなかったんだが」

「ああ、それは転生者自身の器……魂の許容量によるんよ──ってまた、話逸れとるな。今はそんなこと話しとる場合じゃなかろう」

「え?」

「忘れたんか? お前さんを刺した相手のことよ」

「…………」


 忘れていたわけじゃない。

 けど、今更俺に何が出来るというのだ。

 俺とエマの仲は決定的に別れてしまっている。


「追いかけんで、いいんか?」

「……いいも悪いも、俺にその資格なんて」


 本当に、どの面下げて会いに行けばいいのやら。

 そもそも自分自身、どうすればいいのか分からなくなってしまっている。

 エマの殺意は本物だった。人からあそこまで強烈な敵意をぶつけられたのは、もしかしたら初めてかもしれない。

 ──エマとはもう会わないほうがいいのかもしれない。

 そう思っていたときのことだ。


「ん……んん?」

「よう、起きたかお嬢ちゃん」


 先ほどまでベッドに寄りかかるようにしてすやすやと寝息を立てていたエリーがその瞳をぱちぱちと開閉する。

 眠気眼できょろきょろと見回すエリーと、俺の視線がばっちりと合う。

 ボー、と数瞬眺めたあと、エリーはその瞳を見開いた。


「クリスさん! 無事だったんですね!」

「ああ。心配かけたみたいだな」

「本当ですよもう! クリスさんが血だらけで倒れているの見つけたときは私、死ぬかと思いましたからね!?」

「いや、それ俺の台詞だから」


 割とシャレにならない会話をしながら、俺はエリーにも頭を下げて感謝を告げる。

 エリーは照れたように笑ってから、いいですよそんなの、と手をパタパタと振りながらそう言った。


「というか、クリスさん。急いでエマちゃんを追いかけないと」


 そう言って今にも駆け出しそうな感じで腰を浮かせるエリー。


「いや、俺は……」


 俺はエリーの言葉に視線を逸らしながら口ごもる。

 そんな俺の様子にエリーは眉をひそめて口を開く。


「何があったか知りませんけど、追ったほうがいいと思いますよ?」

「……俺は、いい。そんな資格なんてないんだから」


 俺の言葉に、エリーは黙り込む。

 エリーの代わりに口を開いたのは、ヴォイドだった。


「さっきから資格資格って言うとるけどさ。お前さん……何を怖がってんの?」

「──ッ! べ、別に怖がってなんて……」

「いーや、誰の目にも怖がっているようにしか見えんって」


 ヴォイドがちらりとエリーに視線を送って同意を求める。それに対してエリーは控えめがちであったが、確かに頷いた。


「まあ、刺された相手に会うのが怖いって言うのは分からないでもないけどね。それにしたって、ちょいと腰が引けすぎなんじゃないかのう」

「…………」


 ヴォイドの言葉に、俺はただうつむいて黙り込む事しか出来ない。

 腰が引けている。まさにその通り。

 俺はエマに会うことが怖かった。

 それはまた殺されるかもしれないから……ではなかった。

 本質的な話をすれば、エマ自身も問題になんてなっていない。俺は人生で唯一殺した男……イワンの幻影を恐れていたのだった。


 あの日からずっと、夢に見る世界。

 ずっと、ずっと目を逸らしていた事実。

 ──俺が、人を殺したのだというその事実。

 それがたまらなく怖くて怖くて仕方がなかった。

 正当防衛だから問題ない、それに相手は指名手配犯だ、幼馴染を助けるためにも仕方なかった。


 ……これはそんな言い訳で片付ける事の出来ない、俺の罪だ。

 イワンを殺した事を誰も咎めなかった。だから、俺は「良い事」をしたのだと、思いたかった。

 だけどそうして裁かれる事なく放置された罪に対し、俺自身が耐え切れなくなっていた。


 本音を言うとさ……エマに殺されかけたとき、少しだけ嬉しかったんだ。だって、ようやく罰をもらえた気がしたから。

 だから俺はメテオラを使う事が出来なかった。

 俺は……


「俺は……エマに殺されれば良かったんだよ」

「クリスさん……」


 エリーが俺の言葉に反応して、ゆっくりとこちらに近づいてくる。

 それから……


 ──ぽすっ、と胸を打つ衝撃に俺は目を見張る。


 俺の目の前には、微かに震えながらも屹然と立つエリーがいた。

 あのいつもおろおろして、男性に話しかけられるだけで涙目になるようなエリーが自ら俺に近づき、慣れてない様子で拳を突き出したのだ。


「殺されれば良かったなんて……言わないでくださいよ……」

「え、りー?」

「私はクリスさんが死んだら悲しみます。それに、エマちゃんだってきっと」


 突然のエリーの行動に動揺しながらも、俺は否定の言葉を返す。


「そんな訳ないだろ、あいつは俺を殺そうとしたんだぜ? 悲しむわけが……」

「泣いてたんですよ」

「え?」

「エマちゃん。部屋を飛び出したとき、泣いていたんですよ」


 泣いていた? エマが?


「なんで、エマが泣くんだよ……訳がわからねえ」

「だったらそれを知るためにも、もう一度会いに行くべきなんじゃないかのう」


 ヴォイドの言葉に、俺は逡巡する。

 どうするべきなのか、どうしたいのか。それが全く分からなくなってしまっていたのだ。


「クリスさん。あなたの過去に何があったのかは知りませんし、無理に聞こうだなんてて思ってもいません。だけど……このままエマちゃんと別れることになって、本当にいいと思ってるんですか?」

「俺は……」


 俺は目を閉じて自問する。

 過去の因縁。拭えぬ罪の記憶。

 それら全てに決着を付けることが出来るのは、今この瞬間をおいて他にない。

 罰が欲しいと言うのなら、なおさらだろう。


「……俺は、エマに会いたい。会って謝りたい」


 背中を押され、ようやく搾り出した俺の本心。

 結局、俺はまだエマに俺の言葉を伝えることが出来ていない。

 だったら、伝えなければいけないだろう。俺自身の言葉で。


「いい目になったのう。それでこそ、助けた甲斐があるってもんよ。それじゃあ早速行こうかのう」

「行くって、どこへ?」

「もちろん、エマの嬢ちゃんのところへよ。クレハに後をつけさせとるからすぐに向かえる」

「……何から何まですまない」

「気にせんでええって。そんじゃま……『繋げ』──メテオラ」


 立ち上がったヴォイドの手から放たれた白い光が楕円を形作る。そして輝きを増したかと思えば、突如として別の景色がそこに映りこむ。

 俺には分かった。この非常識な現象とヴォイドの言葉で。


「空間の接続……そんなことも出来るのかよ」


 これは俺も試した事がない技だ。


「な、何ですかこれっ!?」


 エリーが驚愕の表情で叫んでいるのが、妙に滑稽に見えてしまう。一人だけ状況についていけてないエリーに俺は、


「ここで待っててくれ、エリー」

「待つのはいいんですけど、状況説明してくださいよぉ!」

「それと、これ」


 時間がもったいないのでエリーの言葉を無視して、俺は自分の胸を指差す。


「ありがとう」


 俺は本心から出た言葉を口にして、楕円へとその身を滑り込ませる。

 うじうじ悩んでいた俺に、活を入れてくれたエリー。

 おかげでようやく俺も前に進む決意が出来た。

 さあ……あの日の決着を着けに行くぞ。


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