表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神格の転生者~そして英雄は愛を歌う~  作者: 秋野 錦
神章 そして英雄は愛を歌う

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

144/158

「とある敗北者の話」

 転生者達はそれぞれ悲惨な人生を持って生まれなおしている。

 それはヴォイド・イネインにとっても同じこと。

 ヴォイドが思い出すのは過去の残滓。

 終わってしまった物語の、輝いていた時のこと。


 ヴォイドには慕ってくれる妹のような存在がいた。血は繋がっていなくても、本当の家族よりも固い絆で結ばれた存在だった。

 ヴォイドには慕ってくれる弟のような存在がいた。過去の深い因縁を乗り越え、和解した二人は何よりも信頼できる存在だった。


 本当に……本当に幸せだった。

 地獄のような世界で、唯一輝いているものだった。その光のためなら何だってできる。心の底からそう思っていた。


 だが……世界はそれほど優しくはできていない。

 ヴォイドは失敗したのだ。


 その結果が今、この状況となっている。

 転生者として生まれなおし、ヴォイドが望むことはただ一つ。

 クリスはその答えを知りたがっていたが、そんなことわざわざ聞き出すまでもない。なぜなら転生者の祈りとは、権能という形で具現化するからだ。

 つまりは『神殺し』。

 それがヴォイドの目的であり、全てを犠牲にしてでも為さねばならない事柄だ。その為に……利用できるものは全て利用してきた。

 ──例えそれが、かつて共に戦った仲間であろうとも。


「……クレハ」

「何でしょう、ヴォイド様」


 その名前を呼ぶと、いつものようにクレハは変わらない声音で返事をしてきた。血の匂いが充満する司令室で、ヴォイドはどうしてもクレハに聞きたいことがあった。


「お前は……わしのことを恨んでいるか?」


 それはこんな地獄まで付き合わせてしまったことに対する心痛だった。自分で選んだこととはいえ、覚悟していたこととはいえ、それでもヴォイドは怖かったのだ。

 かつての仲間から、軽蔑されることが。


「いえ、そんなことはありませんよ」


 そして返ってきたのはいつもの淡白な返事。

 これも分かっていた。クレハには感情というものが薄い。昔はそんなことなかったが、これも無理な転生を行ってしまった代償なのかもしれない。もしそうなら、更に後悔が増してしまうが……


(いや、後悔なんて今更じゃな)


 自分で自分の心を否定する。後悔なんて、そんなことを感じることすらおこがましい。これは自分で選んだ道なのだから。そんなことをしては、犠牲にしてきた者達に申し訳が立たない。

 目的のため、王国兵の多くを犠牲にしてしまった。彼らの中には慕ってくれていた者もいたというのに。ヴォイドはそれを切り捨てたのだ。


 故に後悔なんて感じている暇はない。

 前に、前に、前に。

 目的のため、少しでも前に。

 それがヴォイド・イネインという男の唯一の原動力だった。

 そして、


「……来たか」


 それを阻むものは全て、排除する。

 その覚悟ならもう、とっくの昔に済ましている。

 それこそ──前世から。


「クレハ、お客様じゃ。迎え撃つぞ」

「御意に」


 ヴォイドは近くにあったグレン元帥の生首を持ち上げ、近づいてくる気配に向けて準備を整える。この世界で出来た数少ない友人。それがまさか敵になるなんて。やはりこの世界は優しくなんてない。

 それもこれも、全てこの脚本を書いた神の責任だ。

 前世から続く因縁。そのツケは払ってもらわねばならない。

 そのためにも、


「悪いな……クリス」


 お前には人柱になってもらう。

 ヴォイドは開かれた扉の先、かつての友人の姿を視界に収め、薄く、笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ