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神格の転生者~そして英雄は愛を歌う~  作者: 秋野 錦
第二幕 そして少年は生まれてきた意味を知る

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第十一話 「新たな旅路、新たな仲間」

 ヴェール領を(よう)するシャリーア帝国の東側。隣国としてその軍事国家、グレン帝国はその莫大な土地を広げている。

 この世界において、最も古い国はフリーデン王国で間違いない。

 しかし、最も強く栄えている国はどこかと聞かれれば、それは十人が十人、グレン帝国だと答えるだろう。

 過去の戦争において隣国を侵略することで、着々とその国土を広げたグレン帝国。今は他国と戦争をしていないため、比較的穏やかな時分であるが、それもいつまで続くかは分からない。

 そんなある種緊迫した雰囲気のある国内。

 広い国土のその西側に位置するとある村。地図上ではアーゼルと呼ばれるその街の一角で、その騒動は起こっていた。


 武力を商売とする冒険者と呼ばれる職業の者たちが集まる場、ギルドの入り口で二人の人物が言い争いを続けている。


「だからお前がぶつかってきたんだろう? ん? いいから、さっさと金置いて失せな」


 粗暴な言葉を恥らい無く発したのはその片割れ、身長二メートルを越すのではないかという大男だ。

 暴言を浴びせられたのは真っ白な髪の少女。

 少女は全くひるんだ様子も無く、顎を突き上げるようにしながら男を見る。それは、完全に上から物を見る態度であった。

 残念ながら、二人の身長差では虚勢を張っているようにしか見えなかったが。


「大体、このギルドに何のようがあってのことかは知らねえがよ。ここはお前みたいなガキの来るところじゃねえんだよ」


 男はなおも、少女に唾を飛ばす勢いで攻め立てる。

 一切の反応を見せない少女を前に、その男は決して言ってはいけない言葉を言ってしまった。


「さっさとママのところに帰りな、お嬢ちゃん」


 その言葉が決定打。

 堪忍袋の緒が爆発した瞬間だ。


「おい、おっさん……」


 そこで少女は初めて言葉を発した。

 声変わりする前のものだから分かりにくいのだが……その声は、女の子のものではなかった。


「俺は……男だっ!」


 少女……のようにしか見えなかった少年は、大きく振りかぶり、その小ぶりな拳を思い切り大男の腹部に叩きつけた。


「ぶげらッ!?」


 情けない声と共に、大男は冗談か何かのように吹っ飛んでいく。

 その巨体はギルドの扉を吹き飛ばし、ごろごろと転がりギルド内の人間から注目を集める。


 周囲の人間が開いたギルドの入り口を見れば、そこには最近急激に名を上げつつあるとある冒険者が立っていた。地面に伸びている男が、その冒険者のことを知らぬまま、言ってはならない言葉を言ってしまったのだろうとアタリをつけた者もいる。


 十を過ぎたばかりの容姿に白色の髪。綺麗な碧眼は右側しか見えない。左側は、伸ばされた髪で隠れてしまっている。

 その少年は黒のブーツで床を軋ませながらギルドに入り、男のもとへと向かう。

 揺れる漆黒のコートをはためかせ、その男の下にたどり着いた少年は……


 ────ガスッ!


 嫌な音と共に、大男を足蹴にして再び、宣言する。


「俺は男だっ!」


 少年の悲壮な声が、ギルド内に空しく響いた。




 大男に絡まれ気分を害した俺は仕事をする気分にもならず、ギルドを後にする。

 ……あー、入り口の扉壊しちまったよ。後で請求書とかこねえかな。これ。


 ブルーな気分のまま道を歩く俺は、ふとこれまでのことを思い返す。

 クリストフ・ロス・ヴェール。

 二年前までそう名乗っていた俺はすでにいない。領地を追われた俺は国を捨て、名を捨て、全てを失ってこのグレン帝国へとやってきた。


 冒険者として食い扶持を稼ぎ始めたのは一年ほど前。

 そしてこの街にやって来たのが二ヶ月前。


「そろそろ、拠点変えるかな」


 先ほど吹っ飛ばした大男に絡まれてもたまらないしな。

 そう思うならそもそもふっ飛ばさなければ良かったのだが、こればっかりは譲れない。俺の中で、「少女」「お嬢ちゃん」「貧乳」この辺りのワードは名前を言ってはいけないあの人並みのNGワードなのだ。


 俺は普段使っている宿に戻って地図を広げる。


 聖教国シャリーア。

 グレン帝国。

 フリーデン王国。 


 主要な国家はこの三つ。そしてこの三つの国が、大雑把に『∴』の形にそれぞれ領土を持ち、対立している。この数十年、大きな戦争が起きていないのはこの三つの国が互いに互いを牽制しているからだ。

 グレン帝国に移ったのは、そちらのほうが食い扶持を稼ぎやすいから。なればこそ、この国を出て行くという選択肢はないのだが……


「他の街に行ってみるかな」


 地図を見ながら次の目的地を考える。

 旅は好きだ。

 常に新しい発見を俺に与えてくれる。


 次はどんな旅になるのか夢想しながら、俺は進路を北に取ることにした。三つ巴にある『∴』型の三国。グレン帝国はその右下にあるため、北上するということは『∴』の一番上に位置するフリーデン王国に近づくということだ。

 いつかは王国にも行ってみたい。

 そのためにも、なるだけ王国に近い場所で話を聞いてみるのもいいだろうと思ったのだ。


 こうして俺は、二ヶ月過ごしたこの街に別れを告げる決意をした。

 思い立ったが吉日。

 俺は早速、旅支度を整えて宿を出る。


 自慢ではないが、俺は知り合いが少ない……本当に自慢じゃねえな。

 とにかく、旅に出ることを告げる相手も特にいないので、俺はさっさと気分を次の街に移して街の外縁部。旅に欠かせない馬を借りようとしたところで……その人物を発見した。


「はあ……」


 深ぁーいため息をついたその人物に思わず視線が移る。

 体育座りして、染めたものではないと一目で分かる綺麗な青色の髪をいじる少女。歳は十五、六といったところだろうか。俺が目をつけたのは、その少女の可愛らしさに惹かれて……というわけではない。


 俺が目を引かれた理由。その少女は『荷馬車』に寄りかかるようにして、ため息をついていたのだ。

 馬はこの世界では貴重だ。

 だから国で馬を公的に管理して、それぞれの街を繋げる交通手段としてやり取りすることが出来るようにしている。間単に言えば、この街で借りた馬は次の街で返せばいい。そういうシステムの上で、俺たちは生活している。


 しかし、この荷馬車は少し事情が違う。

 通常荷馬車とは交易を行う行商人の持つ、私物だ。

 俺は少女の困っている様子に薄く笑って、声をかけてみる。


「何か、お困りごとかな?」


 にこやかに話しかけ、子供特有の人懐っこさをアピール。

 伏せ気味にしていた顔を上げて、少女は引きつった口を開いて話し始める。


「聞いてくれますか。実は、これからこの街の特産品を次の街に持って行こうと思ってたんですけど……護衛に雇っていた冒険者に突然依頼をすっぽかされてしまいまして」


 少女はうつろな目で語り始める。「この商売失敗したら、貯蓄が……」と漏らす少女に哀れみの視線を送らざるを得ない。

 冒険者が任務をすっぽかすなんて、相当のことがないとありえない。信頼や違約金の面で、マイナスしか生まないからだ。


「また、別の冒険者を雇ってみるっていうのは?」

「実は元手が心もとなくて……再び雇うだけの額が揃えそうにないんですよ」

「え? じゃあその最初の冒険者の報酬はどうするつもりだったの?」

「それが……報酬は前払いしてしまっていたので……」


 なんで前払いしちゃうのさ……

 そんなことしたらすっぽかされても文句は言えないぞ。

 冒険者は基本的に金で何でもこなす何でも屋だ。金を先に受けってしまえば、そういうことも起きるだろう。

 違約金と、前払い分の報酬を秤にかけて、後者が勝ったという話だ。信頼という目には見えない価値を落とすため、俺なら絶対しないけどな。

 そのことを告げてやると少女は、


「急遽、金が要ることになったから前払いにしてくれと言われまして……前の街から一緒にここまで来た人だったんで、信用してたんですけど……」


 一言で言えば、騙された、と。

 まあ、自業自得といえばそこまでだな。

 とはいえ、潤んだ瞳で頭を抱える少女が不憫に思えなくもない。そこで、俺はある提案をした。

 それは、俺の目的地である次の街……リコルに向かってくれるなら、無償で護衛を受けてもいいという提案だ。


「えっと、私は全く構わないですけど……」

「ああ、俺は馬代が浮く。お前は護衛がタダでゲットできる。これ以上ウィンウィンな取引もそう無いだろう?」


 言いよどむ少女に、俺はアピールポイントを強調する。

 なおも言いよどむ少女。何か言い難いことでも……

 ああ、そうか。理解した。


「こっちの確認が先だったな。ほい、これが俺の冒険者カード」


 俺は懐から、一枚の鉄製のカードを取り出す。そこには確かに俺の名前と年齢、髪と瞳の色に冒険者ナンバー。そして……


「び、Bランク!?」


 冒険者としての格を示すランクが示されていた。


「Bランクの冒険者じゃ物足りないか?」


 俺の問いに、ぶんぶんと首を横に振る少女。

 それもそうだろう。

 Bランクと言えば、相当の高ランクだ。FからSの七段階に分けられたランクの上から三番目。文句無く上級者だ。


「俺の名前はクリス。よろしくな」


 一度名を捨てた俺は、クリスと名乗っていた。冒険者カードにもそう刻まれている。日本での苗字が栗栖ということもあり、違和感の無い名前として使っている。

 俺みたいな子供がまさかBランクだとは思わなかったのだろう。

 おろおろしていた少女は、俺の言葉に自分もと名乗りを上げる。


「わ、私の名前はエリザベス・ロス・ツヴィーヴェルンですっ! ど、どうぞよろしくお願いしますっ!」

「地味な見た目して、名前だけめっちゃ豪華なのな。お前」


 ロス……そのミドルネームに微かな引っ掛かりを覚えながらも顔には出さない。

 とにかく、こうして俺は新たな旅の仲間を迎えたのだった。


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