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day 0 -prologue-

「パパァ! ママァ!」


 年端もいかない少女の声が、森林の奥深くに響き渡る。


「うるせぇ! 大人しくしろ!」


 男の罵声と同時に、鈍器の打撃音が鳴り響いた。

 黒髪の少女の身体はまるで抵抗が無いかのように沈み込み、少女は意識を失った。


「チッ……手間かけさせやがって……。お頭、これで全部ですぜい」


 男がお頭と呼ぶ人物の足下には、既に六人の少女の身体が転がっていた。男は先程まで喚いていた少女の頭を鷲掴みにすると、無造作にそこへと少女の身体を放った。

 お頭と呼ばれた人物は、男の言葉に無言で頷くと、少女達を、近くに停めてあったバンのトランクへと押し込み出した。男はそれに続き、少女達を一人ずつ運び入れていく。

 男は、七人目―最後まで喚いていた少女の身体を抱えその顔を覗き込むと、口元に笑みの形を作った。


(この(ソウル)……他の奴とは違う……。コイツは例の計画の要となるかもな……)


 男は少女を押し込むと、トランクを勢いよく閉め、車の運転席と乗り込んだ。後部座席には、大量の鈍器と拘束器具と共に、お頭と呼ばれる男が既に乗り込んでいた。

 男は一言詫びを言うと、エンジンキーを回し、ハンドブレーキを解除し、ギアを入れ、アクセルペダルへと足を掛けた。

 暗闇がバンのライトで照らされる。少女達が身に付けていた鞄、その身体から飛び散った血痕などが生々しく散乱している。

 男はそれを特に気に止める様子も無く、アクセルペダルを踏み込んだ。こうしてバンは、森林から走り去っていったのだった。


 


「……。……。ん……?」


 少女がゆっくりと目を見開いた。長い黒髪が揺れ、その顔を半ば隠した。少女はその髪を退けようと手を動かそうとした。―が、手は動かせない。少女の身体が拘束されているから、何よりも「肩から下が存在しない……ように感じている」からである。


「ー! ーっ!」


 少女の顔色は一瞬で蒼白に変わり、その顔が大きくひきつった。

 しかし少女は泣くことが出来ない。それどころか、痛みを感じることすら出来はしない。少女を縛り付けているその装置は、少女の身体を、意識を、心を、根元から蝕んでいるのである。


「や……だ……。たす……けて……。なな……おうちにかえりたい……!」


「ならば……帰してあげよう」


 「なな」と名乗った少女の言葉に対して、意外にも反応は帰ってきた。その声の主は、モニター越しに少女に微笑みかけた。


「君が心から家に帰りたいと思うならば、すぐにでも私が家に帰してあげよう。……ただし、パパとママには、二度と会えなくなるかもね……」


 声の主……その少女を拐った張本人にして、森林でお頭と呼ばれていた人物は、尚も一層笑みを濃くしてそう言った。


「パパと……ママに……? そんなの……そんなのいやだ……! あえなくなるの……いやだ!」


「だったら……私の言うことを聞きなさい。なーに、心配は無いよ。少しの間大人しくしれればそれでいいんだから……。いいね……?」


 両親が大好きなその少女にとって、最早選択の余地は無かった。少女は唇を噛み締めながら、ゆっくりと頷いた。


「……いい子だ。……大丈夫、お友達も一緒だから、全然怖くなんかないよ……。さあ……目を閉じて……。気持ちを楽にして……」


 少女は指示に従って、目を閉じる。装置が起動し、カプセルのようなものが展開し、少女の身体を包み込んだ。その周囲には、同じようなカプセルがその他に六台並んでいた。

 カプセル内部でガスが噴出され、少女はたちまち眠りへと落ちていった。少女の意識が途切れる瞬間、お頭と呼ばれる人物の言葉が、少女の意識の全てを、塗り潰した。


「君達はこれから、世界を救うことになるんだから」




 ―七月七日。この日は後に「アリスグリーフの七夕」と呼ばれることになる。

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