6,海沿いの早朝
日もまだ昇らない朝に昇は外に抜け出していた。
この夜は昇にとって拷問以外の何物でもなかった。同い年の少女たちと同室で床に就くのはほとほと精神をすり減らすものだった。
「こんなのが続いたら、先が思いやられる」
落ち着いて睡眠がとれないのなら、いっそ起きて外へ気分転換でもした方がまだ頭を休められる。
海岸公園の岸壁沿いに続くレンガ畳の遊歩道を散策しているとちょうどいいベンチがあった。
昇がそこに座っていると道の先からどこか見覚えのある人影が犬を連れて歩いてきた。
人影はサマリナだった。どうやら飼っている犬の散歩らしい。
向こうがお辞儀をしたのでこちらもお辞儀で返す。
言葉を発しようとしたが、すぐに言葉が通じないことを思い出して笑顔を見せるだけにした。
すると向こうは何を思ったのか昇の隣にちょこんと座る。
「いい風ですね」
通じないことは分かっているはずなのにそれでも彼女は昇に話しをかけてきた。
昇はすぐにぎこちない笑みになった。
言葉の通じない居心地の悪さとそれでも話しかけてきた相手の厚意の板挟みにあう。
「オリルさんがいないと本当に言葉が通じないんですね」
オリルたち第一の人間が身近にいれば例え絶対口語を習得していない者同士でも会話が成立することができた。
その存在はもはや自動翻訳機の域にまで達する。
「オリルさんと章子さんは宿泊先ですか?」
昇がすごく困った顔をしているとサマリナはくすくす笑った。
「あ、ほら夜が明けますよ」
ベンチの先から見える水平線の向こうから朝焼けの色が広がっていく。
その光に照らされた波は内海に似合わず波が跳ねるように高い。
「すこしお話していいですか」
サマリナはどこか気落ちした表情で言った。
「私は怖いんです」
その目は地面に向けられている。
「この星の内部にもあるかもしれない槍の存在が……」




