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神の創りし新世界より A  作者: ゴウベン
第三部 覇都の遺産
28/42

1.五番目の時代

 あの日、6つの世界は一つになった


 岸壁に着けた第五世界の海港は強い潮風の吹く湾内だった。

 潮風はまるで船の到着を歓迎する生きた海鳥のように、この異世界に辿り着いた章子たちを懐くようにして取り巻いている。

「この風、まるで生きてるみたい」

 甲板の先に取り付けられた乗降階段から先に港を一望する章子はじゃれているように感じられる潮風に髪をかき上げられながら次世界の一歩を踏み出す。

「確かに不思議な風。この世界の自然現象には時々こういう不思議な動物を感じをさせるものがあるって聞いてはいたけど……」

「それがこの世界の先行する科学分野、精神学に関係してるのかもね」

 言って後に続くオリルと昇が章子に続いて港の岸壁に降りていく。

 降り立った港は盛大なセレモニーにあふれていた。掲げる横断幕や敷かれる絨毯に外賓級の扱いが見て取れる。

 もちろんこの船には章子以外にも第一世界の使節として章子たちとは比較にならないほどの規模の使節団が乗船していた。

 その中には日本の世界で言うまだ大学生になろうかというほどの青年たちも相当数含まれている。

(あの歳でもう自分たちの国の顔として他の新世界を渡り歩いてる)

 章子にはそんな船内で親しくなった姉、兄のような存在となった彼らが眩しく見えていた。

 いつか自分もああいう立場の人間になりたいと切に思う。

 しかしそういう章子も昇と二人して、オリルと同じ色違いの何も飾り気のない一つなぎの第一の法衣に身を包んでいる。

 オリルが白で章子が薄いピンク、そして昇が深い紺色のこれが、リ・クァミス学府学会院の制服でありまた使節団の証しでもあるようだった。

「そういう濃い色って昇には特に似合うのね」

 航海前に好きな色を聞いていたオリルが意外だとでも言いたげに昇を見る。

 あらかじめリクエストを聞いていたオリルは、その色と同じ法衣を昇と章子に用意していたのだった。

「本当。わたしも意外だった」

 思わぬ女子二人の注目を受けて当の本人は困惑する。

「いや、別に、ただ好きな色っていうだけなんだけど……」

 手で裾を引っ張り変な箇所がないかを眉を寄せて確認してる様がおかしい。 

 昇と章子はそれぞれ着替えた好きな色の第一の衣で、広い岸壁の広場で第一の使節団の中に紛れていると、この使節団を率いる長と思しき人物が第五の重要人物とみられる男性となにやら握手を交わしてにこやかに会話をしているのが目に入った。

 会話が終わった後、動き出した使節団と一緒に待合室のある乗船施設を抜けると地球でいうバスそのものの乗り物に乗り込み進路を都市部に向け走りだした。

 窓から見える景色はどこか地球の東南アジアのイメージに重なって見えた。

 よく目を凝らせば、道路の造りなどはむしろ西洋寄りに近いものがあるにもかかわらずだ。

 それからしばらくして睡魔が襲いだそうとした頃、とうとうバスが目的地に着いたようだった。

 到着した場所は都市部の中にある一つの超高層ビルの一階入り口だった。

 その降り立ったビルの高くを仰いで章子は思う。

「こんな高いビル名古屋にはないよ」

「東京にもそうそうないと思うよ。なんか四百メートルぐらいありそうだし」

 章子に続いて降車した昇も同意した。

 しかも都市部だけあって、これほどの高層ビルがそこかしこに乱立している。

「これぐらいの建物に驚いてちゃ、他の世界の建物を見た日には卒倒するかもね」

 横を通り過ぎていく他の使節団員たちが次々と呆ける章子たちに構わず語り掛けては去っていく。

「そうそう他の時代には千メートル級のビルまであったからね」

「第三だったっけ? ほとんど都市が塔のようになって見えた所があったな。たしか」

 さすがに新世界を飛び回ってる御仁たちの言葉は章子たちの理解の範疇を超えている。

「なんか……」

「とんでもないところに……」

「来ちゃったね……」

 同じ第一の人間だろうにオリルまでが憮然となっているようだった。

「そんなオリルまで唖然とされてちゃ、これから先が思いやられるんだけど」

 突っ込まざるを得なかった昇が我慢しきれず言うとオリルもねめつけるような目で反撃する。

「私だって驚きたいときには驚かせて欲しいわ。いったい私を何だと思ってるの?」

「完璧少女?」

「魔法が使えるからって完璧じゃないの!」 

 機嫌を損ねたオリルがふいと先に歩いていく。

「今のは言い過ぎだと思う」

 章子が窘めるとバツ悪く昇も肯く。

「僕もそう思った」

 仕方なく怒らせてしまったオリルについていき高層ビルの一階に入っていくと日本でもこれほどはないだろう広いロビーに出た。

(ひょとして第五文明というのはアメリカみたいに大きいものが持て囃される時代だったのだろうか?)

 そう思わずにはいられない広さのロビーの中で立っている。

 手持ち無沙汰の章子と昇が受付で何やら話し込んでいるオリルを待っていると、ふと傍らから声を掛けられた。

「あの……「三日月の徒クレシェンテ」の……方々ですか?」

 声を掛けてきた主は章子たちと同年代ほどの少女だった。

 その少女が恐る恐る章子と昇に向かって上目づかいに問いかけている。

「三日……なに?」

 この五日間ほど絶対口語エスペラントの初歩を学び始めていた章子は、辛うじてこの異世界の少女の言葉の最初の出だしだけは聞き取ることができたが、文そのものの意味にまで解釈することができない。

「え?……あ、あれ?第一の方って言葉が通じるんじゃ……」

「ごめんなさい! 第一の人間は私です! 私が第一のオワシマス・オリル!」

 息せき切って走ってきたオリルが少女の前に辿り着くと胸に手を当てて息を整えている。

 そのオリルの言葉に、今さっきまで困惑していた少女も表情をぱっと明るくさせた。

「よかった。言葉が通じなかったらどうしようかと思いました」

 一抹の不安を払しょくできて胸を撫で下ろしている。

 そして改めて深々とお辞儀をした。

「お話は伺っているかもしれませんが、改めまして自己紹介いたします。わたしがこれからあなた様方、オリル様、アキコ様、ノボル様の計三名様の案内役を務めますサマリナ・リミッサと申します。

 以後これより当国サルモネイッサから旅立つ日までよろしくお見知りくださいますよう重ねてよろしくお願いいたします」

 きれいに肌の焦がれた第五文明の少女サマリナは何の邪気も感じさせない笑顔を向けて甲斐甲斐しくかつ初々しく三人を迎え入れていた。



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