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神の創りし新世界より A  作者: ゴウベン
第二部 待ち人、来たる
19/42

5.最初の夜

 ゴウベンたちとの会合を終えて、章子と昇はオリルの家の屋根裏部屋で用意された二つのベッドにそれぞれ横になっていた。

 男女一緒の部屋なのは別に気にならなかった。どうやら第一や第七といった時代の括りのせいだろう。

 第一の人たちが用意した寝巻に近い衣に着替え、横になったはいいが、どうやら自分も向こうも眠れないようだった。

「結局、その誰かと会うまで半野木くんはどうするの?」

 床に就きながら最初に口を開いたのは章子だった。

「とりあえず、ここの人たちが許してくれるなら、他の世界を見て回りたいと思ってるよ」

 それは章子も同じだった。だからか、同じ目的が重なっていることに少しだけ安堵した気持ちを感じている。

「半野木くんはすごいね」

 昇からの返答はない。

「本当に何でも知っているみたい」

 勇気をもって隣の床を見てみるがやはり昇は章子に背中を向けていた。

「わたし……この惑星に来てよかったのかな?」

 努めて独り言のように呟いた。

「いいんじゃないかな。少なくとも僕よりはいいよ」

「そう?」

「すぐ慣れるよ。少なくとも咲川さんはこの世界の科学を学んでいけば、すぐにここの人たちと同じレベルまで追いつけるようになる」

「わたしにもここの人たちと同じ魔法が使えるようになるってこと?」

「そう」

 章子にはとてもそうには思えなかった。

「手の平で氷を作るなんてこと私にできるかな」

「その前に咲川さんはもうこの文明の魔法に触れてるよ」

「え?」

 章子には心当たりがなかった。

「言葉が通じるの、不思議に思わなかった? あれも魔法だよ」

「うそ」

 あの第一の人たちとの会話が魔法?

「たぶんこの第一の文明はこの集められた新世界をリードしていく代表格の文明になるだろうね。他の時代の文明が他言語の言葉や文字に四苦八苦する中でこの文明だけが誤解なき意思疎通力を持って仲を取り持つことができるんだから」

「この文明が私たちの世界のアメリカみたいな存在になるの?」

「無欲的な分、ずっと理想的なリーダーになるよ。何より物欲が比較にならないほどないんだから」

「そっか。魔法があるんだもんね」

 章子は妙に納得した。

「魔法か……」

 手のひらを月明かりの照らす天井に向けて翳してみる。

「本当にわたしも使えるようになるかな? 魔法」

「きっとね」

「ね?」

「なに?」

「そういえば、なんで第一からの古代文明が月と地球が離れていく問題を抱えてるって知ってたの?」

 昇が少しだけ笑ったのが分かった。

「話が急に変わったね」

「ごめんなさい。でも今思いついちゃったから」

「いいよ」と昇は答えた。

「そう考えないと説明できないからだよ。この第一文明も含めた過去の文明の高度な知能進化が」

「どういうこと?」

「月が見えるでしょ。この時代の月は、月面が回って見えてたんだよ」

 それは章子にとって驚くべき事実だった。

 月明かりを指して昇は言う。

 この巨大惑星には衛星が二つあった。一つは地球の月と同じ大気をもたない月。そしてもう一つは大気を持ち地表すべてを紅い樹海で覆われた月。

 その月明かりを見ながら、元いた世界の月を思う。

「この時代の月は月面が動いて見えてたんだ。知らない? もし月の自転が今とは違って自転して動いているように見えていたら今の人間の知能は数十倍に跳ね上がっていただろうって話」

 章子は首を振る。

「聞いたことない」

「この第一からおそらく第六まで月は自転してるように地球から見えてた。それは今の地球との大きな違いだ」

「月がちゃんと自転してるように見えてるのと見えてないのとでそんなに違うの?」

 昇は頷く。

「漢字には人間に関係する臓器や部位に月へんがあるでしょ? その感性は間違ってないんだ。地球上の生物はすべて月の影響下にもある。

 もちろんそれは月の挙動だって例外じゃない。

 なぜなら、もし最初から月が回って見えていれば月を球体だと僕たち人間は初めっから気づいていただろうからね。だとしたら自分たちの立つこの大地も平地であることが疑わしい。

 ほら、もうこれだけで最初のスタート位置から差がついてる」

 昇は言った。

「たぶん月が回って見えてたか、見えてないかで一時間で一万年ぐらいの開きが出てくるんじゃないかな」

 昇は「ごめん、すこし大げさに言った」と自重気味に笑って寝返りをうつ。

「でも、その時代に月が自転して見えてたとなると確実に月と地球のバランスは取れていない。たぶんそのままの重力バランスだったら僕たちの年代までに月はあの位置になかっただろう。そして月の無くなった地球もまた軽くなって地球軌道をどんどん外れていくんじゃないかな」

「そんなに……?」

「まあ、中二の妄想だから実際はどうだかわからないけどね」

 昇は降参したように手を放る。

「でもそれは食い止められた。だから、今のこの世界の人たちはため息をついてるだろうね。あの今の地球から見える月ではあの七番目の僕たちの文明の科学水準はしょうがないって」

 昇は半ば諦めた顔をして言う。

「閉ざされてしまったんだよね。あの月が同じ面を地球に向けだした時から」

 昇の眼差しは悲しみに満ちていた。

「あれは月が地球に鍵をかけたのさ。進化を止めるカギをね」

「だから中途半端に進化したわたしたちはここの世界に相手にもされないまま、何も学ばないで自分たちの地球を汚して、醜い戦争や争いを繰り返すの?」

 昇は首を振った。

「たぶん、それは少し違うよ」

「違う?」

 昇は自分の手を見て言う。

「僕たちのコレは仕組まれた進化だ」

「えっ?」

「僕たちのこの進化は仕組まれたものだよ。きっと」

 昇のその発言はまたも章子を驚かせる。

「仕組まれた? わたしたちのこの進化が?」

 昇は頷く。

「僕たちの源流である祖先がアフリカ大陸からの発祥だって聞いたことあるよね? でも、それとは別に他の場所でも別の原始人が独自に進化して途絶えたって話も聞いたことあるんじゃないかな?」

 章子は頷いた。

「アウストラロピテクスやネアンデルタール人たちのことね」

「それは多分誰かが僕たちのこの体に仕込みこんだ進化プログラムの途中の末の現象だと僕は思うんだ。僕たちはあらかじめ人に進化するように遺伝子ゲノムを組み込まれていた」

「そんな、まさか」

「たぶん、そうだと思うよ。あの月の状態ではここまでの知能進化は奇跡でも無理だと僕は思う。明らかに人為的に仕組まれたものでもない限りね」

「じゃあ、一体誰が?」

 章子は真っ先にゴウベンの存在が頭に過ぎった。しかし昇の答えは違った。

「たぶん、第六じゃないかな。あの地球上の太古で最後に栄えた時代の」

「六番目の文明が?」

 昇は眠そうに頷く。

「たぶん彼らは分かっていたんだ。地球の体積が増大し月とバランスがつり合うのも。そして月の自転が止まったように見えて、これからの地球上で生物の進化が促されることも二度とないことも……」





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