3.真理学
「この惑星に集めた世界は君たち一番目の時代である魔法の根幹をなす事学を科学とした世界、そしてその名残りである二番目世界が記学、新たに生まれた三番目、動力学、その先だけが発達した四つ目、機工学、そしてそれと相反するようにできた五番目の文明、精神学。そしてその行きつく先である六つ目、超生物学世界。それぞれがそれぞれの主な特徴をもってあの地球上で各々栄えていた。これがこの六つの文明のもっとも象徴となる科学技術の先端だろう。
私は地球上で目立って栄えた主要な文明六つを選び抜いて、この惑星世界に呼び込み出現させた」
ゴウベンの語るその話はどうやら最初の文明の住人達にも納得のいかないところがあるようだった。
「そこまでして、この新しい世界を一体何の為に創ったのか、理由をお聞かせ願いたい」
第一世界の面々がゴウベンを見据える。
しかし当のゴウベンは思いも寄らぬ方向を見つめていた。
「君はどう思う? 半野木昇くん?」
皆が意外だという表情を隠しきれずに昇に視線を集める。
「ここで僕ですか?」
ゴウベンが頷く。隣の章子もどこか湧き上がってきた高揚した気持ちを抑えながら昇の言動を注視した。
昇は観念したように口を開く。
「少し聞いてもいいですか?」
昇が第一文明の人々に向いて語りかけた。第一の方もそれに頷くより他にない。
「あなたがたの元いた地球の直径は今の地球と比べてどうだったんですか?」
昇のこの質問は的を射ていたようだ。
「小さかった。我々のいた時代の地球は今見える地球の三分の二ほどの大きさだったよ」
「月のは?」
「そのままよ。今も昔も変わらず」
第一の女性が答える。
「じゃあ距離だけが違うんですね?」
第一の面々はどこか気まずそうに頷いた。
「それから導き出される地球圏の寿命は?」
「我々の時代から見て十数億年先だった。今からもう二十六億年ほど前の話か」
「どういういこと?」
章子が聞くと昇は答える。
「地球と月のバランスが当時は取れてなかったんだ。だから計算で徐々に地球圏の崩落が目に見えていた」
そして第一に向き直る
「あと、他の五つの時代の文明と交流を図ったって言いましたよね? その五つの時代の中で極端に地球の直径が増えている文明はありましたか?」
「え?」
「地球の直径が増えてる文明は? ありました?」
第一の人々が慌てて資料を探す。
「六番目だな。六番目の時代文明で地球の公式表面距離が大幅に伸びている」
「それか」と昇は言った。
「おそらくその第六かその前の第五番目の文明時代にその地球の体重が増えた原因があります」
「その原因とはなんの原因か?」
第一世界の大人が聞いてくる。
「その質問に答える前にもう一つ最後に聞きたいこと……いえ、お願いがあります」
「何かな?」
「あなた方の持つ魔法の力で、『氷』を作ってもらえませんか? 僕にその瞬間を見させてください」
昇のその願いに第一の人々は困惑する。
「わかりました。お見せしましょう。オワシマス」
第一の取りまとめ役の老年の女性が端寄りに座るオリルに促す。
「第七の客人に私たち第一の魔法をお見せしてさしあげなさい」
「はい」
オリルは立ち上がり手を前に翳すと瞬く間にその手の平に湧水を湛えてそれを瞬時に凍らせ結晶化させる。
「これでどう?」
オリルは少し自慢げだったが昇は別のことに目がいっていた。
「やっぱり」と昇は言った。
「やっぱり?」
「やっぱり、第一の科学技術では直接魔法で固体を作り出すことができない」
その一言に第一文明の面々は表情が凍りついた。
「あなたがた始まりの文明ではおそらくその魔法技術で直接生み出せるものは気体と液体、そして煉体だけなんでしょう?」
その昇の指摘は第一の文明にとって図星だった。
「煉体?」
章子が聞くと昇は頷く。
「物質の四大形態の一つだよ。固体、液体、気体、そして煉体。僕たちの世界ではよくその一部分をプラズマやエネルギー体と言ってるやつだよ」
「そんなのが」
「でもその中で魔法として一番生成に困難なのが固体なんだ。そうですよね?」
「君は、いったいどこまで知っているんだ?」
第一の問いにも無視して昇は続ける。
「でもそれをやったのがこのゴウベンだ。あなた方第一はそこで驚いたはずだ。あなた方でもまだ時間の必要な未来の先の魔法技術でこの惑星が召喚されたことに。これほど巨大なそれも固体を一瞬で作り出し自分たちを呼び寄せた誰かは自分たちの力の遥か先を行っているとね」
昇は言いながらゴウベンを見る。
「しかも、この話には続きがある」
第一の面々はさらにこの遥か下等な科学技術しか持たないはずの少年の考えられない予測に驚愕する。
「あなた方第一は、この世界に自分たちの未来があると知った時は嬉々として喜んだはずだ。自分たちの魔法の唯一の欠点だった固体の不生成問題。しかしここで自分たちの未来の世界に接触すればその欠陥も解消されると。
でも、それはならなかったんですよね? 期待した次の文明、第二文明は自分たちの文明よりもある意味では劣っていた。おそらくゴウベンの言った記学という言葉からして魔法崩れの技術だったんでしょう。そしてその第二の文明もまた自分たちの過去の世界に期待してたものが裏切られていた」
そこで第一の女性がハッとなる。
「やっぱりそうなんですね」
昇は言った。
そしてゴウベンを睨んでいう。
「狭間の【真理学】」
その言葉はすべての第一の人間を驚愕させた。
あのゴウベンでさえ昇のその発言に不敵な笑みを浮かべている。
「おそらくそれが、この最初の文明と二番目の文明の間にあったはずのこの宇宙の真理を悟った真科学技術を保有した地球史上最強級の文明」
半野木昇は明らかに全てを悟っていた。
「でも、あなたはそれをこの世界に呼ばなかったんだ! ゴウベン!」