2.惑星召喚
「二人は付き合ってるの?」
馬車の中で突然、オリルが聞いてきた。
吹き出しそうになった昇はあくまでなにも答えない。どうやら章子に発言権を任せようとしているようだった。
「そうよ……」
「違うよ」
何を言いだすんだという顔で章子を見る。
「僕たちも今日会ったばかりだよ」
なんと言っても昇は本当は一人で来るつもりだったのだから。
そんな昇の考えも知らず章子は少しムッとなった。
そしてこの目の前の少女オリルと出会ってからのいきさつを改めて振り返る。
オリルと出会ってから、このオリルがこれからの章子と昇の水先案内人であることを再会したゴウベンから聞いて初めて知った。
オリルはこのリ・クァミスの最高学府であるあの学院の首席生徒であるらしい。
そして、これから章子と昇はそのオリルの実家に呼ばれ、そこでこの世界の詳しい顛末を、この世界の住人たちとゴウベンから聞くことになっていた。
「オワシマスさんの家は遠いの?」
「この馬車で三時間半といったところかしら」
馬車の中にはオリルとゴウベン、章子と昇の四人しかいない。
「こんな魔法のある時代でも移動手段は馬車なんだ?」
「魔法のこと知ってるの?」
オリルの問いに章子は慌てて首を振った。
「わたしはよく知らないの。ただ半野木くんが……」
章子が視線で助けを求めると馬車の窓から外を眺めていた昇が頬杖をついたまま視線だけを寄こす。
「光より早いものは魔法だってことを知ったかぶったように言っちゃっただけだよ」
それを聞いてオリルは微かだが顔に似合わず目を見張って昇を見た。
「あなた……、どこまで知ってるの?」
昇は少しだけ笑って首を振る。
「別に何も……」
オリルはやはり怪訝な表情を解かなかった。
オリルの実家に辿り着いたのは黄昏も深まった夜の手前だった。
秋の匂いと虫の音が秋風に乗って運ばれている。
そこは金色の草々に覆われた丘陵地帯の広がる一つの峰に建つ一軒の家だった。
まるで映画にでも出てくる牧歌的な木造の古い家。
「どうぞ」
オリルが玄関のドアを開け訪問客たちを中に招き入れた。
訪問客は章子たちの他にリ・クァミスの大人たち数人。
それらの人物たちが夕餉の支度とともに奥の暗がりの広間に一同に会していた。
「私たちが気づいた時にはすでにこの世界の中に出現させられていた」
卓を囲みリ・クァミス側の中年男性が言った。
「それは私がやったからね」
ゴウベンがその当人たちの前でしゃべる。
「それで。私が話す前に、あなた方がこの一週間の内に調べ挙げたことを述べてもらいたいのだが」
「それについては私が」
卓の端に座っていた大学生ほどの女性が立ち上がって手にしたレポートを読みあげる。
「私たちはこの時代に出現した瞬間からすでに、この惑星の規模、この時代の時間軸、自分たちの世界の状態の把握に努めました。かかった日数は約半日。そこから導きだされた答えは、自分たちの遙か未来に出現したこと。自分達の元いた世界より遙かに広大な面積の惑星であること。自分たちの人口も状態もここに出現する前と後では何も変わっていいないことでした。
そしてその次に行ったのが、」
「新世界の把握……」
独白するリ・クァミスの中年男性。
「この新世界、いえ新惑星はあまりに巨大でした。そして見上げれば今まで私たちがいた星に非常によく似た惑星がある。そして空の星々の状況から私たちは一つの可能性にたどり着いたのです。
それはつまり、この惑星には我々の他に召喚させられた世界、あるいは時代がほかにもあるかもしれないということです」
「その根拠は?」
「あまりにも私たちのいた時代と今の時代には時間の開きに差がありすぎたということでした。そして、その結果がこれです」
女性が用紙を掲げ示す。
「この惑星には少なくともあの我らが母なる地球で栄えた時代の世界が少なくともあと五つあることがわかりました。その五つと我らの土地は同じ海洋上で繋がっています。我々はその他の五つの世界に接触を試みました。それがつい三日前のことです」
そしてこれがその資料です、と女性はゴウベンの前に教科書ほどの厚さの資料を置く。
さらに女性は章子たちを見て言った。
「私たちは今、あの元いた地球で現在根付いている文明世界を七番目の文明世界だと定義しています。この惑星の創造主であるゴウベンさま。今の私たちの認識にどこか間違いはあるでしょうか?」
一番目の世界の総意に流石の神も頷くしかない。
「私の存在はいつから予測を?」
「それも五つの文明を把握した時とほぼ同時です。彼らのどの科学技術にもこの惑星召喚及び世界合併を行使できるレベルにはありませんでした。もちろん向こうの第七も含めて」
この部屋の全ての視線を集めて神・ゴウベンは一息つく。
「確かに、この惑星に集めた時代、世界は君たちも含めてただの六つだ。その六つについて少しばかり紹介をさせていただこうか」
ゴウベンがゆっくりと語りはじめた。