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神の創りし新世界より A  作者: ゴウベン
第二部 待ち人、来たる
15/42

1.始まりの都

 

新世界より



 赤い流星が空に見える。

 少女はそれを見上げていた。

 

                   ※※※


 真っ赤な大気圏を抜けると、高空から風を受けて三人は落下する。

「見えるね? あれが君たちの目指す地だ」

 章子が見ると地上の大地がぐんぐんと近づいてきた。

 章子たちはその大地に向けてどんどん高度を下げていく。

 パラシュートは? と思ったがどうせそれも魔法で何とかするのだろう。

 章子たちは宇宙を渡った。まるで廊下のエスカレーターで歩いていくかのように地球からここまで数分の短い宇宙旅行だった。

「本当にここがあの惑星の世界……」

 難なく地上に着地し、辺りを見回すとそこは大草原の真ん中だった。

「重力……」

 本当にこの世界の重力が地球にいた時と何も変わない。空気も何もかもが地球にいた時と何も変わらなかった。

 ただ見上げると空だけが高かった。地球の空よりも何倍も雲までの距離がある。そして気づけば大草原の彼方に広がる地平線も、先ほどまで見ていた地球の水平線よりも遥か彼方にあることがわかる。

「やっぱりここは地球じゃないんですね」

 章子が言うとゴウベンも頷く。

「どうやら着地地点が少しズレてしまったようだ。そこまで歩くのも手間だから、少しズルをさせてもらうよ」

 そう言うとゴウベンはもう一度あの黒い真円の扉を開く。

「行こう。これで目的地に着けるはずだ」

 ゴウベンが促して三人が扉をくぐると、その先は深い森に囲まれた広大な建物の目の前だった。

「ここは?」

 昇が聞くとゴウベンが答える。

「リ・クァミス最高学府学会院。地球で一番初めに栄えた文明の最高学府にして最高の意思決定機関だよ」

 その広大な敷地を占める古代の建物は規模は違えど地球のある建物に似ていた。

「サグラダ・ファミリア……」

 美術や社会の教科書でよく見た世紀の誇る建物。

「ねえ、ここってサグラダ・ファミリアに似てない?」

 章子が昇に耳打ちすると昇も肯く。

 ゴウベンについて学院内に足を踏み入れると、通りのそこかしこで上から下まで一つなぎの法衣のようなローブを着た生徒らしき人物たちと何度もすれ違った。

「ひょっとしてここって」

「魔法を学ぶところだろうね」

 章子と昇は不思議そうに自分たちを見てくる生徒たちを無視したままゴウベンの後をついていく。

 ゴウベンの行き先は巨大な門扉の立ちふさがる大きな広間だった。

「待っていました。我らが神よ」

 開かれた扉をくぐり、そう言ったのは最奥の祭壇のように見える教壇の上で組んだ両手に顎を乗せる初老の老人だった。

「相変わらずのそんな大げさな物言いは控えていいただきたいですね。シルベストリ最高学領」

 ゴウベンはその祭壇の前で初老の老人を見上げて言う。

「さすがこの世界を創造した神だ。私の名前を存じ上げている。しかし、相変わらずとはどこかで会ったことがおありかな?」

 ゴウベンはそれを無視して先を続ける。

「私がここに来た理由はわかってもらえてるだろうか?」

「その後ろの子らが?」

 老人の言葉にゴウベンは頷く。

「それが交換条件となる」

 初老の老人もそれで頷いた。

「いいでしょう。その子らの身辺は我々が責任をもって保証します。それで神にはさっそくこの事態を説明していただきたいのですが?」

 柱や壁の陰からそれなりの警護する人物が現れはじめた。

「その前にどこか落ち着ける場所を用意してもらえないだろうか。安心してほしい。私は今日と明日はこの二人の前から決して姿を離れることはしはしない」

 ゴウベンの眼差しは強い。

「わかりました。後ろの子らにもくつろげる場所を提供しましょう。案内役を遣わします。それまでこの学院を見学なさるがよろしかろう」

 それを聞き届けるとゴウベンは章子と昇に言う。

「というわけで君たちはこれからこの学校の中でも見学してくるといいい。私はまだこの御仁と話さなければならないことがあるのでね」

 章子と昇は顔を見合わせて、しばらく考えているとすぐに頷いて扉の方へ歩き出した。

「それで私にお話というのは?」

 そこまでの会話が聞こえて扉が閉じられる。

「誰も案内役がいない」

 閉じられた大扉の前で二人だけ残された章子がため息をついていると昇が一歩踏み出した。

「どこに行くの?」

「屋上」

 上を指さして昇は言った。

「屋上?」

 昇は頷いて先を歩いていく。

「まって、待ってよ」

 章子は階段を上っていく昇の後に急いでついていった。

 大きな階段を上っていくと大きな扉を開けて広がったのは屋上からの景色だった。

「広い」

 彫刻の施された手すりに近づくとそこに果てしない彼方を見る一つの人影がある。

 どうやら章子や昇よりも先に先客がいたようだった。

「誰……?」

 手すりに手を当てながらその人影は二人を認めて言った。

 人影は少女だった。章子たちと同い年ほどの、白い衣だけの法衣を身に纏った長い髪の少女。

「えっと……」

 二人が返事に困っていると少女は言った。

「見ない服装ね。もしかしてあっちから来た人?」

 少女が指し示したのは西の空だった。そこには地球の時とは規模が違えど肉眼で確認できるほどの小さな有明の星が見える。

「あれってひょっとして……」

「地球だね。たぶん」

 ここからでも見えるのかと章子は思った。

「そうよ」

「そうだよ」

 章子と昇はそろって頷いた。

「そう。あなた達があの七番目の……」

「七番目……?」

 章子は疑問に思ったが、今はそれよりも聞きたいことがあった。

「わたしの名前はアキコ。アキコ・サキガワです。……あなたは?」

 章子が聞くと少女はクスリと笑う。

「私はオリル。オワシマス・オリル。そしてここはこの惑星で一番目の世界」

「一番目?」

 風にたなびく白い法衣に身を任せて少女は言う。

「そう。ここはこの新世界に集められた六つの世界の中で一番初めにあの地球で栄えた古代世界、第一世界「リ・クァミス」の、その首都よ」



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