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ダンピール・エピオルニス  作者: 宗園やや
ソレイユ・キャロル
99/104

27

放課後になったので、いつもより早く帰り支度をする創流とクウェイル。

そして目を合せて頷き合う。


「じゃ喫茶店に行くけど、本当に大丈夫?準備とか必要無いかな?」


創流が確認すると、クウェイルは神妙な顔で首を傾げた。


「準備って言ったって、何をすれば良いの?」


「例えば、先祖の人に相談してみるとか」


こうして話題を出せば、流れで先祖の人の話になるかも知れない。

そうなれば、自然と悩み事の相談が出来ると思った。

しかしクウェイルは素の顔で否定する。


「相談なんかしても意味無いよ。相手の目的がハッキリと分かってるんだから」


「自分の正体が知りたい、だったっけ?」


クウェイルは金髪を揺らして頷く。


「正確に言うと、上級悪魔に相談したい、だったよね。私の事を調べた上での接触だろうから、多分、先祖への繋ぎを頼みたいだけ」


腰に手を当て、だけど、と続けるクウェイル。


「先祖は絶対に表に出て来ないから、怪盗の目的は絶対に果たせない。私に出来るのは、それを伝える事だけ」


「東京のど真ん中に喫茶店まで作った人が、そんな説得で納得するかなぁ」


「納得して貰うしかないよ。しなかったら創流が大変な事になる。折角貰えたパソコンを捨てられたら嫌でしょ?」


「嫌だけど」


「私達に危害を与えると、危険を察知した先祖はもっと深い地下に潜る。って言えば危なくならないでしょ」


「上手く行けば良いけど」


「創流って、意外に心配性なんだね」


仕方ないなぁ、って顔をしたクウェイルは、創流の背後に回った。

おぶさって来るのか?と警戒したが、予想に反して普通に抱き付いて来た。

腰に手を回し、背中におでこを当てるクウェイル。


「もしも危険な相手なら、別荘の時に危ない目に会ってるよ」


「まぁ、そうかな。一日中尻の下に居た訳だし」


「確かに絶対大丈夫って保証は無いけど、私の必殺技も有るから怪盗も警戒していると思う。でも、相手の出方が分からない内に考えても仕方ない」


「分かった。案ずるより産むが易し、って言いたいんだね。行かなくても被害が有るんだし、取り敢えず行ってみよう」


「そう言う事。いざとなったら学校まで逃げれば良い。人が大勢居る所までは追って来ない筈。って訳で、行こう」


鞄を持って教室を出る創流とクウェイル。

そして昇降口まで行くと、風紀委員の腕章を着けた茎宮先輩が待っていた。


「ローレルさんに事情を聞きました。厄介事に巻き込まれている様だけど、大丈夫?」


「だから、私達だけで大丈夫ですってば。むしろ他人が入って来ると話がこじれる」


腰に手を当て、溜息交じりに言うクウェイル。

創流を説得したり茎宮先輩を説得したりと、結構大変だな。

そう思った創流は助け船を出す。


「本当に大丈夫ですから。と言うか、二人で喫茶店に行く事で風紀委員に目を付けられる方が心配なんですが」


「今日も喫茶店の前に風紀委員が立っているでしょうけど、私のお使いで行くと話を通してあるので大丈夫です」


「良かった。なら安心です」


「でも、私の家の問題で怪盗に目を付けられたんだとしたら、私にも責任が有ります。警備の者をこっそりと付けましょうか?」


「いえ。相手の機嫌を損ねると地味に派手な嫌がらせを受けるので、今日の所は俺達に任せてください」


「幾間くん家の家具を盗んで捨てる、でしたっけ?」


「はい。今日行って、俺達だけじゃどうしようもなくなったら茎宮先輩を頼ろうと思います。その時は宜しくお願いします」


「……分かったわ。気を付けて」


その言葉で納得してくれた茎宮先輩は、ようやく道を譲ってくれた。


「ローレルさん。いざとなったら、携帯で連絡を」


「うん。何も無くても、終わったら連絡するね。行って来ます」


神妙な表情のクウェイルと共に校門を潜ると、問題の喫茶店はすぐそこに有る。

茎宮先輩の言う通り、風紀委員が立っている。

カエルの着ぐるみは居ない。

割引券をくれたのは初日だけだった様だ。


「風紀副委員長のお使いで来ました、幾間創流と」


「クウェイル・ローレルです」


やたら意気込んで近付いて来るでかい男と金髪美少女に気圧されていた二年男子の風紀委員は、納得して頷いた。


「ああ、君達がそうか。話は副委員長から聞いてるよ。どうぞ」


本来なら注意すべき男女のペアをすんなりと通してくれる風紀委員。


「ありがとう。では」


満席と書かれた札が下がっているドアを開ける創流。


「いらっしゃいませー」


ドアに下げられたアナログなベルの音に反応した女性の声が客を出迎える。

店内は意外に広く、ヨーロピアンなテーブルが十個も有った。

外装と合わせているのか、こうしたかったから外装を残したのか。

それに座っているのは、制服だったりジャージだったりするが、全員が同じ学校の生徒達。

入り口付近に置かれている順番待ち用のソファーにも五人位の生徒が座っていて空きは無い。


「空いてないじゃない。ルリはどこを見て入れるって思ったんだろ」


小声で呟いているクウェイルを尻目に、忙しく働いているウェートレスのお姉さんにポストカードを見せる創流。

あの封筒に同封されていた物で、赤の下地に金のカエルと銀のキノコが描かれている。

これを見せれば店員の人が何とかしてくれるらしい。


「すみません。ちょっと良いですか?これなんですけど」


「あ、はい、オーナーの招待客ですね。窺っております。少々お待ち下さい」


ウェートレスさんは、レジの所に居る別の店員さんを目配せで呼んだ。

レジの店員さんはウェートレスさんより何歳か上な感じで、落ち着いたお姉さんだ。


「お待たせしました。こちらへどうぞ」


レジの店員さんに案内され、厨房の方に行く。

そこでは三十前後のお兄さんがパスタを茹でながらサンドイッチを作っていた。

忙しそうだ。

そんな厨房の手前に有るドアの鍵を開けるお姉さん。

中は暗くて狭い上り階段。


「どうぞ。上にカエルを目印にしている部屋が有ります。そこにオーナーが居らっしゃいます」


「ありがとうございます」


礼を言った創流は、クウェイルと目を合せて頷いた。

何が待ち受けているのか分からないので、創流が先に階段を登る。

狭いのでクウェイルは真後ろに続く。

二階に上がると、一転して和風な襖が並んでいた。

住居スペースの様だ。

その中の一枚にカエルの絵が描かれてあったので、それを開ける。

部屋の中も和風だが、絨毯、タンス、机に椅子の全てが輸入物だった。

畳に椅子を直置きすると脚の跡が付いて痛むだろうに、それに座っている金髪美女は全く気にしていない様子だった。


「いらっしゃい。やっと来たわね」


読んでいた本を閉じた美女は、青い瞳を創流とクウェイルに向けた。

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