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普通の学生として勉学に励む日々を送っていると、件の喫茶店が開店する日が決定した。
クウェイルはよほど楽しみらしく、学校でも、ゲームの中でも、話題が尽きると喫茶店の事を気にし出す有り様だった。
何がそんなに楽しみなのかは理解出来ないが、わざわざ水を差すのも大人げないので、創流も期待している感じで話を合せた。
外国人はこう言うのが好きなのかな?
偏見かも知れないが、金髪が多いイタリアとかフランスとかにはカフェがそこら中に有るイメージが有るし。
そして(クウェイルが)待ちに待った開店日が来た。
「おはよう、世太。ちょっと良いか?」
普段通りギリギリに登校して来た世太を呼び、喫茶店に行かないかと誘ってみた。
「俺を誘うのか?クウェイルさんと行けよ」
「クウェイルも行くよ。だけど、二人で行くと風紀委員に睨まれるから、お互いの友達を誘おうって話になったんだ」
「なるほどな。行くだけ行ってみるか。中には入れないだろうけど」
「みんなして決め付けるなぁ。運が良ければ入れるかも知れないだろ?」
「よっぽど運が良ければな。って言うか、開店当日に大入りじゃなかったらお終いだろ」
「ごもっともだ。クウェイルはそれでも良いから行こうって言うだろうから、頼むな」
「おはよー」
噂をすれば影、と言う感じでクウェイルが教室に入って来た。
金髪の彼女が来ると教室内の色合いが一気に明るくなる。
そんなクウェイルは、創流を一瞥してから女友達の方に行った。
「クウェイルは誰を誘うんだろ」
気になるので、世太と一緒に彼女の行方を眺める。
「へぇ。空緒さんを誘うのか。意外だな」
創流に顔を寄せ、小声で言う世太。
空緒ルリは物静かな文学少女。
明るく積極的なクウェイルとは真逆な感じの女子だ。
金髪美少女と言う反則的な存在が居なかったら、彼女がクラスで一番の美少女になっていただろう。
雰囲気が暗いので人気者にはならないだろうが。
「名前がカタカナだから、もしかしてハーフなのかな?だったらクウェイルと国が同じとかの接点が有りそうだけど」
創流がそう言うと、世太は腕を組んだ。
「いや、普通に日本人の筈だ。クウェイルさんはお前以外は満遍なく仲が良いって感じだから、気紛れなんじゃない?」
「何となく目を付けただけか。そうかも知れないな」
そして午前の授業が終わり、昼食の時間になった。
自分の席に座っている創流は自作の弁当。
その前の席を借りているクウェイルはパン。
いつもは別々の場所で食べるのだが、打ち合わせが有る今日は向かい合って食べる。
「放課後に喫茶店に行くって事で良いのかな?俺は世太を誘ったんだが」
「うん。行く。私はルリを誘ったよ」
「俺は別に誰でも良いんだけど、どうして空緒さんを誘ったの?今まで特に仲良くはなかったよね?」
「ルリは、いつも同じ行動をしているから。折角のチャンスだから、違う世界を見せたいなーって」
「同じ行動?」
「クラスメイトに用事が有って探す時、どこに居るか分からないのが普通でしょ?だけど、ルリは教室か図書室かトイレに必ず居る」
「確かに空緒さんにはそんな行動をしていても不自然じゃないイメージが有るな。でも、良くそんなのに気付いたね」
「日本語の勉強をしに図書室に行くと、必ずルリが居たから。他の場所では絶対見掛けない」
「なるほど。で、空緒さんはオッケーしたの?」
「したよ。最初は渋ってたけど、コーヒーが安かったら喫茶店で読書ってのも良いんじゃない?って言ったら、乗って来た」
「クウェイルって、意外と人の興味を引くのが上手いね」
「人の役に立ちたいって思ってるからかな?その人が何を望んでいるのかを見ようとしてるって言うか」
「なるほど。あ、それと、満席で入れなかったらどうする?待つ?それとも諦める?」
「待ちの時間次第かなー。行列が出来てたら諦めよう。喫茶店はそこまでして入る所じゃないし。その時は雰囲気を見て終わりかな」
「そうだね。じゃ、そう言う事で。世太にもそう伝えておく。空緒さんにも言っておいてね」
「うん、分かった」
頷いたクウェイルは、パンを齧りながら空緒さんの方を見た。
空緒さんは、自分の席で一人小さな弁当箱を突いていた。




