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ダンピール・エピオルニス  作者: 宗園やや
ソレイユ・キャロル
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14

ラクロス部の人達はいつ頃来るんだろうか。

そして何人くらい来るんだろうか。

創流と同じ電車に乗り、同じバスを利用したのなら、もうそろそろ到着かな。

そんな事を考えながらゲームをしている創流。

ソロでは単純作業の経験値稼ぎくらいしか出来ないので、画面に集中しなくてもプレイ出来る。

時計に目をやると、11時を過ぎていた。

いつ到着してもおかしくない。

ゲームの音を消し、天井方向に耳を傾けてみる。

何の音も聞こえない。

まぁ、聞こえたら困るが。

地上の音が聞こえるって事は、地下の音も聞こえるって事だろうから。

何にせよ今日中に来るだろうから、大人しくゲームをしておこう。

ソファーにだらしなく寝転びながらプレイを続ける。

念の為、ボリュームは最小で。

いやぁ、快適快適。

食料や電気代の心配をせずにゲームをやりまくれるなんて天国みたいだ。

だが、こんな生活に慣れたらダメだ。

先祖の人が言うには、クウェイルは頑張る人を気に入るらしい。

そして、創流がそうした人に見られたから気に入られた。

となると、だらけている姿を晒すと幻滅されるかも知れない。

折角金髪美少女に好かれているのに、こんな事で嫌われたら勿体無い。

学校内でクウェイルがおぶさって来ている時、他の男子の視線がうらやましいと言っている事には気付いている。

クウェイルは、女子相手なら気安く手を繋いだり抱き付いたりするが、男子に触るのは創流だけ。

そんな優越感を捨てるなんてとんでもない。

このバイトが終わったら、中間テストに向けての勉強を本気でしなければ。

それで良い得点を取れば、灰色の瞳を輝かせて感心してくれるだろう。

しかし、今はこのソファーを守るのが仕事。

寝転んでいたとしても、それが真面目な態度なのだ。

そんな事を考えながらゲームをしていたら、地下室の入口が物音を立てて開かれた。

誰だ?

クウェイルか?茎宮先輩か?

扉は階段の上に有るので、創流の位置からは見えないのだ。

居住まいを正し、訪問者が降りて来るのを待つ。


「お、居た居た。来たよー」


お盆を持った金髪美少女が現れた。

安心し、肩に入っていた力を抜く創流。


「やっと来たね。ラクロス部員の人達も?」


「うん。一緒に電車とバスに乗って来た。その人達は、荷物を置いてすぐにランニングに行ったよ。上が無人になったから来たの」


「そっか。それは良いんだけど……」


創流の視線が少女の胴体に移動する。


「あ、これ?ラクロス部の人達が用意してくれたんだ。臨時マネージャーは掃除と洗濯が仕事だからって」


自分の身体を見下ろしてはにかむクウェイルは、なんと紺のメイド服を着ていた。

ちょうちん袖にロングスカート、そして純白のエプロンドレス。


「こんなの、安直な萌えっぽくて恥ずかしいんだけど」


「いえ。とても似合っています。ロングスカートなのがメイドの何たるかを分かっていると思います。ラクロス部、侮り難し!」


「なぜ敬語。まぁ、創流が気に入ったんなら良かった。はい、お昼御飯。仕出し弁当だけどね。今晩は部員達の手料理になるよ」


「ありがとう。クウェイルはもう食べた?」


「うん。みんなと一緒にね」


「そっか。朝に食べたお弁当が美味しくて、クウェイルにも食べて貰おうと思ったんだけど。食べてみる?」


「へぇ。なになに?」


モニターの横に置いてある重箱を指差す創流。


「いなり寿司なんだけどね。普通の酢飯、鶏五目御飯、蕎麦が入ってるんだ。いなり寿司を美味しいと思ったのは初めてで、ビックリした」


「へぇ、そんなに?じゃ、鶏五目御飯を貰おうかな」


「うん。じゃ、お茶を淹れるね」


二人分のお茶を淹れながらクウェイルを横目で見る創流。

金髪のメイドは重箱を覗いたまま動きを止めていた。


「六個有るけど、どれ?」


「えっと、真ん中、かな?手前は酢飯の筈。蕎麦の奴は少し萎んでいるから見れば分かる」


「真ん中ね。いただきます」


抓む様にいなり寿司を持ったクウェイルは、大きく口を開けてそれを頬張った。

その様子をガン見する創流。


「んむっ!おいひい!」


輝く様な笑顔になるクウェイル。

身体の小さな金髪美少女は、口の開きも小さい。

創流なら一口で食べられるいなり寿司を、ふた口に分けて食べた。

だが、大きく口を開いたお陰で並びの良い白い歯が良く見えた。


「もう一個食べても良いよ。って言うか、全部食べても良いよ」


お茶を差し出しながら勧める創流。

しかしクウェイルは咀嚼しながら首を横に振る。


「ありがとう。食べたいけど、もうお腹一杯。上に持って行ってお腹が空くのを待っても良いけど、部員の人に怪しまれるかも」


「そっか。いなり寿司がいきなり現れたら不自然か」


「でも美味しかったよ。ありがとう、創流」


礼を言ってから、立ったままでお茶を啜るクウェイル。

創流も横に並んでお茶を啜る。

さっきの大口を見た限りでは、ヴァンパイヤでイメージする様な牙はクウェイルには無かった。

それを見る為にいなり寿司を残して置いたのだ。

先祖の人が言っていたふたつ目の必殺技は、もしかすると牙を生やす技なのかも知れない。

血を吸うコツとか言ってたし。


「ん?なに?」


視線を感じたのか、小首を傾げるクウェイル。

こう言った何気ない仕草がいちいち可愛い。


「いや。メイド喫茶とかバカにしてたけどさ。こうして見ると凄く良いな。凄く良い」


「やだなぁ。そんな目で見られると恥ずかしくなるじゃない。じゃ、もう行くね。使い終わったカップは持って行くね」


顔を赤くしたクウェイルは、自分と創流が使った湯呑み茶碗をお盆に乗せて地下室を出て行った。

白人が照れると本気で顔が真っ赤になるんだな。

さて、ゲームを再開するか。

オファーに座り直し、コントローラーを持つ創流。

創流はクウェイルの事を可愛い女の子だと思って見ている。

しかし、クウェイルは創流の事を吸血対象と見ている、のかも知れない。

深く考えると身の危険を感じて恐ろしいが、今は忘れておこう。

バイト中は仕事に集中しないとな。

残ったいなり寿司は3時のおやつにしよう。

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