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ダンピール・エピオルニス  作者: 宗園やや
ソレイユ・キャロル
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12

今夜は合宿の準備で忙しいクウェイルがインして来ないので、一人でアタッカージョブのレベル上げをしてみた。

ネトゲで一人ぼっちは寂しいが、逆に考えれば他人を気にせずに自由に遊べると言う事。

そんな気楽なプレイに没頭していると、午後8時になっていた。

食事を忘れる程ゲームに集中したのは初めてじゃないだろうか。

ゲームをする事がバイトの大部分を閉めるので、時間の無駄遣いをしていると言う罪悪感が無いせいもあるだろう。

タワー型パソコンの上に大きな時計が置いていなかったら眠気が来るまでゲームをしていたかも。

一段落付いた所で安全地帯にキャラを放置し、ソファーを離れる。

そして電気ポットで沸かしたお湯で緑茶を淹れた。

何時間もぶっ続けでゲームをしたいと常々思っていたが、実際にやってみたら妙に疲れた。

指以外動かさなくても疲れる物なんだな。

さて、夕食にしよう。

モニターの横に置いて有る二個の包みの内、上の方を取ってソファーに戻る創流。

包みを開けると、高価そうな重箱が入っていた。

バイトの食事はコンビニ弁当だと勝手に思い込んでいたので意表を突かれた。

戸惑いながら蓋を開けると、ちらし寿司と色取り取りのオカズが顔を出した。


「おお……。おせち料理みたいだ」


モニターが置かれているテーブルは遠いので、重箱は膝に乗せる。

そして普段はしない合掌をする。

行儀良くしないと罰が当たるレベルのご馳走だから。


「頂きますッ」


親戚の冠婚葬祭とかで出される豪勢な料理は逆に微妙な味だったりするが、これは美味しかった。

他人が作ったタダメシは最高だな、とほくそ笑んだその時、ゲーム内のチャット欄が動いた。

敵に絡まれた際のダメージログが流れたのかと思って焦ったが、直接会話が届いただけだった。

何かのお誘いかな?

ただゲームをするだけとは言え、一応は仕事中。

事情を知っているクウェイル以外とはパーティを組むつもりはないので、パーティお断りのサインは出していたんだが。

重箱を横に置き、無線のキーボードを膝に乗せてコントローラーを持つ。

チャットの内容は、『ちょっとお話がしたいんだけど、居ますか?』だった。

話し掛けて来たキャラ名は、ノトルニス。

知らない名前。

サーチしてみたが、同じエリアには居ない。

全エリアサーチに切り替えると、プレイヤーが集う世界の中心的な街に居た。

相手もパーティお断りのサインを出している。

なんだこれ。

相手の目的が分からない。

いや、ちょっと待て。

ノトルニスって名前、どこかで見た事が有る気がする。

脳内の記憶を必死に掘り起こそうと唸っていると、新たにチャットが届いた。


「クウェイルの先祖と言えば私の事は分かるかな?返事を待っています」


は?

先祖って、もしかして三百歳超えのダンピール?

マジで?

驚いた拍子に思い出した。

ノトルニスって、このサーバーでトップレベルの廃人じゃないか。

この人はサービス開始時から最前線を走り続けている廃人だった筈。

つまり、有名人。

接点が無いのに名前を知っていたのはそう言う訳か。

ああ、なるほど。

日本語の練習にネトゲを選ぶのは変なチョイスだと思っていたが、そう言う人が勧めたのなら納得だ。

なら、すぐに返事をしないといけないな。

ネトゲの廃人は色々な意味で怖い人ってイメージが有るので緊張する。


「夕飯を食べていて返事が遅れました。なんでしょう?」


こんなもんか。

返事はすぐに来た。


「君がクウェイルの友達って言う証拠を見せて貰おうかな。いきなりでごめんなさいだけど、こちらにも事情が有るので」


「良いですよ。どうすれば良いですか?」


「周りに人は居る?リアルの方で」


「居ません」


「おk。ふたつ質問をします。クウェイルの髪と瞳の色は?」


「金髪で、灰色の瞳」


「正解。次に、あの子は自分の正体を明かしているよね?その時に取った特殊な行動は?」


「特殊な行動って、必殺技の事ですか?」


「それ。何をした?」


「格ゲーの飛び道具みたいな事をリアルでやりましたよ」


「飛び道具を打つ前の予備動作は?」


「パンと音を立てて合掌しました」


「うん。君は本人みたいだ。直接会話だと面倒だから、パーティ組もうか。チャレール装備は持ってる?」


チャレール装備とは、簡単に言えば水着だ。

去年の夏イベントで貰えたアイテムで、南の島にテレポート出来る能力を持っている。

その島の名前がチャレールと言う。

青い海と白い砂浜が綺麗なエリアだが、お金になる敵も居ないしレベル上げにも使い難いしって感じで、基本的に無人のエリアとなっている。

リアルならレジャーで人気になる地域だろうが、ゲーム内でわざわざそんな場所に行く人は居ない。

だからこそそこを選んだ、って事か。


「えっと、持ってます。収納に仕舞ってある筈」


「じゃ、先に行って待ってる。いきなり移動をお願いしてごめんね。面倒だろうけど、君に知っておいて欲しい事が有るから」


「大丈夫です、今はあえてヒマにしてますから。すぐに行きます」

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