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開ける前から分かっていた事だったが、副委員長から貰った封筒の中身はバイトの予定表だった。
まず全体に軽く目を通した後、改めて最初から読む。
最初はどこかの別荘で一人引き籠もって貰う予定だったが、クウェイルの手品を見て考えが変わった。
あの手品が有るのなら、ただの高校生でも怪盗への牽制が出来る。
それならば、副委員長が所属しているラクロス部の合宿の中に宝石を隠せばより効果的なのではと思い至った。
何も知らない少女達の目が有れば怪盗も近寄り難い筈だ。
地元の住民と警察を利用する、と言うと聞こえが悪いが、別荘周辺の人が自然と警備人になる様に仕向ける。
大勢の女子高生が合宿している別荘を監視、もしくは調査している余所者が居たら、それは問答無用で不審者になるだろう。
そんな雰囲気を作り出すので、別荘に創流が潜んでいる事がバレても問題になる。
だから創流は自室から絶対に出られない。
気配も外に漏らせない。
昼間は部員達を外に出し、なるべくトイレには行ける様にはするが。
そんな創流の世話をする為に、クウェイルに臨時マネージャーとして参加して貰う。
トイレの時はクウェイルが替わりに椅子に座る。
食事もクウェイルが運ぶ。
部員達とは別の部屋で彼女にもネトゲをして貰うので、それを通じて連絡を取り合えば不便は無いだろう。
作戦の概要の次は日程が書かれてあった。
ラスロス部の合宿は二泊三日。
怪盗が予告した日は、その二日目。
創流のバイト日程は前に一日プラスして、三泊四日。
一日早く別荘入りして、ラクロス部員が居なくなった後に帰宅。
報酬のパソコンは、別荘を管理している人が後日宅配してくれる。
創流が持って行く物は、下着の替えとネトゲにログインする為のパスワード。
そして顔が隠せる大きさの帽子。
万が一部屋から出られなくなった時用の非常食と簡易トイレは別荘側で用意するので心配は無い。
続いて、別荘までの地図と電車賃の一万円が同封されていた。
副委員長の家の人間も怪盗の手の者に監視されているかも知れないので、切符の購入は創流に任せるとの事。
おつりの返還は必要無し。
ちなみに、別荘の手配はラクロス部がしたので、副委員長は創流が隠れられそうな部屋の確認しかしていない。
だから副委員長の家の関係者が別荘管理人に扮装し、初日のみサポートする。
ここまでしたのに怪盗に本物の宝石のありかがバレたとしたら、それはもうどうしようもない。
だから、宝石が盗まれたとしても創流が気にする事は無い。
むしろ危険な目に会うかも知れないので、そうなったらクウェイルの必殺技を利用するなりして逃げて欲しい。
逃げた先でラクロス部員に見付かったとしても、副委員長が土下座をしてでも誤解を解くので心配は要らない。
最後に、地図とお金は財布に仕舞い、手紙は再現不可能なほどに切り刻めと指示された。
もしも創流が目を付けられていたら手紙から情報が漏れるかも知れないので、読んだら即処分しろとの事だった。
随分と警戒心が高いが、本物の怪盗を相手にするんだからこれくらいは必要なんだろう。
一人暮らしの風呂付アパートにはシュレッダーなんか無いので、鍋の中で燃やした。
灰にしてしまえば心配は無い筈だ。
現時点では作戦にツッコミ所は無いし、創流がすべき事も無い。
何にせよ、四日間引き籠ってゲームすればパソコンが貰える。
椅子から動けない縛りは有るが、かなり美味しいバイトだ。
早くゴールデンウィークにならないかな、と物欲に胸を馳せながら、今日もクウェイルが待つネトゲにログインした。




