08
「それでは失礼します。エーレンスレイヤー様」
「ご苦労様」
父親の部下の中で一番地位の高い死神が、四姉妹を運んで来た五人の魔物を連れて帰って行った。
「さて、と」
一人になったエーレンは腕を組んで溜息を吐いた。
(父には困ったものだ。……バンパイヤとしての覚悟が無い自分が一番悪いんだけど)
また溜息を吐くエーレン。
四姉妹は、父親の部下の手前だった事も有り、地下牢に入れた。
ノトルが掃除をしてくれたお陰で湿気は少なくなったが、そこが寒い事に変わりは無い。
(娘達は、隅に隠しておいた毛布に気付いただろうか……)
別に今すぐ様子を見に行っても構わない。
だが、まだお互いの顔を確認していない。
四姉妹が下等な魔物に襲われない様にと、密閉された木箱に入れられてエーレンの城に届けられたからだ。
誘拐された上に無茶な運送方法をされたので、不用意に近付いたら窮鼠猫を噛む的な捨て身の攻撃をされるかも知れない。
そうなったら反撃せざるを得ないだろう。
安易に予想されるトラブルは避けたい。
(私がダメとなれば彼女に頼むしかないのだが……。まだ寝ているだろうな)
夜の眷属であるエーレンは夜中に活動するが、人間であるノトルは昼に活動する。
最初、ノトルも夜に起きようとしていたが、昼夜逆転は身体に悪いから止めさせた。
魔界には人間の医者が居ない為、ここに居続けたいのならば健康でいろと命令したのだ。
しかし、本当の理由は別に有る。
エーレンは自分の主義が有るから吸血をしないだけで、バンパイヤの本能としての吸血衝動自体は普通に持っている。
目の前で処女がウロチョロしていたら、何かの拍子に襲ってしまうかも知れない。
だから早朝と夕方のみの顔合わせにしたのだ。
「あの、何をしているんですか?」
どのくらい考え事をしていたのか。
不意に背後から声を掛けられた。
驚いたエーレンは、三階廊下の隅に追い詰めたネズミの様な姿の魔物を逃してしまった。
「あら、ネズミですか。次の買い出しで猫いらずを買わないといけませんね」
「ああ、ノトル。やっと起きましたね。君に相談が有るのです。宜しいですか?」
「え?ええ、構いませんよ。お茶を用意しますから、リビングで待っていてください」