07
「実はさっきの技、手品じゃないんだ」
生徒指導室を後にした途端、パンの残りを齧りながら言うクウェイル。
「手品じゃないって事は、本当に何かの飛び道具を撃ったって事になるけど」
「もしも創流が怪盗って奴に出会ったら危ないんじゃないかなって思ったんだ。頑張っている創流が怪我とかしない様に、私が守らなきゃって」
創流の腕を掴み、歩みを止めるクウェイル。
灰色の瞳は廊下の先に向いている。
「だから秘密をバラしてでもバイトに行きたかったの。でも言えない部分も多いから、創流にだけは本当の事を言う。耳を貸して」
クウェイルに引っ張られるまま、廊下の隅でしゃがむ創流。
彼女との身長差は50センチ以上有るので、そうしないと小声での会話が出来ないのだ。
「私はね、ダンピールって奴らしいの」
周囲を見渡し、誰にも聞かれていない事を確認してから勿体ぶって言うクウェイル。
「ダンピール、って何?」
「ヴァンパイヤと人間のハーフ」
真面目な顔で奇妙な事を言うクウェイルに噴き出してしまう創流。
「うそだぁ。だって、今は真っ昼間だよ?ヴァンパイヤって、太陽に当たると死んじゃうんじゃなかった?あ、ハーフだと違うとか?」
窓を見上げる創流。
気持ち良い春の空が広がっている。
「そこの所は複雑だから、ここでは言えない。詳しくはゲームの中で言う。だから今夜はまったりと経験値稼ぎでもしようか」
「俺の金策は?」
「また明日で良いじゃない。どっちにしろ、バトルフィールドに行くにはザコ敵が出すアイテムを集めなきゃいけないんだし」
「そうだけど。じゃ、それで良いや」
「うん。一応言っておくけど、私はウソを言わないからね。だから信じて。私は創流の為に秘密を教えるんだから」
自分の言葉に首を傾げ、金色の眉毛をヘの字にするクウェイル。
「何か、恩を、恩を売りたがる?えーと……、恩、おん」
「恩着せがましい?」
「多分それ。それっぽくなってるね。そう言うつもりじゃないんだ。善意。好意。そう言うのしかないから」
「分かったよ。珍しく日本語が不自由になったね。落ち着いて」
「うん、落ち着く。日本に来てまだ一年だから、難しい日本語はまだまだだね」
金色の頭を掻きながら照れ笑いするクウェイル。
かわいい。
「え?一年?じゃ、こっちに来てすぐにネトゲを始めたの?口数は少なかったけど、最初から日本語でチャットしてたよね?」
創流達がやっているネトゲには海外版も有る。
しかし海外版では日本語入力は出来ない筈だ。
「言葉での会話はTVとか見れば大丈夫だけど、読み書きは誰かに見て貰わないと合ってるかどうか分からないからね」
「だから文字で会話をするネトゲをしたの?それって凄いんじゃない?」
「コミュニケーションに関する適応性の高さもヴァンパイヤの特徴らしい。言葉が通じないと相手を魅了出来ないから、とか言われた」
創流から離れ、パンの残りを頬張るクウェイル。
「詳しくは今夜かな。集合はいつも通りの時間で」
「分かった」




