06
一日中ゲームをすると言う美味しいバイトを受けると、美人の副委員長は満面の笑みになった。
「ありがとう!じゃ、お家の人に許可を取って貰えるかな?3,4日の泊まりになるから」
「それなら大丈夫です。俺、一人暮らしですから。親はこっちでの生活に干渉して来ません」
「あら。そうなの?」
「はい。ウチは農家なんですが、最近は色々と厳しくて。だから都会の学校に入って、こっちで良い仕事を見付けろと言われまして」
「厳しいのに自由な一人暮らしをさせてくれるんだ。幾間くんは次男とかなの?」
「いえ、長男です。良い仕事をして老後の為の預金をしておけば、農業がダメになっても困らないから、と」
「今、農業はそんなに厳しいの?」
「厳しいみたいですね。親としては家を守る気は有るけど、ダメならしょうがないって考えみたいですね」
「面白い親御さんね。少しドライだと思うけど、柔軟に将来をお考えになられているのね」
「そんな訳ですから、留年したら即田舎に帰る約束をしています。残念な頭で頑張っても無駄だからと」
「あら。だったらゲームをしているヒマは無いんじゃないの?」
「大丈夫ですよ。まだ一年ですし。受験開けなので、羽根は伸ばせる内に伸ばしておかないと後々きつくなりますから」
「へぇ。君も色々と考えているのね。感心だわ」
「いえいえ。だから、ネトゲをする時は安いゲーム機でやってるんですよね。なので、パソコンが貰えるのは凄くラッキーなんです」
黙々とパンを食べていたクウェイルが音を立ててお茶を啜った。
そして一息吐いてから口を開く。
「だから創流は朝早く学校に来て教科書を読んでるんだね。そう言う理由で勉強を頑張ってたんだ」
「まぁね。留年で田舎に出戻りなんて格好悪過ぎるだろ?最初はマンガを読んでたんだけど、時間とお金が勿体無くなって来てね」
日本人特有だと思われる照れ隠しの苦笑いをする創流。
すると、クウェイルは半分ほど残っているパンを握り締めながら灰色の瞳を輝かせた。
「私、ただ何となく生きてた。でも、創流に刺激されて、何かしたくなって来た!私もバイトします!バイトさせてください!」
椅子に座ったまま前のめりになり、副委員長に金色の頭を近付けるクウェイル。
「二人で守れば安心度は上がるでしょうけど、別荘にパソコンを二台も運んだら不自然だわ。派手な動きをすると怪盗にバレるかも知れないでしょ?」
金髪美少女の鼻息の荒さに副委員長が苦笑いをする。
やる気になるのは構わないが有難迷惑だ、って感じの笑み。
「大丈夫です!自分のノートパソコンを持って行きますから!お金も要りません!ゲームするだけですから!」
「でも……」
副委員長が渋ると、クウェイルは机に手を突いて立ち上がった。
「そうだ!創流がトイレに行く時は私が椅子に座れば良い!でしょ?」
「良いアイデアだけど、そう言う事じゃないのよ」
「どう言う事?」
「男と女が二人きりで別荘に泊まる事が問題なの。私が風紀委員じゃなかったとしても受け入れられない提案なのよ」
「あ、そっちか。そりゃそうだよね。じゃあ、えっとえっと……」
ファイテングポーズみたいな姿勢で唸るクウェイル。
必死に思案を巡らしている様だ。
「じゃ、私の秘密をひとつだけ教えてあげる!それを見たら、私も怪盗の相手が出来るって分かるはず!」
周囲を見渡したクウェイルは、副委員長がコンロの脇に置きっ放しにしていた茶筒に目を止めた。
「これを良く見ててねー」
茶筒をパイプ机の端に置き、その対岸に移動するクウェイル。
「実は私、必殺技が使えるのです」
得意げにそう言ったクウェイルは、胸の前で力一杯手を合せた。
パァン!と小気味良い音が鳴る。
全力でいただきますのポーズをした様にしか見えない。
「せーの、やっ!」
合せた手を勢い良く前に突き出し、両の掌を茶筒に向ける。
すると、スチール缶にデコピンをした様な音を鳴らして茶筒が吹っ飛んだ。
目の前で起こった怪現象に驚いた創流と副委員長は、口を開けたまま固まった。
「どうです?凄いでしょう?手品です」
「て、手品?そ、そうよね。それはそうよね」
煮え切らない表情をしている副委員長に向けて胸を張るクウェイル。
背が低いのに副委員長より膨らんでいる。
あえて何がとは言わないが。
「この技、役に立つと思うよ。タネがバレると威力が半減するから、どう言う技かは秘密だけど」
混乱していても埒が明かないと判断し、咳払いをして立ち直る副委員長。
「分かったわ。ローレルさんも参加出来る様、考えてみる」
「ありがとう!でも、私がこれを出来るってのは秘密にして貰えるかな。お願い」
「ええ、承知してるわ。貴方達も、今回の事は誰にも言わないでね。もしもバイトが出来なくなるんだったら早目に教えてください」
「はい」
詳細は後日伝えるとして、この場は解散となった。




