04
人混みが苦手な創流は朝のラッシュを避ける目的で早目に登校しているので、ヒマ潰しに教科書を読み込むのが日課になっている。
そうして内容を把握しておけば授業内容の理解も早くなり、予習復習が必要でなくなる。
結果、ゲームをする時間が増えるって訳だ。
「おはよー」
この高校に入学してから初めてかも知れない。
クウェイルが正面から近付いて来る姿を見るのは。
いくら言っても背後を取るのを止めなかったのに、やはり停学は嫌なんだな。
「おはよう」
「昨日は残念だったね。今夜も行く?」
挨拶を返した創流に輝く様な笑顔を向けるクウェイル。
昨夜、ネトゲでの金策に二人でバトルフィールドに突入した。
バトルフィールトとは、ゲーム内のお金やアイテムを使って専用エリアを占有し、名前の有る強敵と戦うコンテンツの事だ。
本来は盾一人、アタッカー二人、回復役一人、の計4人で突入する物だが、創流達は二人で入った。
少人数になると当然厳しい戦いになるが、クウェイルはゲームが上手いので問題無く勝てた。
そこで回復役をしていたクウェイルは、256分の1の確立で出ると噂されている大当たりアイテムをゲットしたのだ。
だからこの笑顔である。
一晩経っても嬉しさが残っているんだろう。
ちなみに、盾役兼アタッカーの創流は大ハズレ。
まぁ、普通はハズレるから当たりアイテムが高額になるんだが。
「そうだなぁ。他に予定が思い付かなかったら、そうしようか」
教科書を伏せながら考えていると、風紀委員の鷲ヶ岳さんが間に割って入って来た。
「仲が良いわね。夜に二人でどこかに行くの?それって、この学校じゃなくても大問題なんだけど?」
「ゲームの中の話だよ。昨日話したネトゲ。風紀委員に睨まれる事は何もない」
慌てて訂正する創流。
勘違いで停学になったら本気で笑えない。
「なら良いけど。でも、幾間くんに風紀委員からの再度呼び出しよ。お昼を食べたら、昨日と同じ生徒指導室に行ってください」
「え?また?」
「ええ、また。確かに伝えたわよ。放課後じゃなく、お昼休みだからね」
「創流だけ?私は?」
鷲ヶ岳さんは創流達とは違うクラスなので、さっさと立ち去ろうとした。
そんな彼女の袖を握って訊くクウェイル。
日本人の日常の中では、他人に腕を掴まれる事は滅多にない。
あるとすればケンカ中くらいか。
なので、鷲ヶ岳さんは驚いた顔をした。
「クウェイル。だから、いきなり腕を掴むなってば。仲の良い女子同士で手を繋ぐ感覚なんだろうけど、慣れていない人だとビックリするから」
「あ、ごめん、つい。私、人を触ろうとするクセが有るみたい。ごめんね」
創流が注意すると、クウェイルは謝りながら袖を離した。
「いえ。そう言えば、呼び出しは幾間くんだけね。気になるなら貴女も行ってみたら?」
そこで予鈴が鳴ったので、鷲ヶ岳さんは教室を出て行った。
適当に雑談していたクラスメイト達も自分の席に戻って行く。
「昨日、駅でおぶさったのがバレたのかな?」
創流が肩を竦めると、クウェイルは桜色の唇を尖らせた。
「もしそうなら二人での呼び出しじゃない?」
「そりゃそうか。で、おぶさる原因になった赤髪ドレス女って結局何だったの?」
「だから、分からないの。あからさまに怪しかったから隠れただけ」
「怪しいってどう言う事?格好は確かに怪しかったけど、だからと言って隠れなきゃいけない意味が分からない」
そこで本鈴が鳴ったので、クウェイルは素早く自分の席に戻って行った。
逃げたか。
まぁ良いや。
この話はここで終わりにしてやろう。




