01
一見するとイケメンだが、良く見るとそれほどでもない世太が、いつも通り予鈴ギリギリに登校して来た。
その足で創流の机にマンガの単行本を置く。
唐突な行動をされて面食らった創流は、友人の顔を訝しげに窺った。
「ん?何だコレ」
「例の一巻だよ。持って来てやったぞ」
「ああ、そう言えば……」
世太と交わした昨日の会話を思い出す創流。
最近流行っているマンガの話になったのだが、創流はそれを読んだ事が無かった。
だからお試しで一冊だけ貸してくれる事になっていたんだった。
忘れてた。
休み時間中の他愛の無い雑談の中での適当な約束だったのに、キッチリと守ってくれる世太は良い奴だ。
「サンキュー。面白かったら続きを買ってみるよ」
「それより、踏ん張れ。創流」
「はぁ?……あっ!」
世太の言葉の意味に気付いた創流は、机の端を握って全身に力を込めた。
直後、背中にぶち当たって来る物体。
「おはよう!創流!世太も!」
「お、おはよう。あのなぁ、クウェイル。気配を消して背後に回るのは止めてくれっていつも言ってるだろ?」
創流の不機嫌な声には構わず、その首に巻き付いて来る細い腕。
「気配消さないと創流は逃げちゃうじゃない。別に良いでしょ?減るもんじゃなし」
少女特有の甘い声が耳元で囁かれる。
同時に金色の長い髪が創流の肩を撫でているので、朝っぱらから妙な気持ちになってしまう。
「俺は苦しいんだ。マジで止めてくれ」
動悸を誤魔化す様に突っぱねてみたが、女子にくっ付かれる事自体には悪い気がしない。
だが、創流は健康な高一男子。
なので、色々と困る。
困るのだ。
「おはよう、クウェイルさん。えっと、創流に抱き付くと、後ろから丸見えになるよ」
世太が助け船を出してくれるが、クウェイルは創流から離れない。
「丸見え?ああ。ニッポンの女の子のマネをして、私もスカートを短くしてるからね」
床から足を離し、創流の背に全体重を乗せるクウェイル。
首は苦しいが、肩甲骨の辺りに押し付けられている胸は柔らかい。
クウェイルは外人だからか、そこそこスタイルが良いので余計に質が悪い。
「でも大丈夫。下に短いスパッツ穿いてるから、見えても平気だよ」
「いや……。下着がどうこうじゃなくて、スカートの中身が見えるって言う事実が、その、……ねぇ?」
「?」
世太の言葉を理解してくれないクウェイル。
首が締まらない様に気を使ってくれてはいるが、さすがに苦しくなって来たので、クウェイルの腕をタップする創流。
離れろと言っても聞かないクウェイルだが、こう言う時は空気を読んで離れてくれる。
「つまり、短パンでも、脚全部を隠すジャージでも、スカートの中身がチラチラしてたらつい見ちゃうって事だよ」
軽くなった首を擦りながら説明する創流。
続いて世太も口を開く。
「そうそう。で、見てしまった事に罪悪感を感じてしまう訳だよ、こっちとしては」
「ふーん。じゃ、抱き付きたかったらスカートを長くしろって事?でも私一人だけスカート長いのも変じゃない?」
創流の正面に回るクウェイル。
透ける様な金髪。
外人らしい高い鼻。
しかし背は低く、童顔だ。
目立つし明るい子なので、校内でクウェイルを知らない人は居ないってレベルの存在感を持っている。
そんな子に気に入られるのは、正直悪い気はしない。
悪い気はしないが、おぶさって来るのだけは止めて欲しい。
「いや、俺に抱き付かなきゃ、それで解決するんだよ。それだけなんだよ」
「それだけなんだぁ」
クウェイルは納得した風に頷いたが、今後も隙を見せたらおぶさって来るだろう。
絶対に。
どうしてそんな事をするんだろうか。
おかしな外人だ。




