71 愁い
そのベッドの周りには家族全員が集合していた。
大人も子供も沈痛な面持ちでベッドで横たわっている老女を見守っている。
「調子はどう?」
家族ではない女性が無断で部屋に入って来て、ベッド脇の椅子に座った。
しかしその行動を咎める者は居ない。
なぜなら、その女性は老女の事を家族達よりも深く理解しているから。
「まずまずね……。もう何も感じないせいかしら……」
女性に話し掛けられた老女は、大きく息を吸ってからそう応えた。
「そう。それは何よりね」
老女は細くて皺くちゃな腕を布団から出し、女性の膝に掌を置く。
「もっと良く顔を見せて頂戴、エピオル」
「フフ、ミンナったら。こんな顔、見飽きたでしょう?」
「そうね。貴女、ずっと顔が変わらないものね」
エピオルとミンナは微笑み合う。
「私、ちょっとだけエピオルが羨ましい。私の孫より若いんだもの」
「私はミンナがとても羨ましい。家族に囲まれて幸せそうなんだもの」
「幸せそう、じゃないわ。幸せ、なの」
大袈裟に顔を逸らし、舌打ちするエピオル。
「年寄りは意地悪で困るわ」
「同い年のくせに。……これからも待つの?」
「勿論。やっと後二十年になったんだもの。まだまだこの村から動かないわよ」
「……ああ、ごめんなさい、お迎えが来たわ……。みんな、仲良く、健康に、そして清く正しく過ごしなさいね」
家族に別れを告げた後、親友に笑みを向ける老女。
「それじゃ、エピオル。私は先に逝くね。向こうでもエピオルの幸せを祈ってるわ……」
「ありがとう。私もミンナの事、永遠に忘れない」
老女の身体から力が抜け、その手がエピオルの膝から落ちた。
泣き始める家族達。
「そして、生まれ変わりを信じてる」
立ち上がるエピオル。
その金の瞳から涙が零れる事はなかった。




