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「ふう、やっと終わった。お母さんって大変だったんだなぁ」
日の出と共に洗濯を始めたのに、もう昼になった。
慣れない仕事だから、無意味に時間が掛かってしまった。
「朝ご飯を抜いて頑張ったのになぁ」
冷たい水仕事で真っ赤になった手を擦りながらシーツ一枚と一組のドレスと下着を干し、洗濯に使った水を垣根の木の根元に撒く。
匂いが落ちるので母のシーツは洗いたくないが、そう言う訳にもいかないだろうな。
まぁ、洗うなら明日だな。
「こんにちはー。あ、お庭に居たのね」
仕事が終わった解放感で伸びをしていると、垣根の向こうにお盆を持ったミンナが立った。
「こんにちは、ミンナ」
垣根越しに挨拶を返すエピオル。
すると、ミンナは大きなバスケットを垣根の隙間から見せて来た。
「お弁当を持って来たんだ。お昼、一緒に食べよう?」
「うん。ありがとう」
二人は一緒にエピオルの家に入った。
リビングの暖炉に竈用の薪を敷き、ミンナが持って来たランプで火を点ける。
「ふう、暖かい。お湯が沸いたら……、あ、暖炉用のポットを洗ってなかった。うーん。やっぱり竈にも火を入れないとダメかな」
喋りながらキッチンに行くエピオル。
「うえぇ~、お茶っ葉にカビが生えてるぅ~!あ、まさか!」
足元の床を開いて食料庫を覗くと、やはり一面にカビが生えていた。
しかもエピオルが通った跡がハッキリと残っている。
脱いだ旅の服が臭かった訳だ。
これでは保存食も全滅だろう。
「……ねぇ、エピオル。私の家に来る?私の家族は良いって言ってるよ」
声も出せずに茫然としているエピオルの肩に手を置き、しっとりと言うミンナ。
「いえ、良いの。これからは私一人でやって行かなきゃいけないんだから。ははは」
エピオルは乾いた笑い声を上げる。
強がりだが、生活力を上げなければ父を捜しに行く事は出来ないだろうから、ここは絶対に曲げられない。
「そう。じゃ、私の家からお茶っ葉を持って来るから準備をしててね」
「うん。ごめんね、行ったり来たりさせて」
「良いのよ」
ミンナが家から出て行く様子を見ながら肩を落とすエピオル。
「……しっかりしなきゃ」
暖炉用のポットを洗い、それを火に掛けたエピオルは、カビが生えた食べ物を全部ゴミ箱に捨てた。
「お茶が終わったら、食料の買い溜めと、地下食料庫の掃除かな。はぁ。いつになったら調べ物が出来るんだろ……」




