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日が暮れて来たので雨風が防げる程度のボロ屋に入るダスターとエピオル。
エピオルは家に帰りたがったが、村に不審者が居て危ないと説得し、ダスターの家に連れて来たのだ。
木の上から村人ではない男を見ていたので、渋々納得して従うエピオル。
「ダスターはいつもこんな生活をしているんですか?」
ボロ屋の床は全部土だから、靴を脱ぐ必要が無い。
と言うか脱げない。
そして、草を編んだゴザがベッドらしい。
「うむ。たまには良いだろう?」
「うぅーん、まぁ、たまには。そんな事より、私がここに居る事を、ちゃんとお母さんに伝えてくれましたか?」
「ああ。ノトルニスは、エピオルがここに居る事を知っている」
青の淵に誰も居ないと判断した怪しい男を追って、ダスターは村の方に行った。
しかしすぐに帰って来て、エピオルを木から下した。
その僅かな間で本当に伝えらたのかは疑問だが、お昼に帰らなかったのに母が青の淵に来なかったので、承知はしているんだろう。
ここは納得しておくしかない。
「そうですか」
一枚しかないゴザに座るエピオル。
ダスターは地面に直接座り、囲炉裏の火を熾した。
(でなければ、妙な男達に家を囲まれているのに、あんなに落ち着いていられる物か)
ダスターは、棒に刺さったウサギの肉を囲炉裏の火で炙り出した。
その様子を見ながら昼間の事を思い出すエピオル。
村に帰れなくなったので、今日の修行は食料の確保に変更となった。
ダスターに罠の作り方を教わり、それを森の中に仕掛けたらウサギが掴まった。
エピオルはそれで終わり、と思っていたのだが、ウサギを食べるには肉片にしなければならない。
だから解体したのだが、その全てはダスターが行った。
まだ幼いエピオルが刃物を使うのは危ないと言う理由で。
しかし食糧確保を学ぶのが今日の修行なので、『血の匂いが届かない距離』から解体の様子を見せられた。
料理自体は母の手伝いをするので慣れているが、獣を1から解体するのは初めてだったので、正直吐きそうだった。
「でも、兎の皮って意外と簡単に剥けるんですね。気持ち悪いけど」
「うむ。ノトルニスと相談して許可を貰ったら、エピオル用のナイフを作ってやろう」
「それは私も解体しろって事ですよね」
「そうだな。出来ないよりは出来た方が良いからな。それ、焼けたぞ」
こんがりと焼けた兎の肉を、棒に刺したままエピオルに手渡すダスター。
切って焼いただけの肉を料理と呼んで良い物だろうか。
ワイルド過ぎる。
「い、いただきます」
お昼は森に生っていた木の実を食べただけなので、とてもお腹が減っている。
気に入らないから食べたくないとワガママを言う余裕は無い。
意を決し、表面に付いた灰を出来るだけ息で吹き飛ばしてから熱々の肉に齧り付くエピオル。
「……美味しくない……」
変な顔で呟くエピオルを見てダスターは大笑いをした。
「うむ!ノトルニスの手料理しか食べた事の無いエピオルには、この味は分からないだろうな」
「って言うか、塩とかコショウとか、そう言うのが無いからマズイんですよ。無いんですか?」
「無い。だが、大切な命を食べるのだ。調味料が無くても、残さず食べような」
ここでの生活に慣れているダスターは、灰が付いたままの肉を頬張った。




