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「申し訳有りません。娘さんを見付けられませんでした」
男二人は村中を駆け擦り回ったので、おもいっきり息を切らせている。
その様子を見たリーダーの男は冷静に頷く。
「そうか。では、しばらく待つか。まだ幼い子供と言う話だから、日が暮れる前には帰って来るだろう」
旅支度を終えているノトルは、リビングのソファーに座って男達を観察していた。
動きに全くスキが無いので、不審な動きは出来そうもない。
しかし教会の人間なら無茶な事はしないだろう。
そう確信しながら立ち上がるノトル。
「さて、お腹が空いたから昼食にしようかな。ちなみに貴方達の分は作りませんよ。母一人子一人で精一杯なんですから」
「はい。我々の事は気にしないでください」
そう言ったまま一向に動かない男達を見て、ノトルは大袈裟に溜息を吐いた。
「あのですね。私の主人は仕事で遠くに行っていますの。留守なんです。お分かり?」
「ええ。そちらの方も教会で探しています、と先程お伝えしましたが」
偉そうに言うリーダーの男を指差すノトル。
そして滑舌を意識し、学校の先生みたいな態度で男達を睨む。
「分かっておりませんね。残念ながら、私は、主人の留守中に知らない男性を長時間家に上げていられる程、ふ!し!だ!ら!な女ではありませんの」
「あ、ああ、それは失礼。我々は表で待ちます」
察した男達は列を成して玄関から出て行った。
一人くらいは監視に残すと思っていたが、全員が居なくなった。
ノトルはもう逃げられないので、外に居た方が娘を見付け易いとの判断かも知れない。
「全く、無神経なんだから!」
外に聞こえる様に愚痴ったノトルは、真っ直ぐ本棚に向った。
そして紙とペンを持ち、素早く一筆認める。
(お昼になっても帰って来ないのは、ダスターが教会に気付いてくれたからかな。彼が頼りになる人で本当に良かった。エーレンとは大違い)
インクが乾くのを待ってから、その紙をエピオルが良く読む本に挟む。
「気付いてね、エピオル」
小さい声で祈ったノトルは、男達が窓から覗いていない事を確認しながら台所に向かった。




