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青の淵に居るダスターとエピオルは、向かい合って一礼した。
極東式の礼にも慣れて来た。
「予告していた通り、今日は軽く組手をやる。動き易い服は持って来たか?」
「はい。ほら」
エヘヘと笑いながらスカートを捲り上げたエピオルは、ドレスの下に着ている中華風の服をダスターに見せた。
「お母さんに作って貰ったんですよ、拳法着。お外で着替えるのは嫌だから着て来たの」
「そ、そうか」
何故かダスターの顔が赤くなる。
それを誤魔化す様に話を前に進める筋肉男。
「それでは、……むっ!」
ダスターの表情が急に険しくなり、片手でエピオルの動きを制した。
(聖の気配を持つ者が来る。何者だ?)
「どうしたんですか?」
不思議がってダスターの視線の先を懸命に見ようとするエピオル。
ここは村の水源なので、水泥棒が悪い事をしない様にと視界が開けている。
ここから村が見えるし、村からもここが見える。
何かあったのかと目を凝らしてみても、いつも通りののどかな風景が広がっているだけだ。
(目的は俺か?エピオルか?どちらにしても見付かる訳には行かないな)
「エピオル、俺にしっかりと掴まれ!」
「え?どうしたんですか?」
「怪しい者がこの付近に居る。一先ず逃げよう」
ダスターはエピオルを抱き上げ、村の反対側に位置する林の中に駆け込んだ。
「下を見るなよ」
「うっわぁ~!」
そして高めの木を一気に登ったダスターは、てっぺん近くの枝にエピオルを座らせた。
「危ないから迎えに来るまで物音を立てるなよ」
「迎えにって、ダスターはどこに行くんですか?」
「このすぐ下で怪しい気配の正体を探ってみる。大丈夫だ、そいつに見付かる様なヘマはしない」
ダスターは木を降り、林の陰で気配を消した。
しばらくすると教会の服を着た一人の若い男が走って来て、いつも淵で釣りをしているお爺さんに話し掛けた。
「すみません。ひとつお伺いしたいのですが、ここに金色の瞳と銀色の髪を持った少女が来ませんでしたか?」
しかしお爺さんは反応しない。
「もしもーし!」
耳が遠いのかと大声を出してみたが、返って来るのは滝の音だけだった。
呼吸をしているから生きてはいる。
「ふう……。失礼しました」
無関係だと思われる年寄りにこだわっても仕方が無いので、一人で滝の裏や林の中を捜してみる男。
だが何も見付ける事は出来なかった。




