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「おはよう、エピオル。気分はどう?」
目を覚ますと、ベッドの横にノトルが座っていた。
そして優しくエピオルの前髪を撫でた。
「おはよう、お母さん。……どうしたの?」
風邪を引いた訳でもないのに母が看病っぽい事をしている。
訳が分からずに目を丸くするエピオル。
「エピオル。どこか痛い所は無い?気分は?」
「別に何ともないけど……」
「そう。良かった」
ノトルは立ち上がり、カーテンを開けた。
太陽の光が寝室全体を赤く染める。
「え?夕方??すんごい寝坊じゃない!」
跳ね起きるエピオルを見てノトルも目を丸くする。
「……覚えてないの?」
「何を?何かあったの?」
ノトルは窓の外に目をやり、静かに微笑んだ。
「あったよ。知りたい?」
「うん、知りたい。聞かせて」
「緑の谷に落ちたのよ」
「誰が?」
「エピオルが。それと、ゾフィーとベッティーナも」
「私が?どうして?」
「それは私が聞きたいわよ。貴女達を谷から上げるのは大変だったんだから。本当に覚えてないの?」
エピオルは少し考え、首を横に振った。
「全然覚えてない」
「そっか。無理に思い出さなくても良いのよ。でも、思い出したら教えてね。私も何があったのかを知りたいから」
「うん。……何か、ほっぺたがゴワゴワする。顔を洗って来る」
力無く歩いて寝室を出て行くエピオル。
元気が無いが、それは起き抜けのせいか。
「結局、真相は闇の向こう、か……」
行方不明だった三人の娘をそれぞれの家に帰した後、村の緊急会議が行われた。
その場でこう証言するノトル。
『エピオルが見た夢を頼りに夢魔を発見し、なりゆきで殺してしまったから事件が解決した』
それはウソだが、そう言う事にしておいた方がエピオルの為になるだろう。
村長や村民がそんなあやふやな話を信用するかが一番の不安だったが、意外にもあっさりと話し合いは終わった。
夢魔がどうのこうのと説明しても普通の人には理解出来ないだろう、と言う理由で、事件の真相を秘密にする事が決まったからだ。
田舎の年寄りは悪魔や悪霊と言う存在を予想以上に恐れているらしく、さっさと話を終わらせたい感じの態度を取られた。
若い親達も、災いが去ったのならそれで良い、と言う意見で纏まった。
異を唱えて話を伸ばしても、悪魔を恐れる年寄りに白い目で見られるだけだし。
そんな訳で、今後、この話が表沙汰になる事は無いだろう。
だから、エピオルが事件を覚えていないのなら、実際の成り行きはノトルしか知らない事になる。
まぁ、ノトル自身も詳しく知っている訳ではないのだが。
あ、そうだ。
もしも事件の詳細を思い出したら、他人には絶対に言わず、母だけにこっそり教えてくれとエピオルに念を押しておこう。
エピオルの父親の正体が知られたら確実に迫害を受ける土壌が有るみたいだから。
「さて!人間用の夕飯を作りましょうかね」
自分の両頬を叩いて気持ちを切り替えたノトルは、明るい表情を作って台所に向った。




