04
「おお…」
買い物を終えて自分の城に帰って来たエーレンが驚きの声を上げた。
(玄関が綺麗になっている。もう掃除に取り掛かっているのか)
廊下の汚れも目立たなくなっているし、キッチンも整理されている。
食料入りの木箱を軽く乾拭きしただけのテーブルに置いたエーレンは、隣の部屋を覗いてみた。
(ここは掃除されていない。まぁ、一時間しか経っていないから当然か)
ノトルは玄関と廊下、そしてキッチンを先に片付けた様だ。
彼女は今も掃除を続けているのだろうか。
この城にはセキュリティ的な物が殆ど無いので、人の匂いに引き寄せられた下等な魔物が潜り込んでいたら危険なんだが。
心配だから安否を確認してみよう。
そう思って適当に一階を回ってみたのだが、人が動いている気配は無かった。
上の階に行ったのか?
階段を上るエーレン。
しかし二階の廊下は掃除されていなかった。
朝日に照らされている埃には年月が蓄積されたままなので、来てもいない様だ。
「おかしいな。ノトル?どこですか?」
一階に戻ったエーレンは早足で少女の姿を探す。
無駄に広い城内を歩き回り、あちこちの部屋を覗き、その末に廊下の隅で毛布に包まっている少女をやっと見付けた。
「ノトル?こんな所で何をしているんですか?」
蹲っている少女の肩に触れたエーレンは驚いた。
毛布越しでもハッキリと分かる程に少女の身体が熱を持っている。
「あ、エーレン……。ごめんなさい、ちょっと風邪を……」
「風邪?もしかして、病気、ですか?」
「取敢えず、目立つ所を掃除して置きました。続きは明日で良いですか?ちょっと、動けないので……」
「え、ええ。構いませんよ。暖炉の部屋で休んでください。ですが、ベッドは有りますが、シーツが有りません」
「毛布が有るので、何とかなります。では、失礼します……」
ノトルは緩慢な動きで立ち上がった。
額に汗が滲み、とても辛そうだ。
「大丈夫ですか?私には人間の事は良く分かりませんが、これは命に関わるのでは?」
笑顔でエーレンの言葉を遮るノトル。
「そんな大袈裟な。ただの風邪ですから、眠れば治ります。大丈夫」
強がっているが、歩くのもやっとの様子だ。
そんな少女を毛布ごと抱き上げるエーレン。
一先ずベッドに運んでやろう。
こんな所で死なれても困るし。
「大丈夫なら良いんですけど。キッチンに食材が置いて有りますから、元気になったら自由にお使いくださいね」
「はい、ありがとうございます……。風邪なんか一眠りすればすぐに治りますので、寝ている間に家に帰さないでください。お願いします……」
お姫様だっこされたまま懇願するノトルに向け、エーレンはキザにウィンクする。
「分かりました。絶対に帰しません。なぜなら、帰してしまったら、折角買った食料が無駄になりますから」
その言葉を聞いたノトルは、安心して気を失った。