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「おおー、今日のディナーは本当に豪華ねぇー!」
テーブルの周りをグルグルと回り、嬉しそうに三人分のご馳走を眺めるエピオル。
父親が特殊なせいか幼女とは思えないほど頭が良い娘だが、こう言う時は普通の子供になる。
「エピオル、お行儀が悪いわよ。ちゃんと座って待ってなさい」
「はーい」
コーンスープを運んで来たノトルに叱られたエピオルは、椅子に深く腰掛けた。
全ての料理を運び終えたノトルも席に着く。
いつもの倍の数のランプが食卓を照らしているので、ご馳走がキラキラと輝いている。
「さて。エピオルは今日で六歳ね。おめでとう。エーレンもきっと祝福してくれているわ」
「うん。ありがとう」
父が座る予定の空席に感謝する二人。
特別な日なので、申し訳程度の陰膳が施されている。
「じゃ、頂きましょう」
「頂きます!」
スプーンを持ち、スープを食べ始めるエピオル。
肉料理も香辛料が効いていて食欲をそそる
母の料理はいつも美味しいが、気合が入っている今日のご馳走は抜群だ。
「あ、そうだ。お母さん。今日、何か有った?」
「フェッ?な、何かって何?」
ギクリとしたノトルは、ナイフからバターを落とした。
居なくなった二人の女の子が見付かったと言う情報は入って来ていない。
「ん?今日ゾフィーが来なかったから、どうしたのかなって思って」
「そうね。来なかったわね。どうしたのかしら」
ノトルがとぼけている事に気付かずに小首を傾げるエピオル。
「もしかしたら、アレのせいかなぁ」
「アレって?」
何か心当たりが有るのか?
期待から前のめりになるノトル。
「うん。私ね、ここの所、毎日変な夢を見るの。で、不思議なんだけど、ゾフィーも似た夢を見てるんだって」
「夢?」
行方不明事件とは関係なさそうだが、取り敢えず話を訊く。
「私は夢の内容をハッキリとは覚えていないけど、ゾフィーは覚えているらしいの」
言って、チキンに齧り付くエピオル。
そして咀嚼しながら続ける。
「赤ちゃんみたいなピエロが緑の谷でゾフィーを呼んでいるんだって。それが凄く楽しいからピエロに近付きたいんだけど、近付けないんだって」
「ふーん……。緑の谷、ねぇ……」
あそこは村人なら近付かない場所だ。
危ないからとかそう言う理由ではなく、ただ単に行く意味が無いのだ。
食料になる獣は少なく、薬草も生えておらず、薪になる様な木も無い。
水源も無いので、悪人が住み着いているとも考え難い。
「私も自分の笑い声で目が醒めた事が有るから、私もそんな感じの夢を見ているんじゃないかな?って思ってる」
「へぇ、同じ夢を見るなんて、おかしな事も有る物ね……。エピオルとゾフィー以外でその夢を見ている子は居るの?」
「居ない、と思う。お誕生日会に来た子の中だけだけど」
「そう……」
(夢、か……。もしも関係有るのなら、魔物、なのかな)
ノトルは考え事をしながらポテトサラダにフォークを刺した。
明日、会う事が出来たらダスターに訊いてみよう。




