37 証
「お誕生日、おめでとー!」
ノトルの家に集まった十人の子供達がお祝いの言葉をエピオルに送る。
いつも遊んでいるミンナ達は勿論、ちょっと年が上の子供もエピオルの誕生日会に参加している。
村の行事が有ると積極的に一纏まりになる子達なので、普段の接点が無くても仲が良い。
「ありがとう!」
頬を染めて礼を言うエピオル。
「それじゃ、ケーキを切りますね」
ノトルはテーブルの上に置いてある大きなケーキにナイフを入れた。
綺麗な十二等分に切られたケーキは、ジュースと共に参加者全員に配られる。
「全員に行き渡ったかな?じゃ、ゆっくり楽しんでね」
会を子供達に任せ、玄関から表に出るノトル。
そして門の周囲に視線を向ける。
「あ、ノトルニスさん。ウチのゾフィーは来てるかい?」
明らかに誰かを探している様子で近付いて来る小太りのおばさん。
ゾフィーの母親だ。
「いいえ、来ていません。今、そのゾフィーを待っていたんです」
「そうかい……」
悲しそうに俯くゾフィーの母親。
その姿を見て、ノトルの胸に言い知れぬ不安感が過った。
「……何か、有ったんですか?」
「いえね、ゾフィーが朝から居ないんだよ。今日はエピオルニスの誕生会だから、それで居ないと思ってたんだけど……」
言葉を途中で切り、道を歩いている村人達に目を向けるゾフィーの母親。
その中に娘の姿は無い。
「でも、どうやらベッティーナも居ないみたいなんだよ。だから胸騒ぎがして」
「ベッティーナも?ベッティーナは幾つでしたっけ?」
「ゾフィーのひとつ上だから、十三歳だね」
「いたずらに何処かに行く年齢じゃないですよね。ベッティーナはウチの娘とは接点が無いから分かりませんけど……」
「年齢が離れてるからねぇ」
「ゾフィーとベッティーナは仲が良かったんですか?」
「いや、どうだろうね。一緒に遊んでいる様子は無いけど、悪いとも思えないよ」
「そうですか……。うーん、見当も付きません」
「取り敢えず、ベッティーナのご両親も二人を探しているんだ。狭い村だ、人攫いとかの不審者が居たんなら誰かが見ている筈だからね」
「人攫い、ですか。若い女の子二人が消えたのなら、その可能性も有る訳ですか。考えたくないですけど」
「状況が分かるまで、ノトルニスさんは集まっている子供達を表に出さない様に注意して貰えるかい?」
「分かりました。頃合いになりましたら、それぞれの親御さんを迎えに来させてください」
「ああ、そうだね。じゃ」
ゾフィーの母親は小走りで去って行った。
その足取りは落ち着いておらず、娘を心配する心情が現れている。
「……何でもなきゃ良いけど」
そう呟いたノトルは、自分の身体を抱いた。
兎にも角にも、エピオルだけは守らないと……。




