34
太陽が真上に来て日陰が少なくなったので、釣りを止めて木の根に座るエピオル。
「……釣れないね」
エピオルのつまらなそうな呟きには誰も返事をしない。
ノトルが釣った小さな魚一匹しかバケツに入っていないので、子供達は飽き始めているのだ。
それを察したノトルが荷物の紐を解く。
「そろそろお昼にしましょうか」
「はーい」
竿の柄を地面に刺したミンナとジンメルは、自分の弁当を持ってノトルの近くに腰を下ろした。
エピオルが移動すると日光に当るので、そのまま動かないで待つ。
「ダスターもどうぞ。ダスターの分も作ったので、遠慮しないで食べてください」
「そうか?では、頂きます」
ダスターも竿を地面に刺し、子供達から少し離れた位置に座る。
「はい、これはエピオルの」
「ありがと」
ノトルから弁当箱を受け取るエピオル。
その蓋を取ると、サンドイッチが隙間無く詰まっていた。
「たっくさん有るからもりもり食べてね」
バッグから五個の弁当箱を取り出したノトルは、次々に蓋を開けて行く。
その全てにサンドイッチが詰まっている。
「そんなに作ったの?」
驚いて前のめりになるエピオル。
「うん。ナトルプとクルシィウスが来ると思ってたし。ダスターは沢山食べそうだから、彼の分は二個」
「な、なるほど」
目の前に広げられている弁当箱の大群に引くミンナ。
ここは山奥の寒村なので、物資が潤っているとは言い難い。
だから、こんな食糧の使い方は勿体無いと思ってしまう。
ノトルはミンナが生まれる前に別の地方から引っ越して来た人みたいなので、その辺りの感覚が違う様だ。
「お茶も有るよ。よっと」
ノトルは木に縛り付けていた紐を引っ張り、淵に沈めて冷やしておいた水筒を引き上げた。




