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ダンピール・エピオルニス  作者: 宗園やや
ソレイユ・ソワレ
33/104

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早朝の青の淵には、昨日も居たお爺さんしか居なかった。

水場なので少し肌寒い。


「ダスターは、……まだ居ないみたいね。早過ぎたかな?」


辺りを見渡すノトルと一緒に木の陰に荷物を置いたエピオルは、小さいバケツの中の具合を確かめた。

少しの土を奪い合っているかの様に、大量のミミズが聞こえない音を立てて蠢いている。


「……改めて見ると気持ち悪……。捕り過ぎたかな?」


手袋を外したエピオルは、淵の水を手で(すく)った。

そしてミミズが乾かない様に土を濡らす。

その後ろでジンメルに近付くミンナ。


「ねぇ、ジンメル。あのお爺さん、昨日も居たよね?」


「……うん」


「昨日と同じ場所同じ姿勢なんだけど、生きてる、よね?」


「……多分」


「何してるの?二人共ー。こっちこっちー!」


エピオルの大声が辺りに響き渡っても、やはりお爺さんは動かなかった。


「ジンメルはどれくらいのミミズを捕って来たの?」


「……これくらい」


ジンメルが持っている小さな木箱の中で五匹のミミズが絡まっていた。


「うん、良いね。それじゃ、私のミミズをミンナの竿に付けてあげる。貸して」


「お願いね」


手際良くミミズに針を通したエピオルは、ミンナに竿を返した。

ジンメルも素早く針にミミズを付け、エピオル達から少し離れた所で糸を垂らした。

ミンナもジンメルの反対方向に離れて糸を垂らす。


「これ、お母さんの竿」


「ん、ありがと」


手を洗った後に手袋を嵌め直したエピオルは、木の陰が淵まで伸びている所に座って糸を垂らす。

ノトルはその隣に並んで座る。

後は魚が掛かるのを待つだけなので、しばらく滝の音を聞く一行。


「来ないね、ナトルプとクルシィウス。昨日の午後、誘ったのに」


水面を見詰めながら口を開くミンナ。


「あの二人はジッとしてらんないからね。釣りなんか来ないよ」


日傘を差したまま竿を持っているエピオルは、浮子(うき)から目を離さずに応える。

その横で浮いていたノトルの浮子が水中に消えた。


「あ、引いてるよ、お母さん!」


一行の視線がノトルの竿に集まる。


「よーっし!せいのっ!!」


勢い良く竿を上げるノトル。

すると銀色の魚が宙を待った。


「やった!……っと、取れない~」


釣りに慣れていないノトルは竿を垂直に立ててしまっているので、ノトルの周りをグルグルと回る魚。

手袋を外したエピオルは、その糸を掴んで回転運動を止める。


「よっと。一匹目~!」


エピオルが魚の口から針を外し、バケツに入れた。

バケツの中でゴトゴトと跳ねる魚。


「あ、水を入れるのを忘れてた。ジンメル、バケツを貸して」


「……うん」


ジンメルの隣りに置いてある空のバケツを借りたエピオルは、それを使って淵の水を汲み、自分のバケツに水を注いだ。

元気に泳ぐ小さい魚。


「あ、私も入れ忘れてた」


ミンナも自分のバケツに水を汲む。


「ありがと、ジンメル。……あれ?どうしたの?お母さん」


エピオルがジンメルにバケツを返している隙に、ノトルは淵から離れていた。

そして荷物が置いてある木に凭れ掛かる。


「私は釣ったから、もう良いわ。また後で参加する」


「そう」


子供達は再び竿を持った。

またゆったりとした時間が流れる。


「すまん、遅れた」


静かな足音を立ててダスターが走って来た。

振り向いて遅刻者に注目する一行。


「まだ『こんにちわ』じゃないので大丈夫ですよ」


荷物番をしているノトルが微笑む。


「おお、ノトルニスも来ていたのか」


「ええ」


ダスターが持っている竿を目を細めて見るエピオル。

垂れている糸の先が頼りなく風に揺れている。


「……ダスターさん。その竿、針が付いてませんね?」


「ああ。糸が結べなくてな。それで遅れたんだ」


「ダスターさんの指は太いですから、しょうがないですね。じゃ、私の竿を使ってください。私はお母さんのを使いますから」


「良いのか?」


「はい。両方共私が仕掛けを作ったから違いは有りませんし」


「そうか。では、有り難く使わせて貰おう」


エピオルから竿を受け取ったダスターは、そのままそこに座って糸を垂らした。


「ちょっとこっちに来て、エピオル」


「ん?うん」


母に呼ばれたエピオルは、ノトルの竿にミミズを付けながら淵から離れる。


「ちょっと顔が赤いね。今日も日差しが強いのかな?平気?」


「うん。まだ痛くないよ。大丈夫」


エピオルの頬を触るノトル。


「……熱を持ち始めてる。今の内に冷やした方が良いね」


「分かった」


淵に戻り、竿を置くエピオル。

そして淵の水を両手で掬おうとしたが、思い留まる。

水辺に居るんだから、緊急事態だった昨日と同じ事をしても良いんじゃないだろうか。


「グベグベグベェ~~!」


銀髪を紐で括ったエピオルは、淵に顔を突っ込んだ。

そして思い付くまま水中で息を吐いた。

当然、その行儀の悪い行動は母に諌められた。

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