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擦れ違う村人達が何事かと振り向くくらいの猛ダッシュで村を突っ切る三人の子供達。
ミンナは一足遅れているが、それには構わずに自分の家に飛び込むエピオル。
続いてジンメルも玄関に入る。
「はぁはぁ。さすがエピオル。足、速いねぇ~」
家には入らず、門の前で立ち止まるミンナ。
息が切れ、もう走れない。
「……でも、エピオルがまた日焼けをしないで済んだ」
エピオルの手と頬を見ながら言うジンメル。
「うん。少し赤いけど、痛くないよ」
「良かった。じゃ、私は一旦帰るね。お昼を食べたら明日の準備をしよう。また後で」
「……また」
ミンナとジンメルは、手を振りながら帰って行った。
エピオルも手を振って二人を見送り、彼等が隣の家の向こうに隠れて見えなくなってから玄関のドアを閉じる。
「ただいまー」
「おかえりー」
玄関に来たノトルは、日傘を畳んでいるエピオルの頬を両手で挟んだ。
父親似の整った顔がユニークに歪む。
「……ちょっと熱いね」
「うん。日焼けしちゃった。この日傘、あんまり役に立たないかも」
「そう……。やっぱり借り物じゃダメね。もっと良いのを買おっか?」
ノトルは腰に手を当て、頭の中で金庫の中身を確認した。
今のままの生活ならエピオルが成人するまで働かなくても良いくらいの宝石が有るが、エーレンが来ない内は無駄遣い出来ない。
「良いよ、これで。折角借りられたんだし。明日は帽子と手袋を着けてみる。あ、そうだ。さっき青の淵に行ったよ」
「え?一人で?」
「ううん。ミンナとジンメルの三人で。顔と手を冷やしに、しょうがなく。ダスターさんにも会った」
「そう。何かした?」
「明日、釣りをしようって約束をしたの。だから、明日のお昼用のお弁当を作って」
「釣り?魚釣りをするの?」
母が目を剥いたので、娘は面食らった。
「そんなに驚く事?」
「あ、いえ、予想外だったから。分かった。腕によりをかけてお弁当を作るわ。私も行っても良い?」
「うん。お母さんの分のミミズも捕まえるね」
「お願いね。じゃ、お昼御飯にしましょう。手と顔を洗ってらっしゃい」
「はーい」




