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ダンピール・エピオルニス  作者: 宗園やや
ソレイユ・ソワレ
30/104

30

村の水源になっている川のせせらぎが滝の音に変わると、すぐに青の淵に着く。

若いカップルや釣りをするお爺さん等が居るので、村から離れていても全然寂しい場所ではない。


「……滝の方は人が居ないからそっちに行こう」


ジンメルが先導して青の淵を歩く。

こう言う時に頼りになる男の子は素敵だなと思うミンナは、元気が無くなってしまったエピオルの手を引いている。

その手は風邪を引いた時の様に熱くなっている。


「この辺りでどうかな?エピオル」


「うん……」


「さ、日焼けを冷やして」


「うん……」


日焼けの火照りでフラフラになっているエピオルは、ミンナの言葉に無条件で従って水際に膝を突いた。

水面が反射している光に目を細め、静かに両手を水に浸すエピオル。


「……!うっ、く……」


水に触れた瞬間は刺す様に冷たかったが、すぐに心地良くなった。

家の水瓶に手を入れるより効果的な感じがする。


「エピオル、大丈夫?」


「うん、来て正解だったわ。ありがとう。私はしばらくここに居るから、ミンナとジンメルは好きにしてて」


エピオルは水から両手を上げ、ポケットから一本の紐を取り出した。

その紐で銀髪を纏め、今度は顔を水に突っ込む。


(ああー、良い気持ちー……)


うっとりとするエピオルのスカートを掴むミンナ。

今にも淵に落ちそうな体勢なので、見ているミンナの方がハラハラする。


(あ、お魚さん。一匹、二匹、三匹……)


淵は意外に深く、底は真っ暗だ。

溺れたら助からないだろうな。


「何をしているんだ?」


不意に声を掛けられたミンナとジンメルが振り向いた。

水の中は滝の音で一杯なので、エピオルは全く気付かない。


「貴方は、確か……」


ミンナが小首を傾げると、ジンメルが助け船を出す様に言う。


「……ダスターさん」


「そう、ダスターさん!この前は助けて頂いてありがとうございました」


「……ありがとうございました」


「いや、気にするな」


ミンナとジンメルが頭を下げたので、ダスターも頭を下げ返した。

子供相手でも礼儀正しい。


「それはさて置き、その子はエピオルニスか?」


「はい。日に焼けてお顔が真っ赤になったから冷やしているんです」


「いつから?」


「いつからって、……あっ!」


エピオルは軽く三分は水に顔を漬けている。

その間、ピクリとも動いていない。


「た、大変!」


ミンナが慌ててスカートを引っ張る。

その様子に危機感を見たダスターは、エピオルの脇に手を入れて持ち上げた。

相手は五歳児なので軽々と掲げられる。


「ぶはー、ぜはー、何?はひー、飛んでる?ふー、あれ?ダスターさん」


息を切らせてはいるが、エピオルは普通に元気だった。


「大丈夫な様だな。スッキリしたか?」


「はぁ、はぁ……。はい、とっても!」


エピオルの笑顔から雫が垂れ、ダスターの服を少しだけ濡らした。


「それは良かった」


ダスターはエピオルを降ろす。

地面に立った銀髪幼女は、袖で顔を拭ってから髪を縛っていた紐を解く。


「……折角冷えたんだから、あそこに行こう」


ジンメルが大木を指差す。

立派な枝が濃い影を作っているので、そこならば日焼けしないだろう。

大木の根元に並んで座るエピオルとミンナ。

ダスターは影の外に立ち、ジンメルは誰の視界にも入らない所に座る。


「淵の中にお魚さんがいっぱい居たよ!今度釣りをしに来ようよ」


息が整ったエピオルは、(せき)を切った様に喋り出した。


「朝にミミズを捕まえて、お昼にお弁当を食べて、夜に釣ったお魚を食べるの。楽しいと思わない?」


「私、ミミズはちょっと……」


対照的に嫌そうな顔をするミンナ。


「私がやってあげるよ。ジンメルもどう?」


「……機嫌が直ったね、エピオル」


「うん。エヘヘ~。ごめんね、ミンナ、ジンメル。私、どうかしてた」


「ううん、良いのよエピオル」


「……たまにはそんな時も有る」


三人の子供は微笑み合った。


「楽しそうだな。俺も釣りの仲間に入っても良いか?」


中腰になって訊ねるダスター。

彼の目的が分からなくて不機嫌になっていた事も忘れ、笑顔で頷くエピオル。

元々、青の淵みたいな涼しい場所は嫌いじゃないし。


「勿論!じゃ、明日にしましょう。どう?」


ミンナとジンメルは頷いた。

毎日ヒマだからいつでも良い。


「ダスターさんはどうですか?」


「お邪魔しよう」


「分かりました。もうお昼なんで、私達は帰りますね。また明日」


「ああ」


ダスターと別れた子供達は、日陰を選びながら村に向った。

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