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「おはよう、お母さん」
キッチンに来た幼い娘は、唇を尖らせながら目を擦っている。
眠り足らなさそうだ。
「おはよう、エピオル。良く眠れた?」
「んん~、良く眠れなかったかも」
「あら、どうして?」
「何か、変な夢を見た様な……。思い出せないから余計に気持ち悪い……」
「そう……。ま、ただの夢なんだから、朝御飯を食べて忘れなさい」
「そうだね。顔洗うー」
寝癖の付いた銀髪を整え、普段着のドレスに着替えたエピオルは、食卓に用意されている自分の席に座った。
そして当たり前の様に朝食が用意される。
「いただきま~す!」
「どうぞ召し上がれ」
焼き立てのパンと湯気の立つ目玉焼きを食べて顔を緩ませるエピオル。
「おいし~!」
「そう。良かった」
ニッコリと笑って応えたノトルは、ついエピオルの口の中に注目してしまった。
今日に限って少し発達した犬歯が気になる。
(永久歯になったら、エーレンみたいな派手なキバになるのかな?)
食卓に着き、自分で焼いたパンを手に取るノトル。
(エーレンは大口を開ける事が無かったから、キスをするまでキバには気付かなかったけど。あ、そう言えば……)
「どうしたの?お母さん。思い出し笑いなんかして」
ノトルはハッと我に返る。
「え?あ、いいえ、何でも無い。うん、美味しい!」
ぎこちない笑顔でパンを頬張る母を見て首を傾げるエピオル。
「変なの」
「あ、そうだ、エピオル。一昨日、ダスターに会ったでしょ?」
「うん」
「昨日の夜中、そのダスターが来てね。エピオルを鍛えたいんですって」
「鍛えるって、何?」
「私にも良く分からないけど、お父さんにそうしてくれってお願いされてたんですって。遊びのつもりで行ってみたら?」
「お父さんに?」
「ちなみに、東の森じゃなくて青の淵だよ。あそこなら木陰も有るから、これからの季節でも大丈夫でしょう」
「うーん。まぁ、考えとく」
「そう。行く時は私にも声を掛けてね。行ける時は私も行くから。あ、ミンナを誘っても良いみたいよ」
「お母さん、何か必死」
エピオルが一瞬だけ右眉を上げた。
これはエピオルが何かを考え始めた時の癖だ。
どうやらノトルに不審を感じたらしい。
「そりゃ、お父さんのお願いだもの。あ、行きたくないのなら行かなくても良いのよ。行くとしても、暇潰しな気分で行けば良いの」
「……うん」
金色の瞳を斜め下に向けながらパンを一口大に千切るエピオル。
明らかに機嫌が悪くなっている。
(これは行かないかも?いや、睡眠不足のせい?どっちにしろ、もうちょっと言葉を選べば良かったかな)
ノトルは反省しながらグレープフルーツジュースを飲んだ。
「すっぱ」




