21
「ただいま~」
「おかえりなさい。昼食にするから手を洗いなさい」
「はーい」
キッチンの水桶で手を洗った後、食卓に着くエピオル。
そのエピオルの前に置かれるパンと茸のスープ。
「ん?……エピオル。コレ、何かな?」
エピオルの銀髪に一枚の葉っぱが絡まっていた。
それを手に取るノトル。
「え?あ」
気まずい顔をしている娘に見せ付ける様に葉っぱを弄ぶノトル。
笑顔が怖い。
「えっと、そのぉ……。葉っぱ……」
「葉っぱ、だよね」
「うん、葉っぱ」
「ふふふ」
「えへへ」
スッ、と真顔になるノトル。
「この種類の葉っぱが頭に付いているって事は、東の森へ行ったのね。良く見たらドレスにも土が付いてるし」
「はい……。ごめんなさい……」
椅子に座ったまま項垂れるエピオル。
「何故、誰と行ったのかを言いなさい」
「えっと、ミンナとナトルプとクルシィウスとジンメルと行ったの」
「いつものメンバーね」
「うん。森の奥に謎の家が有るから、それを確かめようってなった男の子達が森に入って行ったの。私は止めようとしたんだけど……」
『謎の家』と言う言葉に内心で動揺するノトル。
「そ、そう。で、謎の家は見付かったの?」
「ううん。途中で野犬に襲われてね、ダスターさんに助けて貰ったの。そしてそのまま森の入口まで送って貰ったの」
「ダスターに会ったんだ……。誰にも怪我は無かったの?」
「うん」
「良かった。もう森に入っちゃ駄目よ。分かった?」
「もう懲りた。野犬怖い」
「よろしい」
エピオルに釘を刺したノトルは、自分の分のスープを取りに台所に行った。
「ダスターさん、お父さんの事を知ってたよ」
「そりゃそうよ。この家の手配をしてくれたのは彼だし」
「お父さんの事を聞いたけど、何も教えてくれなかった」
「……そう」
「ねぇ、お母さん」
「ん?」
「いつかお父さんの事を教えてね」
「ええ」
スープ皿をテーブルに置き、席に着くノトル。
その表情は珍しく沈んでいる。
父親の話題はそんなにもいけない事だったのか、と不安になるエピオル。
もう言うのは止めよう。
「さ、お腹空いたでしょう?いただきましょうか」
ノトルが暗い表情のままスプーンを手に取ったので、エピオルは無理に笑顔を繕う。
大好きな母親を落ち込ませたままではダメだと思うから、自分だけは明るく振る舞わなければ。
「いただきます!」
「どうぞ」
貴族としてのテーブルマナーを教えているので、エピオルは上品にスープを食べている。
そんな娘を前にするとノトルの表情が自然と微笑みの形になって行く。
「あのね、エピオル」
「ん?何?」
「私とエーレンは約束をしているの。どんなに時間が掛かっても、どんな困難が有っても、絶対に私とエーレンとエピオルの三人で暮らすって」
父親に似て人間離れした美しさを持っている幼女を真っ直ぐ見詰める母。
「今、エーレンはその為の準備をしているの。エーレンは絶対に約束を守ってくれるって、私は信じてる。微塵も疑っていない」
「じゃ、お父さんは帰って来てくれるの?」
「勿論よ。エーレンがこの家に来たら、嫌でもエーレンの事が分かる。だから、その時まで待って頂戴。お願いよ、エピオル」
「うん!分かった。私も信じて待つよ」
「ふふ。分かってくれてありがとう」
二人は微笑み合い、ノトル手作りのパンを頬張った。