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ダンピール・エピオルニス  作者: 宗園やや
ソレイユ・ソワレ
19/104

19

子供は入ってはいけないと言われている東の森だが、キチンと正面から入れば整備された道が有る。

そこから外れなければ迷子にはならないとナトルプは言う。


「この森の奥に謎の家が有るんだ」


歩き易い道を進みながら右手方向を指差す身体の大きい男の子。


「ナトルプのお父さんの仕事場じゃないの?キコリさんなんだし」


「違うよ!」


エピオルのツッコミを無駄に大きい声で否定するナトルプ。


「じゃ、何?」


「それが分からないから謎なんじゃないか」


「ああ、そう言う事」


子供達は更に森の奥へと進む。

段々と道が狭くなって行くので自然と縦一列になる。


「ちょっと、ナトルプ。大丈夫なの?」


心配そうな声を出すエピオル。

入り口付近と比べ、明らかに道の状態が悪い。

地面が踏み固められていないので、村の大人でさえも滅多にはここまでは入らない様子が窺える。


「俺は父ちゃんと一緒に何度も入ってるから見慣れてる。大丈夫だよ」


「謎の家はまだなの?」


「全然まだだよ」


他の子達は息が切れ始めて来て言葉が無くなったが、エピオルは構わず喋り続ける。


「お昼までに帰らなきゃお母さんに怒られちゃう。あとどれくらいなの?」


「うるせーな!だったら帰れよ!!」


エピオルの愚痴に耐えかねてキレるナトルプ。

その大声が周囲に響き渡り、頭上の木の枝に停まっていた鳥が飛び去って行った。


「!、ちょっと、ナトルプ、静かにして!」


「うるさいのはお前だー!」


「シッ!」


エピオルが口に人差し指を立てると、全員の動きが止まった。

しかし風が木々を揺らす音と遠くに居る鳥の声しか聞こえない。


「な、何?どうしたの?」


不安になったミンナがエピオルに寄り添うと、銀髪の幼女は真剣な表情をナトルプに向けた。


「何か、ヤバイ。みんな帰ろう。早く!」


「帰りたいんなら一人で帰れよ。行くぞ!」


更に奥に行こうとするナトルプの手を取るエピオル。


「ダメ!!シャレになんない!」


「だから何で……、ん?」


ようやく周囲の物音に気付く子供達。

自分達より背の高い雑草の向こうで無数の気配が蠢いている。


「野犬だ!」


微かに聞こえる唸り声に聞き覚えが有るナトルプが叫んだ。

その横でクルシィウスがジンメルに質問する。


「野犬って何?」


「……狂暴な野良犬」


「なるほど」


暢気(のんき)に納得し合っているクルシィウスとジンメルを尻目に、木の棒を拾って野犬の襲来に備えるエピオル。


「逃げよう!」


「あ、ああ」


頷くナトルプと共に振り向くエピオル。

しかし、今来た道が数匹の野犬に塞がれていた。


「エピオル、エピオル!」


「何?」


エピオルのスカートを引っ張るミンナ。

草むらから野犬が飛び出して来て、前も後ろも道が塞がれた。


「どうすんのよ、ナトルプ」


「ど、どうしよう」


普段の彼からは想像出来ない程の情け無い声が返って来る。


「……戦うしかない」


無口なジンメルも木の棒を拾う。


「ジンメルって意外と勇気が有るのね。ナトルプとは大違い」


「な、何だと!俺だって戦うぞ!」


エピオルの言葉に顔を赤くしたナトルプは、鼻息荒く木の棒を拾った。

狙った通り、彼のプライドを刺激したら闘争心に火が付いた。


「僕も!」


クルシィウスも木の棒を持つ。

男の子達がやる気になったので、野犬達の動きが慎重になる。

しかし確実に間合いを詰めて来る。


「う、う、うえ~~ん!」


緊張に堪え切れず、泣き出してしまうミンナ。

その声を合図に野犬達が襲い掛かって来た。


「お前達、伏せろ!」


それと同時に一人の男が降って来た。

物凄い筋肉が布切れの様な服とズボンを押し上げている。

驚き、倒れる様に伏せた子供達の頭上で男の脚が振り回される。


「ハァァァァァーッ!セィヤーー!」


「ギャイン!」


子供達に襲い掛かった野犬は、その全てが草むらの向こうに吹っ飛んで行った。

残った野犬達は、男に睨まれて森の奥へと帰って行く。


「ふぅ。大丈夫か?お前達」


男が緊張を解いたので、子供達は立ち上がった。

泣いているミンナはエピオルが抱き起こす。


「はい、大丈夫です。助けて頂いてありがとうございました」


頭を下げて礼を言うエピオルを見て目を丸くする男。


「お前……、エーレンスレイヤーの子か?」


「え?はい。そうです、けど……。お父さんを知っているんですか?」


「ああ。私の名はダスターと言う。お前は?」


「エピオルニスです」


「そうか。そんな事より、お前達。親に言われているだろう?森に入ってはいけないと」


子供達の顔を順に睨むダスター。

肩を竦め、俯く五人の子供達。


「何故いけないかは、身をもって知っただろう。さぁ、村まで送ろう」


五人の子供を纏めて抱き上げたダスターは、物凄い速さで来た道を戻った。

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