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ダンピール・エピオルニス  作者: 宗園やや
ソレイユ・キャロル
102/104

30

クウェイルを弾き飛ばしながら吹っ飛んだ創流は、アスファルトの車道に背中を叩き付けられた。


「グウゥッ!いってぇえ~!何だこれ!?」


腹と背中の両方に猛烈な痛みを感じ、陸に上がった魚みたいにのた打ち回る創流。

目に見えない衝撃波が脇腹付近に当たった事だけは分かったが、自分の身に何が起こったのかが全く理解出来ない。


「今、私の必殺技が跳ね返されたの?それにしては威力が段違いに強かったみたいだけど……」


尻餅を突いていたクウェイルは、片膝立ちになってドレス少女を警戒した。


「その技が使えるって事は、お前は人間ではないと言う証拠になるな。これで心置きなくお前を退治出来る」


勝ち誇った顔の神父。

しかしクウェイルは神父から顔を逸らす。


「そんな事はどうでも良いの!貴女!」


ぬいぐるみを抱いているドレス少女を指差すクウェイル。


「よくも創流を!普通の、ただの人間に手を出すなんて、許せない!」


怒気を含んだクウェイルの声に怯むドレス少女。


「だって、その人が急に……」


「教会のルールでは、自分の意思で魔物を庇う人間に怪我をさせても罰は無い。怯むな、レメ」


「は、はい、パーパ」


パーパ?

ドレス少女と神父は親子なのか?

そう思いながら身体を起こそうとした創流の全身に激痛が走る。

立てない。

これは肋骨がイッてるかも知れない。


「お前の怒りは良く分かる。父を殺した俺に復讐しなければ気が済まないのだろう?エピオルニスは私の母を殺したから、凄く良く分かる」


汚い物を見る様な目付きをクウェイルに向ける神父。

しかしクウェイルは素っ気無く小首を傾げた。

お互いがマイペースなので、逆に妙な緊張感が産まれている。

相手の雰囲気には飲まれないぞ、みたいな。


「もしかすると、お前のお母さんは、エピオルニスの子孫を全滅させたハンター?」


「だったらどうだと言うのだ?」


「もしそうなら、仕掛けて来たのはそっちの方の筈。あの人から手を出す訳が無い。お前のお母さんは余計な事をした報いを受けただけよ」


「どっちが先かはどうでも良い。人間の味方をしないダンピールは人類の敵だ。しかも俺の仇でもある。駆除しない理由は無い」


神父の言葉を受け、ドレス少女がクマのぬいぐるみを構えた。

あのぬいぐるみが彼女のメイン武器らしい。

クウェイルもそれを察し、警戒の体勢に入った。

その隙を付き、服の下で何かを探っている神父。

武器か?

まさか、魔術?魔法?

クウェイルはその動きに気付いていないが、創流の方からは丸見えだった。

しかし、注意を促そうにも大きな声が出せない。

息をするだけで痛みが走る。

まずい!


「全く。クウェイルちゃんを突っ突いて先祖と連絡を取らせる作戦が上手く行きそうだったのに、とんだ邪魔が入っちゃったわ」


神父の背後に現れる、ウサギの仮面を被った女。


「!?」


この場に居る全員が驚き、全員がウサギ女に注目する。

クウェイルは勿論、教会の人達もその気配を察知出来ていなかった様だ。


「しかも先祖を退治するのが目的みたいだし。それじゃ私が困るのよね。キシシ」


「ミル、怪盗トードストール?」


名前を呼びそうになり、慌てて言い直すクウェイル。

雰囲気的に味方になってくれそうなので気を使ったのだろう。


「恩を売ってあげるんだから、キチンと覚えておいてよね。さ、逃げなさい」


何故か創流達の高校の体操服を着ている怪盗トードストール。

大人の外人が着る物ではないので、かなり色っぽい状態になっている。


「う、うん」


創流の許に掛け寄るクウェイル。


「大丈夫?創流」


「あんまり大丈夫じゃない。骨が折れてるっぽい」


息を飲むクウェイル。

そして心配そうに創流の手を握る。


「大丈夫じゃなくてもここから離れなきゃ。立てる?」


「な、何とか頑張ってみる」


痛くない体勢を模索しつつ身体を起こす創流。

だが、アグラの体勢で止まってしまう。

立ち上がるにはもう少しの時間が必要だ。


「凄い脂汗。無理しないで」


「ダメだ、すぐには動けない。俺は大丈夫だから、クウェイルだけでも逃げ、いてて」


「……くっ」


歯がみするクウェイル。

神父は怪盗と対峙しているが、ドレス少女は創流達を警戒している。

対策も無しに逃走したら、クマのぬいぐるみで何かをして来るだろう。


「貴方達が噂に聞く教会って奴?ならちょっと訊きたいんだけど、私を知ってる?怪盗トードストールって名前なんだけど」


体操服のウサギ仮面女が緊張感の無い声で言う。


「名前だけは知っている。魔物の疑いが有るから教会も探ってはいたが、なるほど、これは尻尾が掴めない訳だ」


「ん?どう言う事?」


セクシーに身体をくねらせ、ウサギの耳を神父に向ける怪盗。

すると、神父は眉を歪ませた。

聖職者なので、こう言うけしからん態度はお気に召さないらしい。


「もしや、お前は自分の事が分かっていないのか?」


「そうよ。だから古い魔族かも知れないクウェイルの先祖に会いたいの。エピオルニスだっけ?上級の悪魔だったら色々と知ってそうだから」


「なるほど、な。では、ここでお前の事を教えたら、あの娘の先祖に会わなくて良い。と言う事になるか?」


「まぁ、そうなるわね。教えてくれるの?」


「俺達の味方になってくれるのなら、話せる範囲で教えてやろう」


「それってつまり、クウェイルちゃんの敵になるって事よね?」


クウェイルを見る怪盗。

仮面に隠されているので、その表情が読めない。


「……ヤバイな。元々味方じゃないから、平気で寝返りそうだ」


痛みのせいで囁く様にしか喋れない創流。


「うん……」


神父と怪盗を見詰め、固唾を飲むクウェイル。

一人で逃げる気は無いらしく、創流を庇う位置で膝立ちになっている。


「教会のあの落ち着き。もしかすると、私達は絶対に逃げられないって確信が有るのかも」


冷や汗を垂らしながら小声で言うクウェイル。


「結界とか言ってたから、それだろうな」


「もしもそうなら、怪盗が向こう側に就くのなら、最後の手段を取らなきゃいけないかも……」


創流に向いたクウェイルの顔が般若の面みたいになっていた。

灰色の瞳孔が開き、半開きの口の中で尖った犬歯が光っている。


「最後の手段って、ふたつ目の必殺技の事?」


脂汗塗れの創流が訊くと、クウェイルの表情が僅かに人間に戻った。


「知ってるんだ。……ひとつ訊いて良い?どうして先祖と話した事を黙っていたの?」


「教会から身を守るには、先祖の人みたいに隠れるしか無いなって思って。でも、そうしたらもう二度と会えなくなるんじゃないかって」


痛みのせいで意識が朦朧となり、悩んでいた部分だけを言ってしまう創流。

もっと気が利いた事を言いたいが、辛過ぎて頭が回らない。


「そっか。創流はそれが嫌で悩んでいたのか。そっかそっか」


怖い顔のまま嬉しそうに頷くクウェイル。

器用だな。


「でも、お父さんの仇から逃げる訳にはいかない。あの親子を何とかしないと、また通学路で待ち伏せされるかもだから」


再び般若になるクウェイル。

ここで平和的な解決を試みるのが人としての正解なのだろうが、創流も痛い目に遭わされているので、彼等にひと泡吹かせたい。

だから創流は苦痛を我慢し、聞き取り易さに気を付けながら言葉を発する。


「先祖の人は、クウェイルが望まないのなら、必殺技を使わないに越した事は無いって言ってた」


「あの人がそんな事を?」


「でも、ここは必殺技が無ければ切り抜けられないと思う。そこで俺に考えが有る」


「何?」


「ひとつ目の必殺技の仕組みを聞いた時、疑問に思った事でも有るんだけど。あれって他人の痛みも飛ばせるの?」


脇腹を押えている創流の考えを瞬時に理解したクウェイルは、灰色の瞳を見開いた。

般若顔で笑まれると、このまま噛み付かれるんじゃないかと思ってしまうほど怖い。

普段のクウェイルはどんな顔をしても可愛いのに、ダンピール化すると恐怖の対象にしかならなくなるのか。

こりゃ、意地でもふたつ目の必殺技を使わせる訳には行かないな。

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