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ダンピール・エピオルニス  作者: 宗園やや
ソレイユ・キャロル
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「無視されたかと思って、こっちから会いに行く所だったわよ」


洋風の椅子に座ったまま朗らかに笑む金髪美女。

和室の出入り口を塞ぐ様に立っている金髪美少女の方は小さな唇を尖らせて不機嫌顔。


「私をストーキングする為だけにこんな店を作るだなんて、良くやるわね」


「お金だけは腐るほど有るから。まぁ座りなさい」


机を挟んで対面の椅子を勧められたので、畳に鞄を置きながら腰掛ける創流とクウェイル。

高級品なんだろう、座り心地が抜群だ。


「まずは名乗りましょうか。今はミルクって名前よ。勿論偽名。名前が無いと色々と面倒だからね」


「クウェイル・ローレル」


「俺は幾間創流。それにしても、よくもまぁこんな短期間で店を作りましたね」


相手は犯罪者だから、タメ口でも良いと思う。

しかし年上の外人女性なので、つい敬語になる創流。


「別荘を借りた人を調べれば君達の学校が分かるでしょ?それが分かれば解決よ。お金の力のゴリ押しで何でも出来る」


「金の力すげぇ……。下の人も怪盗仲間?」


「いいえ。この辺りで店を出したがっていた、ただの雇われ夫婦とアルバイトよ」


「無関係な一般人、ですか」


「そうよ。目的が達成されたら私は姿を消すから、その時はこの店を彼等にプレゼントするわ。ラッキー夫婦ね」


キシシと笑う怪盗をかわいい怒り顔で睨むクウェイル。


「その目的だけど、絶対に達成されないよ。だって、私は本当に何も知らないから」


「でも、貴女の始祖ならどう?」


「シソ?」


梅干しと一緒に入っている紫の奴の発音で首を傾げるクウェイル。


「一番最初の先祖って意味の言葉だよ。やっぱり調べてたみたいだ」


創流が耳打ちすると、クウェイルは納得した。


「そっか。でも、私の先祖は絶対に姿を現さないから、やっぱり無駄足なのよ」


「あら、どうして?」


クウェイルは説明する。

自分はダンピールだが、まだ目覚めていないので普通の人間と変わらない。

しかし、その血脈のせいで父親が殺された。

このままではクウェイルも殺されてしまうので、教会から身を守る方法を知っているであろう自分の先祖を頼ってこの国に来た。

だが、子孫であるクウェイルでさえも先祖に警戒され、会うのはとても苦労した。

先祖が表に出ると教会や先祖の叔母と言った敵に襲われて、ヴァンパイヤの能力を全開にしなければならない戦いになるらしい。

そうなるのを嫌って、最大限に警戒している。


「だから先祖は外に出て来ないの。私はあの人の子孫だから特別だけど、それ以外の人には絶対会わない」


「貴女の家は怪盗の知恵と技を使っても見付けられなかった。それにはそう言う事情が有ったからなのね。なるほどなるほど」


透き通る様な青い瞳をクウェイルに向け、唇の端を上げる怪盗。

笑顔に見えるが、目は笑っていない。


「だけど、それくらいじゃ諦めない。こっちは貴女達に素顔を晒すって言う危険を冒しているの。どこまでも食らい付くわよ」


「隠しておけば良いじゃない。私は貴女の顔なんかには興味無いよ」


「それはホラ、こっちの誠意を見せるって意味が有るのよ。顔を隠している人のお願いなんか、私でも聞きたくないもの」


外人らしく大袈裟に肩を竦める怪盗。

そして前のめりになり、不敵な笑みを美少女に向ける。


「そちらの事情は分かった。でも、貴女なら理解出来るでしょ?自分が何者か分からない不安は計り知れない」


「まぁ、分かる。私も、自分がダンピールだと言われた時、何それ?ってなったし。その不安が無かったら日本には来なかったかもね」


言ってから、横目で創流を見るクウェイル。

今の話には創流が知らない筈の部分も含まれているので、ボロを出さない様に黙って聞いていた。

その沈黙が気になった様だ。

そこで襖がノックされた。


「お、来たわね。どうぞ」


怪盗が応えると、レジのお姉さんが紅茶と苺のショートケーキを持って入って来た。


「私、お菓子造りが趣味なの。個数限定でお店にも出しているわ。美味しい筈だから、どうぞ食べてみて」


テーブルに並べられたケーキを勧める怪盗を訝しげな顔で睨むクウェイル。


「貴女が作ったの?」


「何よその顔は。店では評判が良いって聞いているわよ。ねぇ?」


「はい。放課後になるとすぐに売り切れになるくらいの人気メニューですよ」


自信を持って頷いたお姉さんは、紅茶を並べてから和室を出て行った。


「いえ、味じゃなくて、薬とか毒とかが入ってるんじゃないかなって」


クウェイルの失礼な発言を笑って受ける怪盗。


「それは大丈夫。貴女達の機嫌を損ねたら、その先祖との繋がりが切れちゃうもの」


「だから、絶対にダメなんだってば。先祖の事を探っていると感付かれたら、私を置いてでも逃げるわよ、あの人」


「貴女の方はダメでも、その子の方なら何とかなりそうなのよね」


創流を指差す怪盗。


「え?俺?ここに来ておいて何だけど、俺はクウェイルの事情には全くの無関係ですよ?」


「君、その先祖とゲームの中でやりとりしていたでしょう?」


驚いて目を見開く創流。

なぜバレた?

怪盗の知恵と技って奴か?

さてどう応えた物か、と考えを巡らせる前に怪盗が言葉を続ける。


「とぼけても無駄よ。パソコン初心者にありがちなセキュリティに無関心って奴を利用させて貰ったからね」


「ウイルス?」


不敵に笑って首を横に振る怪盗。


「言ったでしょう?私は石の声が聞けるって。その技を応用すれば、レアアースを使っている機械の声も聞こえるのよ」


「って事は、俺の部屋に侵入して、パソコンの声を聞いたのか」


「正規の技じゃないから、ちゃんとセキュリティ対策をしてる機械の声は聞こえないんだけどね。相手のキャラ名はノトルニスでしょ?」


「どう言う事?どうして創流のパソコンがあの人のキャラ名を知ってるの?」


金髪の美少女は、険しい表情で創流に灰色の瞳を向けた。

その様子を見てニヤリと笑う怪盗。


「当たりか。ゲーム内の会話はパソコンが覚えていないくらい前だったし、メッセージにも重要な情報が無かったから、カマを掛けてみたんだけど」


それを聞いて、あっと声を上げるクウェイル。

まぁ、創流の表情が反応した時点でバレていたので、クウェイルがとぼけたとしても無意味だったんだが。

だからフォローする創流。


「もしもそのキャラに直接接触したら、サーバーを移動して改名すると思いますよ。兎に角、あの人は徹底的に引き籠っています」


「その引き籠もりが、どうして創流と接触したの?」


クウェイルが不機嫌そうな低い声を出す。

まさか味方に責められるとは。


「それは……。それをどう説明したら良いか分からないから悩んでいたって言うか……」


しどろもどろになっている創流を冷たい目で見るクウェイル。


「あ、そっかぁ。今日、ずっと上の空だったのは、そう言う事だったんだ。ふーん」


「やっぱり怒るよね。怒ると思ったからすぐに言いたかったんだけど、言えない事情も有るんだよ」


「怒ってないよ。ただ、仲間外れにされた気分になっただけ。あー、そうだ。この気持ち、仲間外れだ」


一人で勝手に納得したクウェイルは、乱暴に椅子を引いて立ち上がった。

畳の目に脚が引っ掛かり、くぐもった音を立てて倒れる椅子。


「とにかく、先祖は貴女に会わないから。じゃ」


吐き捨てる様に言い残し、足を止めずに鞄を拾って部屋を出て行くクウェイル。

クウェイルは、先祖の人が怒ると呆れて見下されると言っていた。

今のクウェイルが正にそんな感じだった。

仕草が先祖とそっくり、つまりこれが先祖返り、って事なんだろうか。


「あらら、怒っちゃったかな?」


他人事の様に軽く肩を竦めた怪盗は、手付かずのショートケーキを指差した。


「今日の所はこれまでね。また来て頂戴。貴方達ならずっと無料でご馳走するから。このケーキ、お土産に持って帰る?」


「正直貰って帰りたいですけど、包んで貰うヒマは無いです。今すぐ追い掛けないと。じゃ、そう言う事で」


慌てて立ち上がった創流は、急いでクウェイルの後を追った。

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