14.OB 割礼
大変ご無沙汰しています。
忘れられているかもしれないけど、久々のアップです。
お暇な時に読んでみてくださいね。
Circumcision 割礼 包茎の環状切除(包茎の皮剥き、って品がない?!?)
「チカ、今日はOBよ。」
挨拶もそこそこに、早速行き先を言われる。
「は~い。」
とりあえず元気に返事だけはして、ランチバッグを持ち直す。
そっか、今日はOBなんだ。ってことはたくさんのベイビーが生まれるってことかな?
なんてことを思いつつ、OBに向かって歩き出す。
新しく建て増しして、OBはその建て増ししたほうに移されてる。昔はすっごく狭い部屋にママ2人が入っていて、それにベビーベッドでも入れたら、本当に見動き取れなくなるくらいだったけど、今ではすっごく広い部屋になっていて、普通の出産だったら、そのままその部屋で出産できるようになってるくらい。
さすがに帝王切開は奥にある手術室の方で行われるけど、平均して帝王切開にかかる時間は30分前後、そのあとすぐに快復室として用意されている病室に移される。移って1時間くらいはナースが傍についているけど、その後は家族に任せてしまって、何か用事があればナースコールを押すようにといってあるらしい。
「おはようございま~す。」
ラ ンチボックスは休憩室にある冷蔵庫に入れて、手にしたドリンクカップを持ってナース・ステーションに行くと、どうもすでにミーティングを始めちゃってるみたいで、慌てて本日のミーティングに使われてる16号室に入った。
「遅くなりました。」
「あれ、今日はチカが手伝いに入ってくれるの?」
「トレイシーがここに来るようにって言ってたんだけど。そんなに忙しくないってこと?」
みんなの手元にある今日の患者のリストに視線を落とすと、確かにそこに書いてある名前のリストはそんなに多くない。
「あ~・・・手が足りてない訳じゃないけど、いてくれる方が助かるわね。」
「なんなんですか、それ。」
「まぁ、これからその事については話すから。」
なんか奥歯に物の挟まったような言い方だけど、とりあえずあたしは空いていた椅子に座った。
あたしが腰を落ち着けるのを待ってくれてから、今日の患者についての説明を夜勤のナースが始める。
「じゃあ、まずは2号室。ジョーンズさん、16歳。陣痛が始まって今朝3時過ぎに病院に入りました。今のところの感じだと、もうしばらくはかかると思いますね。」
う~ん、いきなり16歳の子供かぁ。
はっきり言って田舎だからか、子供達って他にすることがないのか、ここにいる彼女みたいに10代半ばって出産って意外と多い。あたしが以前一緒に働いていた子なんて14で息子を産んだって言ってたもの。
「3号室は、テイトさん、22歳。これが4人目です。つい先刻出産が済みました。出産時間06:15、女の子、20インチ、7.9パウンド。血液型ABポジティブ(+)です。」
って事は・・・・3.6キロくらいって事か、結構大きな女の子なんだ。なんてことを思いながら、言われた情報を渡されたリストに書き込んでいく。
とりあえず今日は出産予定が2人。それからすでに一昨日の夜から今朝に掛けて誕生した母子が5組。
部屋の中を見回すと、ナースは4人。それにあたし。
ちょっと眉間に皺が寄ってしまう。普段だったら、ナースが4人もいれば、あたしなんて必要ないのに。
出産を控えている2人に、ナースが1人づつ付くのは判ってるけど、残りの母子4人にはナースが2人もいれば十分。そりゃ確かに今日そのうちの3組は帰るみたいだから、その手続きなんかがあるということで忙しい事は忙しいんだろうけど、それにしても・・・・
「それから、今日特に注意してもらいたいのが、17号室のリースさんと19号室のリヴェラさんです。実は昨夜、――」
あたし達に説明を始めた夜勤のナースの話を聞いて、どうしてあたしが今日ここに回されたのか判った気がする。
なんでも昨夜、見回りに行ったナースが見つけたのは、ママのベッドに同じように寝かされていたリヴェラさんの娘の顔色が紫色になっていたらしい。それで慌てて保育室に連れて行ってみると、どうも放置されていたせいか体温が下がりすぎてそのせいで紫色になっていたんだとか。なんせナースが見たときには赤ちゃんはオムツをつけてただけであとは何にも身に付けてなかったんだとか・・・ママは自分が暑いから赤ちゃんも暑いだろうと思った、と言うのが言い訳らしいけど、それにしても裸のまま放っておいて寝ちゃうくらいだったら、せめて産着くらいは着せておいて欲しい。
とはいえ発見したナースは赤ちゃんの状態を確認して、慌てて彼女を保温用のケースに入れて温めたおかげか、体温も上昇してなんとか事無きを得た。
それからもう一人のリースさん。昨夜午前2時に彼女はナースコールで看護婦を呼んだらしい。それで部屋に行ったナースに言った台詞が『私の赤ちゃん、ちょっと紫に変わってない?』だったとか。そう聞かれて見せられた彼女の息子は、彼女の言うとおり紫色に顔色を変色させてグタッとしていたんだとか。
「え~っ、マジ?」
「とりあえず赤ちゃんは検査の結果2人とも異常なしと言うことですが、二人とも生まれたのが昨日の午後だったので、とりあえず今日の午後5時までは病院にいて、それから退院と言う事になってます。」
「退院って、そんな母親に子供を任せて大丈夫?」
「一応説明はしておきましたけど・・・確かに不安なので、退院前の注意事項を言う時に、もう一度念を押しておいてもらえると助かります。」
アメリカでは日本と違って、普通分娩だと24時間何事なしと判断されるとそのまま退院してもいい。帝王切開だと3日間病院に入院してからとなってる。
これが初産の普通分娩だと安全のために48時間の入院だから、今日の夕方退院ってことは二人ともこれが初めてって訳じゃないから、とりあえず何とかなるんじゃないんだろうか?
それにしても、子供を以前生んで育てておいて、そんなことをするなんて・・・
「ねぇ、そういえばこのリースさんって、確かナースよね?」
「そうそう、そういえば老人ホームで働いているって言ってたわね。」
「ナースなのに、赤ちゃんの顔色が紫になったって言うんですか?」
信じらんない。
「まぁ、ね。ナースって言ってもいろいろな人がいるしね。だから、チカ。今日のあんたの仕事は、この二人の部屋を行き来して、とにかくベビーの安全を確保してもらう事よ。」
「マジ? って、あたし子供いないけど、それでもそのくらい判断つくと思うんだけど・・・」
「そうね、普通に考えれば、ね。でもこの二人にはできてなかった。だから、とにかく退院して出てもらうまでは赤ちゃんの安全確保はしておかないと、もしここで何かあったなんてことになったら、病院としても困るから。」
そりゃそうだけど。目の前の夜勤ナースの言うことは判る。
もし赤ちゃんに何かあって、病院で死んだりでもすれば、大事になってしまう。
だけど、彼女の言い方を聞いていると、病院の中でさえ何事も起きなければ、家に帰ってから何があっても関係ないって言ってるようにも聞こえてしまう。
「チカ、ここにいる間に、赤ちゃんに気を配って気をつけるってことを身に着けて帰ってもらうようにするの。私達には退院した後の事まで、こまごまと指示をする事はできないんだから、ここにいる間にどうやって赤ちゃんを大事にしていくのかを身に着けてくれれば、赤ちゃんの安全も確保できるでしょ?」
「シェリー・・・」
あたしが納得いかないって顔をしていたのに気づいたんだろう。シェリーがあたしの肩を軽く叩いてくる。
「いろいろな母親がいるってこと。とりあえずベビーの事は頼んだわよ。」
「うん。」
とりあえずミーティングが終わって出て行くシェリーのあとに続いた。
それでも昨夜の出来事があったからか、とりあえず両方のママはそれなりに赤ちゃんの面倒を見ていた。オムツの交換やミルクをあげるところなんかは、さすがに初めてじゃないだけあって上手なもので。
それをみてホッとしながら、それでも何かと用事を作っては両方の病室に足を運んで赤ちゃんとママ達の様子を見る。
ここで働き出して気づいた事なんだけど、アメリカ人とメキシコ人だと赤ちゃんの世話の仕方がちょっと違うってこと。みんながみんなそうだとは言わないけど、今まで見た中でメキシコ人のママは赤ちゃんのオムツをまめに替えない。小児科のナースから聞いたことあるけど、1日1回だけ替えるなんていう母親もいたんだとか・・・・もちろんそんな赤ちゃんのお尻はオムツかぶれで真っ赤になってて。
だからじゃないけど、メキシコ人の生んだばかりの赤ちゃんのオムツが濡れたままで大きく膨らんでいるなんていうのをみることは珍しくない。あたしは最低でも4時間おきに血圧その他のチェックをしないといけないから、そのために部屋に入るけど、その度に膨れ上がったオムツの赤ちゃんを見ると可哀そうで・・・
ここにいる間はあたしが気をつけることもできるけど、家に帰ってからのことはどうしようもない。
ナースはその国によって習慣が違うからって言うけど、これはちょっとそういう問題じゃない気がする。
ここでのあたしの仕事は他の病棟とは違ってる。患者は基本的に病気じゃないから自分で自分のことができるということで、ベッドメイクはするけど、清拭とかはしない。シャワーのためのタオルとかを用意して、シャワーのあとで使用済みのものをランドリーバッグに入れて片付けるだけ。
ある意味、楽と言えば楽なんだけど、その代わり母親がいない時は代わりに赤ちゃんの面倒を見なくちゃいけない。赤ちゃんと生んだからと言って禁煙するわけでないママは、赤ちゃんをナースステーションに連れてきて、煙草を吸いに行く。点滴の必要な赤ちゃんも目を光らせるってことで、部屋から出されて保育室に連れて行ったり、人手が足りない時はナースステーションに連れてこられる。
そんな母親を見ていると、生まれたばかりの赤ちゃんが可哀想で、だけどどうしようもないのが現実。
ちょっとだけ物思いに耽っていたら、肩を叩かれた。
「チカ、ドクターがきたから、これからリースさんのベイビー・ボーイを連れてナーサリーにいくわ。悪いけどその間、ちょっと電話番してくれる?」
「は〜い。検査?」
「違う違う、Circumcision(割礼)よ」
「はっ?」
Circumcisionって一体何の事だろう、と頭にハテナが並ぶ。
きっとそれが顔に出ていたんだろう、シェリーが苦笑を浮かべている。
「Circumcisionっていうのは、おちんちんの皮を切って、中を出しちゃう事」
あ〜・・・それって、もしかして。
「包茎の皮剥きよ」
やっぱり・・・
思わず顔が熱くなる。きっと赤くなっているんだろうなと思うけど、こればかりはどうしようもない。
「ヤダ、チカ。何照れてんのよ。日本じゃしないの?」
「今は判らないけど、少なくとも私が日本にいた頃は、Circumcisionっていうのはちっともポピュラーじゃなかったと思う」
きっぱりと言いきれるほど知らないから、そう言うしかない。
「ふぅん、こっちだと生まれた時にやっちゃうわよ。その方が大きくなってからより簡単だしね。それに記憶に残る年齢でしちゃうとトラウマになっちゃうこともあるみたいだし」
「痛いから?」
「そりゃそうよ。それにやっぱり急所を曝す事がねぇ」
あぁ、何となく判る気がする。
気がするって言うのはあたしは男じゃないから、それ以上は想像でしかないので、判るような気がするだけなんだけど。
とにかくそれで話が終わったと思ったのか、シェリーはそのまま赤ちゃんの入ったベビーベッドを押していく。
その後ろ姿を見送りながらも、何となく複雑な気持ちだった。
だって、それから数分もしないうちに、ナーサリーから聞こえてきたのは赤ちゃんの叫び声というか大泣きの声だったから。
きっと一生本当には判らないけど、痛いんだろうなぁ・・・・
そう思いつつ、言われたようにベビーをチェックするために、リヴェラさんの部屋へ行く。
まずは赤ちゃんの肌の色チェック。
うん、大丈夫。ちゃんとうっすらとピンク色。血色がいい。
体温を測ると華氏98.3度(約摂氏36.8度)だから、これなら安心していられる。
そのままついでにとおむつをチェックしてみると、無茶苦茶膨れ上がっている。
思わず漏れそうになる溜息をぐっと堪える。
「赤ちゃんのおむつが濡れているから、ついでに交換しておきますね」
「・・・」
何かボソボソと言ったけどよく聞こえなかったから、それは無視してそのまま手袋をはめた手で交換する。
多分あとでするとか言ったんだろうけど、きっとしないだろうから。
おむつを外してお尻を見ると、思った通り赤くなっている。
可哀想に、と思いつつワイプで綺麗に拭いてあげてから、新しいおむつをつけてあげる。
やっぱりって言っちゃいけないんだけど、それでもやっぱりって思ってしまう。
リヴェラさんはメキシコ人だから、こんな事になっているんじゃないかって心配していたんだ。もしかしたら今朝あたしがおむつを替えてから交換していないのかもしれないと思う。
だけど、あたしにはおむつ交換を強制するだけの権限がない。他のナースにだってない。
そう思うと、ちょっとだけ切なくなってしまう。
でも今赤ちゃんのお尻はまたドライだからしばらくは大丈夫、と自分に言い聞かせながら部屋を出ると、丁度リースさんの赤ちゃんがナーサリーから出てきたところだった。
赤ちゃんはもう泣いてない、その事にホッとしてベビーベッドを覗いてみると、緩く留められたおむつが目に入る。
「チカ、ちょっと見てみる?」
「えっ、ちょっとそれは・・・」
見たくないなと言いかけたあたしより手早く、シェリーがおむつを開けてみせると、そこにはむき出しになった部分を真っ赤にした股間が。ガーゼを貼っている訳でもなく、ただワセリンみたいなものが塗られているだけのそれが、見ている目には本当に痛々しく見える。
「痛そう・・・そりゃ泣く筈だよねぇ」
「でも、記憶に残らないから」
そう言う問題なのか? と突っ込みたいが、ヘラッと笑ってごまかす。
シェリーの手でまたおむつをつけられた赤ちゃんは、そのままママの待っている部屋へと連れて行かれていく。
そのベビーベッドを見送りながら、思わず大きなため息を零したのは言うまでもない。
さて、いかがでしたでしょうか?
アメリカでは当たり前なんだそうです。90%以上の親が、退院前に割礼を住ませる事を望むのだとか.たまにしない人もいるけど、そう言う人は宗教的な理由だそうです。
日本を離れてかなりになるので判りませんが、今では日本でもやるんでしょうかねぇ・・・